第18話 他の探索者との遭遇



ゴーレム鉱山の探索は慎重に行った。最初は敵も弱く、数が少ない。


しかし階層が変われば、それが一変する。


急激な敵の強さの上昇。これがこのダンジョンの怖さである。


「現在のところは順調だな」


俺の言葉に玉藻とナツメが頷く。


今のところ出てくるゴーレムは泥や木で作られたもので、俺の剣の一撃で破壊することができる。もちろんナツメも同様だ。


現在は楽勝。その分、手に入る金属の質も悪い。種類以前に質が悪いのだ。


「溶かせば、何とかなるのか」


「厳しいですね。様々なものが混ざっていて質が悪いです。

 錬成すれば使い物になるかもしれませんね」


『錬金術師』を用いた錬成か。手間だな。

ギルドに持ち込んでも値段は安そうだし、あまり評価にもならなさそうだな。


「それについてはその通りですね」


玉藻は淡々と話す。


「それより次の階層に行こうよ」


ナツメは相手が物足りないのか、早く次の階層に行きたいようだ。


「そろそろ気をつけろよ。

 種類が違うと強さが違うのだから」


「それは何度も聞いたよ」


ナツメは膨れ面で答える。そういう姿は少し幼く見えて可愛い。


それに対して玉藻は、少し大人のように見えた。


「では行きましょうか」


玉藻が微笑んでいた。


心の声を読まれるのは、少し大変だ。


次の階層では岩でできたゴーレムが出てきた。ナツメはまだ余裕がある。俺の方は『一閃』を使えば倒せる程度だ。


油断はできないが、まだまだ大丈夫だ。


「この階層は大丈夫そうですが、この次の階層は少し危険ですね」


玉藻は警戒している。


「確かにそうですね。私はまだまだ大丈夫ですけど、我が主は少し危険ですね」


ナツメも珍しく、慎重な意見を述べている。


「相手の実力が分からないわけじゃないんですよ。

 鉄や鉄より硬い金属のゴーレムが出てきたら、『チームが』危険なことくらいは分かります」


ナツメが俺の心の声に抗議する。


確かにまだ大丈夫だ。しかしこれ以上強くなると、俺や玉藻は危険かもしれない。


「……我が主?玉藻なら大丈夫だと思いますよ。

 あれは実力を隠しているだけです。

 多少無理しても、平然と対応すると思います」


ナツメの言葉に、俺は玉藻を見る。玉藻はいたずらがバレた子供のように、視線を逸らしている。


「……ご主人様を成長させるためです。

 そう、ご主人様を成長させるために実力を隠していたのです。

 決して、楽しようなんて考えていません」


玉藻の目は笑っている。言葉に説得力がない。


「……実際のところはどうなんだ?」


思ったより俺は低い声を出していた。


その様子を見て玉藻はあきらめたかのように肩を落とすと、呟くように答える。


「……精霊を取り込み強化したことで、私の魔法の力は増大しています。

 またご主人様と魔力のラインが繋がっているため、魔力の消費を気にせずに魔法が使えます。

 事前情報から判断して、このゴーレムダンジョン程度なら私一人で十分です」


「玉藻は俺から離れても魔力の供給を受けられるのか?」


「はい。距離は関係ありません。

 同じものを緊急用として、ご主人様からナツメへと繋げています」


玉藻は吹っ切れたのか、俺を見て真面目に答える。今度はナツメのほうが目を逸らしていた。


「ナツメがそれを使わずに、直接魔力を吸収している理由は?」


「恐らくスキンシップを図りたいからでしょう」


玉藻はナツメを横目で見ながら、笑みを浮かべている。


「バラすなんて酷いですよ……」


ナツメが小さく呟く。


「先にバラしたのはあなたの方でしょう」


玉藻とナツメが言い合いをしている。それを見ながら、俺は判断する。


「先に進もう。玉藻やナツメにはまだ余裕がある。

 俺は少し不安だが、進みながら考えればいい」


「「分かりました」」


二人が同時に頭を下げる。


俺たちは先を急いだ。



******



鉄で作られたゴーレムが出てきた。鉄以上に硬い金属で作られたゴーレムも出てきた。


ナツメは相変わらず一撃で敵を倒している。


俺は『一閃』を数回当てることで、何とか倒していた。


「ナツメは剣の使い方がうまいんですよ」


玉藻が俺の心を読んでいる。玉藻の声を聴き、ナツメも続ける。


「我が主は剣を何も考えずに、振るっていますよね」


確かに俺は剣を振るう時に、何も考えていない。ただ『一閃』を発動させるための動作だ。


「だからダメなんですよ」


ナツメが俺のほうを見ている。


「それじゃあ剣で敵を斬ることはできません。

 我が主は身体能力を向上させることもできるのですから、剣だけで敵を倒すこともできるはずです。

 もう少し剣の振り方を意識したほうがいいと思いますよ」


ナツメが俺に注意してくる。ナツメ自身は何度も敵に対して剣を振り、その中から正しいやり方を学んできた。


俺も剣だけで敵を倒せるようになるべきか。


「正しく剣を振れるようになることも大切と思います。しかしご主人様の場合は『一閃』を進化させたほうが、威力の上昇は多いでしょう」


玉藻が別の切り口から、口を出してくる。


「魔法と『一閃』を同時に発動し、一体化させることで攻撃力の上昇を図ってはどうでしょうか」


玉藻の意見も一理ある。俺は魔法の『職業』も持っている。魔力も十分にある。


そちらを試すのもいいだろう。


『一閃』に『火炎』を加えて、『火閃』。同様に『水閃』『風閃』『土閃』等を生み出す。


ゴーレム相手に試してみたが、一撃で倒すことができた。今までは連撃で倒していたことを考えると、かなり戦いが楽になったといってもよいだろう。


「この調子で進んで、最終階層を目指しましょう」


「剣の振り方が雑なままです。剣の振りについても意識するようにしてください」


玉藻に褒められ、ナツメからは釘を刺された。


玉藻は相変わらず力を隠したままだが、俺たちは順調にゴーレムダンジョンを進んでいた。



******



予想外のことが起きた。


ダンジョンに潜っているのは俺たちだけではない。他の探索者も存在する。


今まではできるだけダンジョン内で出会わないようにしていたし、出会っても会釈してすれ違う程度で終わっている。


ダンジョン内は警察などいない。治外法権とまではいわないが、ダンジョン内の犯罪行為は、取り締まることが困難なのが現状だ。


そんな中で他の探索者と関わることは、かなりの危険が付きまとう。特に俺たちには見た目が美女の玉藻と美少女のナツメがいる。下手にかかわると面倒が起こる可能性が非常に高い。


だから他の探索者と関わるつもりはなかった。今まではそうしていたし、これからもそうする予定だ。


「……面倒ですね」


玉藻が顔をしかめている。


前方から助けを求める声がした。そして足音がこちらへ向かってきている。


ゴーレムダンジョンはミノタウロスダンジョンと違い、構造が単純だ。道を迷う要素は、ほとんどない。


ミノタウロスダンジョンは迷宮型と呼ばれるのにふさわしく、道が複雑で罠がある。ゴーレムダンジョンには罠はなく、ほぼ一本道。たまにある分かれ道も、短くすぐに行き止まりとなる。


俺たちは現在近くに分かれ道のない一本道にいる。当然の結果として、関わりあいたくない他の探索者と出会うこととなった。


あちこちに怪我を負った探索者たちがこちらへと向かってくる。その後ろには金属製のゴーレムたち。


恐らく自分たちの力量を見誤ったのだろう。ゴーレムに負けて敗走しているものと、判断される。


「お任せください。

 『極大火炎』!」


玉藻が俺の前に出て、巨大な火炎球をゴーレム目掛けて打ち放つ。道は十分に広い。『左右に避ければ』、十分に火炎球を避けることができる。


逃げることに夢中の彼らには、避けることは難しかったのだろう。2名の探索者が火炎球に巻き込まれたが、火炎球は中央にいた1体のゴーレムを焼き溶かした。


「まずは一体」


玉藻の声にナツメが動き出す。俺たちから見て右側のゴーレムを、ナツメが大剣で1名の探索者ごと斬り倒す。


「2体目」


俺は左側のゴーレムに向けて、攻撃を放つ。


「『火閃』2連続並列起動」


俺から放たれた2つの『火閃』は2体のゴーレムを打倒す。


「これで3体目と4体目だ」


「5体目と6体目も終わりました」


俺が3体目と4体目を倒すのと同時に、玉藻が後続の5体目と6体目を倒していたようだ。


ゴーレムは合計で6体全て倒し終えた。追加のゴーレムはなし。


逃げてきて生存しているのは、左に避けた1名のみ。中央の2名と右に避けた1名は、生き残ることに失敗したようだ。


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職業オーク 金剛石 @20240531start

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