第17話 洗濯と洗浄魔法
時間はかかったが無事に乳牛ミノタウロスダンジョンも、ダンジョンボスを撃破することができた。
他の探索者たちからは白い目で見られているが、これで俺たち3人は上級者として認められた。
「白い目で見られているのはご主人様だけですよ。
私と玉藻については、イヤらしい目で見られています。主に男性から。
ご主人様は嫉妬と嫌悪の目で見られています。前者は男性、後者は女性です」
ナツメが淡々と残酷な真実を伝えてくる。
「ランクが上がってきましたし、そろそろ対策を考えたほうがいいかもしれませんね」
俺たち3人はいま、ホテルの一室にいる。今日はダンジョンに潜らず、状況確認などを行う予定と玉藻から聞いている。
「玉藻、対策って何だ?」
「足を引っ張ってくる愚かな相手に対する対策です」
玉藻はにっこりと笑っている?顔だけ見ると笑っているが、雰囲気は笑っているように感じられなかった。
「私たちはかなりの速さで上級者へと昇っています」
玉藻の事実確認に俺は首を縦に振る。
「最初の方は目立たないように隠れたり、空いている時間を選んでギルドを利用していました。
それでも私の美貌から注目を集めてしまいました」
「自意識過剰?」
ナツメは口が悪いようだ。玉藻は額に血管を浮き上がらせながら、話を進める。
「そこにナツメの加入と上級者への昇格です。
嫉妬に駆られて、襲ってくる人間がいてもおかしくないでしょう」
「確実に我が主が狙われますね」
玉藻の言葉をナツメが補足する。確かにギルドで絡まれるとしたら、俺だろう。
「探索者は魔道具と呼ばれる魔法が込められた武器を持っています」
「……それはどこで手に入るんだ?」
「ギルドで売っています。人気なのは刀ですが、実用的なのは銃です」
なるほど。接近戦の刀より、遠距離攻撃できる銃のほうが安全に戦えるか。
「話を戻します。さすがにギルド内で銃を抜くことはないと思いますが、刀は普通に抜いてきます」
やばいな。
「刀も魔道具ですから、何らかの魔法が込められています」
玉藻の言葉に俺は頷く。
「そんな相手と戦う可能性が高いわけですが、対策としてこちらも魔道具で身を固めたほうがいいと思います」
俺の職業に『錬金術師』と『鍛冶師』がある。これらを使えば魔道具の武器の作成も、可能だろう。
早速俺は武器の作成に取り掛かった。
******
武器の作成は問題なく終わった。いくつかの中級者向けのダンジョンに潜り、武器の慣らしを終えたころにそいつらは現れた。
色々訳が分からないことを言っていたが、要約すると『気に食わない』ということだろう。
そいつらと俺が模擬戦を行うこととなった。場所は探索者ギルドの訓練場。時間は今。
まさに始まろうとしていた。
相手は中級者の刀使い。魔道具の刀を抜いている。この世界では模擬戦を真剣で行うようだ。その分相手も俺も、身を守るための防具を身に着けている。
「……それでは始めるぞ。準備はいいな」
相手の男が刀を構える。間に立つ中立といっていた審判が合図を出す。
「始めっ!!」
こちらは何も言っていないが中立性はどこに行ったのだろうか。
「疾風切り!!」
相手の男の掛け声とともに、刀が振るわれ風が起こる。風の刃は俺の鎧を傷つける。
なるほど。風の属性が付与されているようだ。
俺は落ち着いて相手を見ている。最初の一撃から俺の鎧に、通用しないことが分かった。ならば落ち着いて反撃すればいい。
「何っ!!鎧が再生した!!」
俺の鎧は常に魔力を帯びて、万全の状態に再生させている。そうしないと、何度かの攻撃で破壊される恐れがあるからだ。それに魔力はすぐに回復するから問題ない。
「魔剣『光輝』」
俺は自分の持つ魔剣『光輝』に魔力を充填させて発動させる。この魔剣『光輝』の能力は力強く輝くのみ。つまり光るだけである。
「目っ、目が~~」
当たり前だが急に光り輝くものを見れば、目がつぶされる。対戦相手と審判が目を抑えて苦しんでいた。
「くらえ、『一閃』」
俺の一閃が『審判』を切り裂く。俺の進路上で暴れているため、仕方がない。
「『一閃』」
今度こそ俺の一戦は対戦相手を切り裂いた。俺の勝ちである。
******
ギルドからは厳重注意を受けた。解せぬ。
「審判を斬ったのが、まずかったようですね。
ですが審判であるギルド職員を斬り裂く危険人物として、しばらく絡まれることはないと思いますよ」
玉藻は結果に満足したのか、ニコニコ顔だ。
「ギルド内の評判は最悪です。これなら仲間になりたいとかいうやつもいないでしょう」
ナツメもにっこり笑っている。
別にそんなことは狙っていなかった。だが結果だけ見れば俺たちにとって、最良の結果といえなくもない。
「次の目的はどこになる」
俺は玉藻に尋ねる。そういうものは全て玉藻の管轄だ。
「もう少し自分で考えたほうがいいですよ」
そういいつつも玉藻は嬉しそうに微笑んでいる。
「次のダンジョンはゴーレム鉱山です。敵はゴーレムで様々な金属を手に入れることができます」
俺たちの目の前にあるダンジョンがゴーレム鉱山か。
「ですです。様々な材質のゴーレムがここでは現れます。
ゴーレムの材質と手に入る金属に関係はありません」
つまり鉄製のゴーレムからアルミニウムが手に入ったりするわけか。
「ですです。下の階層のゴーレムほど硬く強いです。
そのため慎重に進める必要があります」
下の階層に行けば行くほど、一度に現れるモンスターの数は増える。それ以上に下の階層のゴーレムは硬さが増す。つまり強くなる。
「階層ごとの難易度が急に跳ね上がるということか?」
「その認識で間違いありません」
玉藻が深刻な顔で頷いている。
「私にお任せください、我が主」
ナツメが自信満々に胸を張る。大きい。
「……頼りにしているぞ」
俺たちはゴーレム鉱山に足を踏み入れた。
******
「ここのダンジョン嫌いです」
ナツメが泥まみれになりながら、愚痴をこぼす。
最初の階層にいたのは泥のゴーレムであった。倒すことは特に難しくはなかった。剣で楽に斬り裂くこともできた。しかし泥で汚れた。
「モンスターを倒したら泥汚れは消えないのか?」
通常のモンスターの場合はどうだったのだろうか。
「消えませんね。
通常のモンスターは出血などしません。わざわざ力を流出させる意味が分かりません。
だから普通のモンスターでは汚れないんですよ」
玉藻が俺の疑問に回答する。
「ナツメはどうする?」
ナツメは泥ゴーレムとの戦いで、泥に汚れていた。
「水球を使い丸洗いでいいのではないですか」
玉藻は水球を生み出すと、そこへナツメを入れる。水球の中でナツメは回転させられ、洗濯されていく。
「ナツメは普通の人間と違い、水中での活動が可能です。またこの程度の回転なら中にいても全く問題ありません」
玉藻が言い訳を行っている。
「『洗浄』という魔法はないのか?」
「ありませんね。しかしご主人様なら製作可能と思います」
俺は『魔法使い』という職業を持っている。この職業では魔法を生み出すことはできない。覚えることができるだけだ。
『大魔導士』という職業も持っている。こちらは魔法を作り出すことができる。こちらを使えば新しい魔法を生み出すことができる。
忘れていた。というより、出来ることを認識していなかった。
「ご主人様はご自身が持つ職業で何ができるのかを理解されていません。
ですからその力を活かしきれていません。
ご主人様の成長が、この先必要になっています。
それを覚えておいてください」
玉藻が俺に頭を下げていた。とても真面目に俺に意見していた。
何かわからない緊張感が走る。かなり重要なことだとわかる。
俺にそれができるのだろうか。
「ご主人様ならできます」
玉藻は頭を上げ、優しく微笑んでいた。
俺は少し頑張ってみようと思った。
「そろそろナツメの方はいいですかね」
ナツメに目を向けると、水球は解除されていた。されていたがまだ回転は続いている。
むしろ先程より激しく回転していた。さっきまでは水球の中ではナツメが中心で回転していた。
今は水がなく空中で、透明なドーナツに入っているように回転している。
「脱水中です」
玉藻が状況を報告する。ナツメの回転は徐々に弱まっている。洗濯が終了したのだろう。
謎のブザー音とともにナツメの回転は完全に止まった。
「洗濯終了です」
玉藻の洗濯を終えたナツメは、大まかな汚れは落ちていた。それでも少ししみになっていたり、汚れが残っていた。
「やはり洗剤が必要ですね」
結局ナツメは俺が『洗浄』魔法を生み出して、それで完全に綺麗にした。
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