第32話 塔のダンジョン攻略準備と1階層
俺と真琴が地上に戻り、真琴は改造人間になった。
それから俺たちは準備を進め、別の地域にある塔ダンジョンへ向かうこととした。
塔ダンジョンに向かうまでに、死霊術で仮初の命を与えられていた者はそれを失った。支部長は俺が命令をして、命が消える前に真琴の父と契約を行った。
当然探索者ギルドが不利となるような契約だ。新しく38地区支部長になるものは苦労するだろう。
前任者は引継ぎすることなく命を失っている。地域の権力者とかなり不利となる契約が結ばれている。
かなり酷い状況といっても良いだろう。……俺たちには関係のないことだが。
そんな諸々を片づけた後で、俺たちは塔ダンジョンに挑戦した。
当初の予定通り俺と真琴、玉藻とナツメに分かれて挑戦する。
塔ダンジョンは5階層からなるダンジョンで、各階層はボス部屋と次の階への階段しかない単純な構造だ。
最上階の5階層のボス部屋の奥には、あらゆる言語が理解できるようになる能力を得るための部屋がある。それから地上に戻るための、魔法陣も設置されているらしい。
「……とまぁ、こんなところです。ちなみに毎回各階層のボスは変化するようですね」
『塔のダンジョンの攻略を終えた』玉藻が俺に説明をしてくれている。
玉藻とナツメは偵察のため先にダンジョンに入り、半日で攻略を終えた。
これは珍しいことではない。『実力があれば』可能である。
「……それでお前たちの場合は、どのような感じだったんだ?」
俺は参考のために、各階層のモンスターについて確認する。
「我が主。1階層はゴブリンキング。2階層はミノタウロス。3階層はゴーレム。4階層はキングスネーク。5階層は一応スケルトンです」
1から3階層までは戦ったことがある。
「5階層が気になるが、まず4階層のキングスネークはどのようなモンスターだ?」
俺の質問を受けて、ナツメが真剣な表情で答える。
「4階層のキングスネークは全長20メートルくらいの大きさで、毒を持たない蛇でした。
魔法の類は使いません。しかし何らかの魔眼を使ってきました」
「恐らく麻痺の魔眼と思います。それか石化のどちらかでしょう。
ご主人様よりも弱いナツメの耐性でも防げましたので、ご主人様なら問題ありません。真琴は一瞬効果があるかもしれませんが、真琴なら自力で元に戻ることができるでしょう」
玉藻が補足説明を行う。
「それより問題となるのが地形です。1から3階層までは石や土の地面だけでしたが、4階層は森になっていました。
視界が効かない森の中でキングスネークが襲ってきました。恐らくボスごとに有利となる地形になるのだと思います」
なるほど。地の利は敵の側にあるわけか。当然といえば当然か。
「それで5階層はどんな感じだったんだ?
スケルトンと言っていたが」
「我が主。スケルトンでしたが、普通のスケルトンではなかったです。
かなり恐ろしい剣の使い手でした。
正直私が普通の人間でしたら5回は命を落としていました」
ナツメの言葉を受けて、俺は玉藻を見る。玉藻も首を縦に振り、ナツメの言葉を肯定していた。
「……まじか」
俺は言葉を失う。ナツメはかなり剣の腕が上達していた。そのナツメが5回も致命傷を負うような相手ということは、かなりの恐ろしい使い手になる。
5階層はかなりの強敵になるな。
「それで普通の人間はどうやってそんな奴を倒しているのか?
みんなが倒せるぐらい強いのか?」
「主様。それについては私から説明します」
真琴は傍系だが徳川の姫ということもあり、そういったことに詳しいみたいだ。
「まず塔のダンジョンは能力を手に入れた後も、挑戦が可能です。
当然何度能力を手に入れても、同じ能力のため意味はありません。一度で十分です。
しかし他の人間を連れていくことが可能になります。
一般人は探索者ギルドで探索者を雇い、護衛してもらいながら塔の最上階を目指すのです」
「なるほど。それなら安全に能力を手に入れることが可能か」
「ええ、その通りです。そして5階層も攻略方法があります。
探索者ギルドで『職業』を『探索者』に変更すると、『護符』を買えるようになります。この『護符』があれば、5階層のスケルトンも楽に倒せるようになると聞いています」
『護符』か。ダンジョンと探索者ギルドが繋がっているということか?
「ご主人様。そこについては不明です。
支部長もその辺については何も知りませんでした」
玉藻は以前に死霊術で仮初の命を与えた支部長の頭の中を調べている。何か有用な情報がないか確認するためだ。
「それで塔のダンジョンについて、他に分かっていることはあるか?」
「1から4階層についてはランダムです。何が出てくるのか決まっていません。
ただ5階層はスケルトンが固定です。スケルトンの戦闘のスタイルはランダムです。
私たちは剣でしたが、槍や斧を使うスケルトンもいるらしいです。また稀にですが魔法を主体とすものもいるようです」
玉藻の報告で情報は出揃った。後は挑戦するだけである。
「我が主。私たちが待機している。
何かあればすぐに召喚すればいい。すぐに駆け付ける」
「ご主人様。念のために私たちはご主人様の動向を見張っておきます。
異変があればすぐに助けに向かいますので、安心してください」
ナツメと玉藻も備えてくれるようだし、何とかなるかな。
「主様。主様の命は私が必ずお守りします」
真琴も一緒に戦ってくれる。大丈夫と信じよう。
******
俺と真琴は塔のダンジョンの1階層にいる。そしてすでに森が広がっていた。
「探知で警戒しているが、特に敵の確認はできない」
俺の持つ『職業』には斥候系の『職業』もあり、探知等で敵を探すこともできる。しかし敵の姿は見つからない。
「真琴。敵は何らかの能力で隠れている可能性がある。探知で敵が確認できなくても警戒を怠らないようにしてくれ」
「分かりました。主様」
俺は相変わらずの全身鎧で、真琴は前回同様に肌の露出は少ないが動きやすそうな格好をしている。要所要所で金属が使われており、防御性能も高そうであった。
俺を先頭にして、その後ろに真琴が付いてきている。森の中は見通しも悪く、敵の姿は全く確認できない。
どうしたものかと悩んでいると、鋭い一撃が俺の頭にあった。
「?!
真琴、伏せろ!!」
突然の事態にとりあえず俺は伏せることで、追撃から身を隠す。
幸い魔法障壁を警戒して張っていたため、兜によって弾かれている。
恐らくは銃撃によるものと推察される。狙撃手か。
もしかして近代『職業』か?
当たり前のことだが『職業』は時代とともに変化している。時代の変化で失われた『職業』や逆に新たに生み出された『職業』がある。
比較的近年に生み出された『職業』が近代『職業』だ。
俺の持つ30の『職業』は全て古いタイプの職業になる。1200年前の世界で選んだため当然だろう。
「つまり今回の敵は狙撃手等の銃撃に特化した『職業』を持っているということですね」
真琴が俺の考えを読み、結論を述べる。
「ああ、そうだ。ついでに漫画等からの知識だが、この手の狙撃は1人で行うものではないらしい。複数の敵も想定してくれ」
漫画の知識のため、詳しくは知らない。狙撃を行う際は敵の位置を伝える担当と、銃を打つ担当がいると聞いたことがある。
そう考えれば敵は複数の可能性がある。なら攻撃する敵が1体であるという考えも捨てたほうがいいと思う。この森の中に複数の敵が潜んでいる可能性も、決して低くはない。
「主様。玉藻殿たちはゴブリンキングが1体でした。なら私たちの相手はゴブリンキングよりも劣るものが複数ということでしょうか?」
「恐らくそうだろう。キングの名を関するモンスターではなく、何らかの上位種を複数体相手するということだと思う」
「分かりました。頭を低くしつつ、移動しましょう。
留まることは危険です」
「そうだな」
俺は真琴の意見に賛成し、頭を低くして移動を開始する。当然障壁は新たに張っている。
「相変わらず探知で敵は確認できない。
…………真琴。『犬』に獣化しろ」
「?」
「『犬』に獣化すれば鼻や耳等の性能も良くなる。それでもしかしたら敵が見つけられる可能性もある。
だから獣化しろ。『犬』だ」
「分かりました」
真琴の姿が徐々に変化していく。真琴は犬獣人のハーフに変化していた。
人間の耳が消え、犬の耳が生えている。髪の毛の色も犬の耳の色と、同じような色に変化している。色合い的に犬種は柴犬だろうか。
「尻尾が少し邪魔になりますね」
真琴はズボンから尻尾を取り出す。そこそこ大きい柴犬の尻尾が、ブンブンと振られている。
「どうだ?何か感じるか?」
俺の問い掛けに真琴は耳を動かしたり、鼻をヒクヒクさせたりして確認している。
可愛いな。
《狐のほうが可愛いですよ》
玉藻の意見は緊急時のため、無視する。真琴を見ると、真琴は首を横に振った。
「……何も感じられません」
「引き続き警戒しつつ、移動する。1か所に留まっていると危険な気がする」
どちらにせよ敵はこちらを補足していて、こちらは敵を探知できない。どうするべきか悩むな。
「主様。私に妙案があります」
真琴が自信ありげに、俺のほうを見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます