第24話 探索者ギルド日本国第38地区ギルド支部長
俺たちは探索者ギルド職員の案内で、探索者ギルド長の元へと向かっている。
《ご主人様、ナツメ。落ち着いて聞いてください》
従魔空間の玉藻からの言葉は、俺たちを繋ぐ特殊なラインによって届けられている。そのため前を歩く探索者ギルド職員に気付かれることはない。
《まず前を歩く職員は気付いていると思います。恐らくご主人様の様子などから秘密裏に連絡を取っていることはバレていると考えてください》
俺は全身鎧着ているけど、そんなことが分かるのか?
《向こうが少しの変化を見逃さないくらい優秀だったというだけの話です。
話を戻します。『ギルド長』には注意してください》
どういうことだ?
《『ギルド長』はギルド職員数に比例して強くなる『職業』です。
ここにいるのはあくまで支部長ですが、普通の人間の10倍以上の力を持っていると考えてください》
10倍以上か。結構厄介だな。
「着きましたよ。扉の奥でギルド長が詳しく話を聞かせてもらう予定です」
目の前の案内してきたギルド職員を見る。その職員は長身で痩せ型。黒髪メガネの男性。
「この扉の先で?」
俺は目の前の扉を見る。扉というより、城門といったほうが正しいように思える。俺たちは探索者ギルドのかなり地下深くにいた。エレベーターに乗ってかなり地下深くまで案内されて、目の前には城門がある。意味が分からない。
「ええ、扉の奥の中央まで行きましょう」
探索者ギルド職員の声とともに、城門が開かれる。扉の奥からは強い光が漏れてくる。
扉の先には大きな砂地があった。円形の砂地。大きさは小さめの運動場くらい。円形の砂地の外側はすり鉢状の観客席になっていて、円形の砂地が一番下になる。上からは人工の光が煌煌と照らされていた。
俺たちは探索者ギルド職員とともに、中央へと歩いていく。砂地は特に傾斜などはなく、辺りを見渡すことができる。
そこには誰もいなかった。
「……ところでギルド長はどこにいるのですか?」
俺は隣を歩く探索者ギルド職員に尋ねる。あからさまに驚いたふりをして、職員は答える。
「申し遅れました。私が日本国第38地区ギルド支部長になります」
支部長は胡散臭い笑みを浮かべ、大げさな仕草でお辞儀をした。
******
そこからの動きは一瞬だった。観客席から突然10名以上の探索者ギルド職員が現れて、ライフル銃をこちらへ構える。
《まずいですね。あのライフル銃の威力だと、ご主人様の鎧を貫通しますね》
緊張感漂う中、緊張感の欠片も感じさせずに玉藻が言う。
「……仲間から何か連絡があったようですね」
支部長は眼鏡を輝かせながら、質問する。
「……何故分かる?」
それは素直に疑問を口にする。
「体の強張りとか、少しの変化があるのでそれくらいわかります」
まるで当たり前のように、支部長は笑顔で答える。
「それで?この状況は何?」
ナツメが不機嫌を隠さずに問いかける。
「あなたたちは危険ですので、包囲させてもらいました」
支部長は相変わらず笑顔を浮かべている。
「不愉快ね」
「そうですか」
「そうよ」
ナツメは支部長を睨みつけているが、支部長は笑顔を浮かべたままだ。
「さて本題に入りましょう。
あなたたちには、『38地区の探索者』になってもらいたいのです」
どういう意味だ?俺たちはすでに探索者のはずだ?
「意味が分からず、戸惑っておられるようですね。
『職業』を『38地区の探索者』にしてもらいたいのです」
支部長は笑顔で説明するが、相変わらず意味が分からない。
《……ご主人様。訂正します。支部長の実力は普通の人の100倍以上です。
この男は職員だけでなく、探索者も自分の『支持者』にしています》
『支持者』は統率者系『職業』の強さの要因。『支持者』の数と質が『支部長』の強さに繋がっている。
数は多いほうが強くなる。
質は各『支持者』の強さだ。強いほうが『支部長』も強くなる。
玉藻は最初『支持者』が探索者ギルド職員のみと考えていた。実際は探索者ギルド職員以外に一部の探索者も『支持者』になっていた。
故に支部長の実力を上方修正したということだ。
「色々考えておられるようですが、返答は?」
支部長の眼鏡は妖しげな輝きを帯びていた。
「断る」
俺は簡潔に答えた。支部長は眼鏡の位置を直している。
「……もう一度聞きます。『38地区の探索者』になりなさい」
「もう一度言います。お断りです」
俺は再度支部長の誘いを断った。支部長の顔から笑みが消える。支部長が右手を上げた。
「……そうですか。ならどうなるかは分かっていますよね?」
支部長のその言葉と同時に、支部長の胸に大剣が突き刺さる。
それを見て一瞬体が固まったが、すぐに左の観客席に向けて走り出す。
右は体内から大剣を射出させたナツメが、観客席に向かっていた。ナツメは探索者ギルド職員から放たれる弾丸を全て避けながら、探索者ギルド職員へと襲い掛かる。
俺の方は弾丸を受けていたが、致命傷にはならず回復させて進んでいる。しかし弾丸の威力は予想以上に強い。鎧の強度を1段階強くする。
《無駄です。それより身体強化を強くして早く観客席に上がってください》
弾丸は相変わらず俺の鎧を貫通する。俺は玉藻の言う通り、鎧の強度より身体強化の増強へ力を割り振る。アイテムボックスから剣を取り出すと、観客席にいる探索者ギルド職員へと襲い掛かる。
「『火閃』」
俺の火を纏った剣の一撃が、探索者ギルド職員を斬り裂く。探索者ギルド職員の実力は下層のゴーレムと同程度だ。何とかできないことはない。
それよりもライフル銃がまずい。これの威力は狙いさえ正確なら、ボスのゴーレムすら一撃だろう。俺では防ぎきれない一撃だ。
《大丈夫です。急所への一撃は私が対処します》
急所である魔石は無事でも、それ以外はかなり酷いことになっている。先程から何度も弾丸が俺の体を貫通している。
俺自身がすぐに自分の体を治せることと、痛みに対して耐性を持っているから何とか耐えられる。どちらかが無ければその時点で負けだった。
《私がご主人様を痛めつけていたのは、すべてこの時のためだったのです》
玉藻が何か言っているが、それはスルーする。
《酷い!》
ナツメの方は大剣を支部長にアイテムボックスから射出し、支部長の胸に突き刺したままである。そのためナツメは自分の体に内蔵されている武器と素手で戦わないといけない。
「……見たところ問題なさそうだな」
ナツメは弾丸を避けながら、内蔵武器の鉄杭を探索者ギルド職員に突き刺している。また蹴りや殴打により、探索者ギルド職員に甚大なダメージを与えていた。
少し時間がかかったが、観客席にいる探索者ギルド職員は殲滅した。残りは胸に大剣を突き刺した支部長のみとなる。
******
支部長は意識を取り戻したのか、ゆっくりと大剣を自分の胸から引き抜く。俺とナツメはそれぞれ観客席の別の場所にいるため、支部長の動きを封じることはできなかった。
「……死ぬかと思いましたよ」
支部長は眼鏡を捨て、ゆっくりと立ち上がった。
俺とナツメは観客席から円形の砂地に降り立つ。俺とナツメの位置はちょうど支部長を左右から挟む位置にある。
「……部下は皆殺しですか」
「攻撃してきたのは、そちらの方。文句を言われる筋合いはない」
支部長のつぶやきにナツメが答える。ナツメは攻撃するために、支部長の動きを探っている。
「……あなたたちは危険です。排除させてもらいます」
支部長は挟み撃ちを嫌い、ナツメの方へと駆け出す。ナツメも対抗するために、支部長へと駆け出す。それに遅れ俺も、支部長の後を追う。
支部長とナツメは純粋な徒手戦闘を行っている。ナツメは体内に鉄杭等の武器を隠し持っているが、それを使くことなく支部長と戦っている。
《ナツメは徒手戦闘の訓練として今回の戦いを行っていますね》
普段は大剣を使うことの多いナツメにとって、今回は徒手戦闘の絶好の機会と捉えたようだ。
俺はもしもに備え、ナツメの大剣を回収する。その間も支部長とナツメの先頭は続いている。支部長が予想しているよりも、ナツメは頑丈で打たれ強い。中々倒れないナツメに、支部長も焦りを見せ始めている。
《これで決まりですね。後はどの程度ナツメが成長するかです》
玉藻の言う通り、段々とナツメの動きが良くなってきている。そしてナツメの攻撃が、支部長に当たるようになってきた。
これが自己進化の力か。
******
1時間後、支部長はナツメによって倒されていた。
「止めです」
ナツメは今度こそ確実に、支部長の息の根を止めた。
「……これからどうするかな」
探索者ギルドの地下深くで、探索者ギルドの支部長と職員を殺した俺はこの先のことを考えてため息をついた。
「どうやって誤魔化そう……」
俺の意識は従魔空間で寛ぐ、玉藻へと向けられていた。
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