第50話 巨大オーガの襲撃と反撃の準備
合体したゴブリン砂漠と森オーガのダンジョンは、ダンジョン内に入った際はランダムな位置に飛ばされるシステムになっていた。そして入ってきた入口は消えている。
つまり後戻りはできない。進んで制覇する以外の道はない。
7大ダンジョンはそういうことを普通に行う。そのため難易度が跳ね上がっているダンジョンである。
「玉藻。2号機と3号機の改修状況はどうなっている?」
《後1時間くらいですね。それが終わればすぐに合体可能になります》
なら。
「ナツメ、しばらくこの場で待機。
敵が出てきたら、敵が少ないほうへ逃走する。
魔動騎士が合体機になったところで反転し、敵を叩く。
この方針で行く」
「分かりました。我が主は敵の『探知』をお願いします」
俺たちは最大戦力をもって、このダンジョンを進み制覇する。そのため今は時間稼ぎを行うこととした。
これならダンジョンに入らずに、合体機になってから入ればよかったと思う。
《想定していたゴブリン砂漠はゴブリンくらいしか出ないと考えていましたから、魔動騎士1号機で十分対処可能と思っていました。
申し訳ありません。完全に想定外でした》
玉藻が謝罪してくるが、この件は俺も同罪だ。
「……玉藻。俺も少し油断していた。
だから気にするな。それより改修を急いでくれ」
俺は広範囲で『探知』を行う。
「ナツメ、探知には敵を確認できない。
しかし『探知』を搔い潜る術がないわけじゃない。
警戒を強めてくれ」
敵は確認できないが、何か嫌な予感がする。俺は魔動騎士1号機への魔力の供給を増加させ始めた。
「……敵を木の上に確認!囲まれています!!」
ナツメの声に慌てて上を確認する。完全に俺たちは囲まれていた。
20メートルくらいあるオーガたちが、木の枝の上にいる。
俺は『探知』を水平方向に行っていた。自分たちの頭の上に敵がいることは、完全に想定の範囲外だ。
「この場より全速で離脱します」
ナツメの声とともに、魔動騎士1号機が全力で走り始める。オーガたちは魔動騎士1号機を取り囲んでいるが、全ては木の上にいる。
全力で走り抜ければ、逃げ切れるかもしれない。
「我が主。下は砂地で走り難く、『探知』の範囲外には元々地上にいる個体もいます。
有利になるような位置取りは気を付けますが、乱戦になることは間違いありません」
そこまでうまくはいかないようだ。
魔動騎士1号機は大剣『フレイムガイア』を振るう。相手は『魔法無効』と『物理攻撃耐性』を持つオーガだ。
倒せないことはないだろうが、かなり厳しい戦いになるだろう。
何か朗報はないのだろうか。
《……推測でよければ、あります》
玉藻が俺の声に応えた。
《大量のオーガをここまで巨大化させるためには、かなり対象の魔力が必要になります。さすがのゴブリン砂漠でも、それは無視できない量のはずです》
つまり?
《このダンジョンの広さは他の7大ダンジョンと大差ない広さだと思われます。
オーガは考えなしに魔力を消費します。そのためダンジョンを拡張するような魔力がこのダンジョンに残っているとは考えられません》
なるほど。ならボス部屋までの道のりが数十年以上かかるようなことは無いということか。
《ですです。つまり力でねじ伏せれば、制覇可能です》
下手すれば太陽系くらいの広さを考えていたので、そうでないとすれば確かに朗報だ。
「なら戦って勝てばいいということですね!」
魔動騎士1号機は専用武器の大剣『フレイムガイア』を振るい、巨大なオーガを切り裂いていく。しかし今回は数が多い。
「何か手はないのか?『呪』や『氷』、『火』等で倒すことは難しいか!?」
目の前には憎いオーガの群れ。さすがに生存本能が警鐘を鳴らすような状況のため、憎しみに飲まれるようなことは無い。
しかしそれでも一網打尽にしたいという気持ちが湧いて出てくる。
《難しいですね。オーガは『魔法無効』があります。それで大抵無力化されてしまいます。現状は大変ですが、1対1対を確実に倒していくほかありません》
玉藻の分析は正しい。それは分かる。しかしこのままでいいとは思えない。
オーガは殲滅すべき存在だし、皆殺しにしなければならない。全ての個体の息の根を止めなくてはいけない。
そのためにはどうすればいい?魔法は効かない。物理も耐性があり、強力な一撃でなければ通用しない。
ゲーム世界では魔力を枯渇させて、倒している。
《ご主人様。先に言っておきます。
このダンジョンは魔力を生み出し続けるゴブリン砂漠でもあります。
魔力の枯渇は現実的ではありません》
…………そうか。そうすると全滅させることは難しいということか?
《残念ながらそうなります。
ご主人様、私たちの目的を間違えないでください。
私たちの目的はオーガの殲滅ではなく、このダンジョンの制覇です。
魔動騎士を合体させた後は合体機で敵を蹴散らしながら、ボス部屋を目指します。
その際に殲滅を行うほどの余裕はありません》
玉藻の言っていることは正しく、俺のほうが間違っているのだろう。それでも納得できない気持ちがある。俺はオークを滅ぼしたオーガを許したくない。殲滅したい。
だがそれは既にゲーム世界で終えた話のはずだ。今の奴らはダンジョンコアの生み出したモンスターで、ダンジョンコアさえ掌握すれば消し去ることができる存在だ。
「……玉藻。魔動騎士2号機と3号機の改修を急いでくれ。
改修を終えればすぐさま合体させて、この包囲から脱出してボス部屋を目指す」
《ご主人様……》
玉藻が嬉しそうに声を漏らす。
「玉藻。ダンジョン制覇後にお前がダンジョンコアを掌握したときは、全てのオーガを消し去れ。
これは『命令』だ」
《……分かりました。『命令』お受けいたします》
普段は使っていないが、玉藻は俺の『奴隷』である。そのため俺には玉藻に対して『命令権』がある。
玉藻がその気になれば俺を『洗脳』して解除できるようなものだが、それでもほとんど使っていなかったものだ。それを使うということはそれだけの重みがある。
玉藻も余程のことがない限り、この『命令』は実行しなければならない。ちなみに『夜の訓練』に関することは、俺は『命令』できない。
俺に耐性を付けるための訓練であり、『命令』しても『洗脳』して拒絶すると断言されていた。
まぁつまり玉藻の意志が優先されるということである。
《私が優先するのはご主人様ですよ?
ご主人様のためにご主人様の『命令』を拒否しているだけです。
私利私欲はそこにはありません》
玉藻の注意を受けて、俺は状況を見直す。
現在魔動騎士1号機は魔動騎士と同じ大きさのオーガの群れに囲まれていた。
ナツメの操縦により何とか倒されることなく、戦い続けることができている。
魔動騎士1号機は木々を蹴って飛び上がり、立体的な動きをすることでオーガに対抗していた。
そこで俺はふと疑問に思う。
魔動騎士1号機に蹴られた木は、傷付いていた。
ダンジョンなのに?
《確かに妙ですね。この木がダンジョンの一部なら傷付くことはありません。
傷付く以上はダンジョンの一部ではない。
ではこれは一体……?》
玉藻もこの異常事態に疑問を呈する。
ここは『ゴブリン砂漠』と『森オーガ』が合体したダンジョン。
地面は『砂漠』。敵は『オーガ』。木々があり『森』。なら『ゴブリン』は?
《……そうか。この木がゴブリンです。
ゴブリンが木に進化したんですよ》
なるほど。それなら辻褄が合う。そしてそれなら対処方法がある。
《ですです。木がダンジョンの一部なら破壊不可能でした。
しかしこの木がゴブリンだとしたら、討伐可能です。
そしてゴブリンの木が魔力の発生源としたら、それを消し去ることで魔力の濃度を下げることができます》
光明が生まれた。この状況を打開する一手だ。
「ナツメ、『フレイムガイア』で木々を破壊しながら進め。
これは恐らくゴブリンで、倒すことが可能だ!」
俺は興奮しながらナツメに指示を飛ばす。
《主様。2号機の改修が完了しました》
《マスター!3号機の回収が完了した!!》
真琴とホワイトから魔動騎士の改修が終わった連絡が来た。これで魔動騎士合体機への強化ができる。
ここからは反撃の時間だ。
俺は大きな笑みを浮かべた。
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