第49話 消えた森オーガとゴブリン砂漠
ある意味定例となったホテルでの打ち合わせ。
玉藻が珍しく困り果てた顔をしていた。
「……まず最初に、『森オーガ』と『ゴブリン砂漠』は後回しにしていました。
理由はそれぞれ違います。
ゴブリン砂漠については、その内部が広大であることが予想されます。
そのため不正ツールアイテム等がないと、攻略は困難と判断し後回しにしていました」
「玉藻。不正ツールアイテムの仕様は7大ダンジョンの全てを制覇しないと難しいといっていませんでしたか?」
ナツメが以前の打ち合わせの内容から、玉藻に質問する。
「ですです。しかしもしかしたら5つを制覇したら使えるようにならないかという淡い期待を寄せていたのですよ。
しかしそれも無理そうですね。吸収したダンジョンコアの情報を総合的に判断すると、ゴブリン砂漠をどうにかしない限りは使用できないと思われます」
なるほど。
「ではもう一つの森オーガについてはどうなんですか」
真琴が玉藻に尋ねる。
「森オーガについては理由が簡単です。
ダンジョンの入口の場所がわかりません」
ん?どういうことだ?
「探索者ギルドの情報やその他の情報を精査しても、森オーガについては入口が見つからないんです」
玉藻の耳が垂れて、ずいぶんと困っているのが見て取れる。
「ならゴブリン砂漠の場所は分かるのか?」
俺は玉藻に尋ねる。
「ええ、それは判明しています。ゴブリン砂漠はサハラ砂漠にいあります」
サハラ砂漠。それは世界最大規模の砂漠だったか。
「ですです。その砂漠の中にゴブリン砂漠の入口があります」
「なら先に場所が分かっているゴブリン砂漠を攻略するしかないか」
ホワイトの言う通り、先にゴブリン砂漠を制覇するしかないか。
「それよりホワイト。ゴブリン砂漠と森オーガに行った残りはどんな奴ですか?」
玉藻は気を取り直して、ホワイトへ質問した。
「ゴブリン砂漠に向かったのは『黄色天』『剣聖』『イエロー』で、森オーガのほうが『緑色天』『拳聖』『グリーン』だ。
言葉では分かり難いが、ゴブリン砂漠が『剣』で森オーガが『拳』の方になる」
「やはりその情報から森オーガの場所を特定することは不可能ですね。
気が進みませんが、ゴブリン砂漠を先に制覇することを目的としましょう」
玉藻は大きく肩を落とす。
「ゴブリン砂漠の攻略については、魔動騎士1号機を使用します。
いつも通り私と真琴とホワイトは従魔空間で待機です。
恐らくかなりの広さになっているはずですので、長期戦を覚悟してください」
「空を飛べる2号機のほうが速度を出せるんじゃないか?」
俺は疑問を口にする。
「現在魔動騎士2号機と3号機は、1号機との合体機能追加のため改修中です。
現地までは通常の交通機関を利用し、サハラ砂漠で1号機に乗り換えます。
その後ゴブリン砂漠内において、合体する予定になっています」
その話は聞いていなかった。
「2号機の操縦者は真琴、3号機はホワイトになっています。
従魔空間で待機していた時に、訓練を行っていました」
「ナツメは知っていたのか!?」
俺は驚き、ナツメを見る。ナツメの方は驚きもなく、普通の状態を維持していた。
「我が主。この計画の肝は私ですので、当然知っておりました」
俺だけ仲間外れか?俺は心の中で泣いた。
「サプライズです。
それで問題となるのが、合体後の呼び方です」
玉藻は真剣な顔つきで俺を見ている。
「……騎士から『王』にしたらダメなのか?」
「ダメです。それはメタ的な意味でダメです」
俺は思いつきを口にするが、それはダメらしい。
『実在の作品と名称が被るのは作者的にNGです。特に今回はその作品から設定をイメージしている部分が多いので特にダメです。』
なら適当に考えるしかないか。
「『魔動騎士合体機』でいいか」
「まぁあまり悩むような事柄でもないですからね。
合体機で行きましょう。では私は改修の続きがあるので、従魔空間で行っておきます。
ご主人様はナツメたちとサハラ砂漠に向かってください」
こうして俺たちはゴブリン砂漠に向けて動き始めた。
******
過酷な旅であった。
特に問題などは起こっていない。いつも通りだ。しかし過酷な旅であった。
具体的には夜になると玉藻が従魔空間から現れて、俺たちに状態異常の耐性の訓練を行う。
7大ダンジョンに入る前日やダンジョン内、ダンジョンから出た直後は免除されていた。しかし今回は移動にそれなりの時間がかかり、その間は玉藻による『夜の訓練』が行われていた。
本当に過酷な訓練であった。そのため過酷な旅となっていた。
ちなみに全員参加です。もう一度言いますが『全員参加』です。
もう普通の生活には戻れないような気がしてきた。
……大丈夫かな、俺。
《ご主人様。ご主人様の心の中は私が常に見張っております。
ですので大丈夫です。何かあれば私が『直します』。
安心してください》
玉藻の声を聞いて、俺の心が軽くなるのを感じる。
『洗脳』されているんだなと感じている。
それにしても『治す』ではなく、『直す』か。俺の心はそういうものなんだな。
《気にしないでください。『それは不必要です』。
安心してゴブリン砂漠に向かってください》
玉藻の声で俺の心が改ざんされて、作り直されるのがわかる。
不思議な安心感を感じながら、俺は魔動騎士1号機へ魔力供給する。
俺たちは現在サハラ砂漠を魔動騎士1号機で移動中だ。いつも通り操縦はナツメ。俺は動力源。玉藻たちは従魔空間で2号機と3号機の回収を行っている。
「ナツメ、ダンジョンの入口となる扉は見つかったか?」
そう言いながらも俺も映像を共有しているので、そちらで確認する。
「まだ見当たりません。もう少し先だと思われます」
こちらについては探索者ギルドで扉の場所は確認されているので、そこへ向かえばいいだけである。
まだ気楽な状況だ。
《正直に言いますと、ダンジョン内はどのような変化があるのか不明です。
何が起こってもおかしくありません。
私たちの情報はゲーム世界でのものと、それに基づく推測だけです。
ダンジョンに入る際は気を引き締めていただくようにお願いします》
玉藻が釘をさしてくる。しかしこれから行くダンジョンはゴブリン砂漠である。
ゲーム世界では広いだけのダンジョンであった。敵はゴブリン。俺の敵ではないだろう。
ただ油断は禁物だ。玉藻の言う通り、どのような進化を遂げているのか分からないのだから。
「……我が主。ダンジョンの入口を発見しました。
大きさ的に魔動騎士1号機で突入可能です」
俺が色々と考えているうちに、ダンジョンの入口が見えてきた。
「ナツメ。扉の前で一時停止。武器を取り出すから、武器を構えて突入してくれ」
そうこう言っているうちに、魔動騎士1号機はダンジョンの入口の扉の前に立つ。
ダンジョンの入口である扉は、扉だけがそこにあった。
イメージとしては『どこ』に『でも』行ける『ドア』のような感じである。
20メートルの人型ロボットが使用できるほどの大きさがあり、両開きの扉であること以外は先程のイメージで問題ない。
扉をくぐった先はダンジョンの中だ。
魔動騎士1号機は俺が取り出した専用武器の『フレイムガイア』を構えると、扉をくぐりゴブリン砂漠の中へと足を踏み入れる。
「……森の中?」
魔動騎士1号機から見える映像は、20メートルある魔動騎士1号機よりも大きい気がそびえたつ森の中であった。
「どういうことだ。何故森の中にいる?
ナツメ!周囲の警戒を怠るな!!」
俺は予想外の状況に声を荒げる。
「……目視では敵を確認できません。
我が主。『探知』をお願いします」
ナツメに言われて、俺は今さらながらに『探知』を発動させる。本来なら俺がすぐに行うべきことであった。
「『探知』したが敵確認できず。
ナツメは警戒しつつ前進してくれ。俺は『探知』を定期的に行うこととする」
《……ご主人様。恐らくですが、ゴブリン砂漠と森オーガは一体化していると思われます》
どういうことだ?
《ゴブリン砂漠は文字通り砂漠でした。それはご主人様もご存じ通りです。
そして現在は森になっています。森のダンジョンは森オーガです。
ですので2つのダンジョンが合体したものを推測します》
つまり?
《ここが最終決戦場です》
なるほど。……ん?
玉藻と離している間に俺の『探知』に反応があった。
「ナツメ、2時の方角に敵を補足した。
警戒しつつ、戦闘準備!」
「了解。戦闘準備に入ります」
この森は視界が悪い。木々が生い茂っているため、薄暗い。
しかも足場が……。
「砂?」
地面は砂地になっていいる。木々がそびえ立っているが、地面自体は砂になっていた。
玉藻の言う通り、ここはゴブリン砂漠であり森オーガでもあるということか。
俺が考えているうちに魔動騎士1号機は進み、敵を捕捉する。
「我が主。敵を確認。オーガです。
オーガ1体を殲滅します」
無茶苦茶である。昔見たオーガは2メートルくらいであった。しかし今戦おうとしているオーガは、魔動騎士と同じ20メートルくらいある。
オーガの大きさが10倍近くになっている。
《魔力の過剰摂取ですね。元々オーガにそのような素養がありました。
オーガは魔力を大量に食うことで、体を巨大化させることが可能です。
しかしその量の魔力は通常用意することは不可能です》
ゴブリン砂漠はゴブリンによって魔力を生み出し続けている。そんなゴブリン砂漠なら、オーガを巨大化させるくらいの魔力を準備することくらいは可能だろう。
状況証拠だが、ゴブリン砂漠と森オーガは合体したとみて間違いない。
ゴブリン砂漠の溢れる魔力で、オーガを強化し迎撃することをダンジョンは選択したということだろう。
初遭遇のオーガについてはナツメの操縦が上達していることもあり、一刀両断にすることができた。
問題は敵が複数出てきた時だ。
この探索も一筋縄ではいかないようだ。
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