第8話 決戦リヴァイアサン



水の精霊(男)が建てた作戦はこうだ。まず俺がダンジョンボス部屋に入り、リヴァイアサンと相対する。俺が入ったドアを精霊たち(男)が閉める。水と土と火の精霊(男)が協力してダンジョンボス部屋内をマグマで満たして、リヴァイアサン倒す。


この作戦には大きな疑問がある。


「……俺もマグマの海の中に入ってしまうんですけど?」


「ええ、その通りです」


水の精霊(男)がいい笑顔で答える。やはり俺を殺す気なんだろうな。


「一応確認だが、今この状態で中にマグマは入れられないのか?」


土の精霊(男)が当然の疑問について確認する。


「それは無理です。まず戦闘中でない以上、ダンジョンボス部屋の外から中への干渉は無効化されます」


《付け加えると不正ツールアイテムなどを使用しても、そのルールからは逃れられません》


水の精霊(男)が答え、玉藻が補足する。玉藻の声は今回は精霊たち(男)に聞こえるようにスピーカーモードとなっている。


「ですので誰かが中に入る必要があります。そして私たちは中に入れば、隠れられませんから確実にリヴァイアサンに倒されます」


水の精霊(男)の説明より、誰かが中に入らないといけない。精霊たち(男)は無理。ちなみに玉藻も実力不足で無理だろう。


「……俺死なない?」


《大丈夫です。ご主人様ならリヴァイアサンから逃げながら、マグマから身を守ることができると思います》


何か狐に騙されたような気がするが、それ以外に方法がないのも、事実である。決心するには少しの時間必要になったが、俺はダンジョンボス部屋の扉を、ゆっくりと開けた。



******



俺は全力で逃げ回っている。ゲームとかでよくある設定なのだが、身を隠す能力は攻撃すると解除されるというのがある。俺はドアの外で待機している精霊たち(男)を通じて、ダンジョンボス部屋の床下に海底火山を作った。それを噴火させてマグマを生み出し、リヴァイアサンに攻撃している。そのため何度隠れても攻撃をしているため、それはすぐに解除される。リヴァイアサンは俺を捕捉して、様々な攻撃を仕掛けてくる。水属性の強力なブレスや尻尾を使った攻撃、体当たり。その全てから俺は逃げながら、徐々に満たされていく火山噴火のマグマから身を守る。


「くそっ!マグマの水位が上がってきて動き難くなってきた」


かなり状況は悪い。マグマに足を取られて、動きが鈍くなっている。リヴァイアサンは体がデカい分だけ、俺よりもまだ影響は少ない。


「――あっ、やばっ」


リヴァイアサンの尻尾の一撃が俺に直撃する。俺は魔法で防御壁を自分を中心に展開していたが、防壁ごとダンジョンボス部屋の壁まで弾き飛ばされる。元々かけ続けていた微弱な回復魔法の出力を上げて、回復に努める。防壁は砕かれなかったが、かなりの衝撃だ。ある程度は予想していたが、かなりまずい。


《大丈夫ですか!?》


玉藻も動揺していた。それに答えるより先に、俺は再び動き出す。俺がいたところに追撃のブレスが、放たれていた。


「一応大丈夫だが、最後まで持つかは自信がないな……」


《弱気なことを言わないでくださいっ!私の命もご主人様にかかっているんですよ!?》


玉藻が慌てている様子を聞いて、俺の方は少し落ち着く。


「なら外で待っていたらよかったんじゃないか?」


俺は全速で逃げ回る。回復しつつ逃げているから、まだ会話ができる。そうでなければとっくに疲れて動けなくなっているところだ。


《ご主人様が亡くなれば、私は生きていけません。奴隷とか従魔とか関係なく、消滅するこの世界から逃げるためにはご主人様が必要なんです!!》


清々しいまでの玉藻の本音だ。生き残るために俺を利用している。それは俺でなくても、良かったのではないだろうか。


《何わけのわかんないことを考えているんですか!私はご主人様を必要としています!

 この世界の中で必要なのはご主人様だけです!

 とにかく全力で生き残ることを考えてください!!》


玉藻の必死の呼びかけに、少しだけ元気が出た。利用されているとわかっているが、必要とされるのはそれだけで少しうれしい。


《植え付けられた感情ですが、私はご主人様に対して重い忠誠と愛情があります。

 決して裏切りません。ご主人様のために行動します。

 信じてくださいなんて言いません》


玉藻はここで言葉を区切る。


《私を信じろ!ご主人様なら生き残れます!!》


……なんてひどい奴隷で従魔なんだろう。主人に対して命令しやがった。いつの日か必ずお仕置きしてやる。


俺は死にそうになりながらも、清々しい笑顔を浮かべていた。



******



気が付けばマグマの水位は上がり、俺の動きを完全に阻害している。俺は魔力によって生み出した防御壁に守られながら、リヴァイアサンからの攻撃を耐えていた。


リヴァイアサンの見た目は海龍。西洋風の竜でなく、東洋風の龍。手足はなく、体は細長い。攻撃は水属性のブレスと尻尾。たまに体当たりと噛みつきである。そのどれもが俺の防壁を突破できない。


「……俺が攻撃すれば、倒すことはできないのか?」


ふとした疑問を口にする。


《残念ながら無理ですね。ご主人様の攻撃では、リヴァイアサンの鱗を突破することはできません。

 龍はそれだけ強大な相手です。

 勘違いされないように言っておきますが、攻撃を防げているのも精霊契約を行っていたからですよ。精霊契約による耐性強化がなければ、リヴァイアサンのブレス一発で負けてましたからね》


そうなの?


《ですです。精霊契約によりご主人様は火と水と風と土に対して、強い耐性を得てます。それが魔力防壁に干渉しているから、攻撃に耐えることができるんです。

 今ならマグマの中でも耐えられます。しかしさすがリヴァイアサンでも、属性の関係からマグマの中は耐えられません。勝負は時間の問題です》


「じゃあ、しばらくはこのままで待ち続けるわけだ」


リヴァイアサンの攻撃を耐えながら、マグマの水位が上がるのを待つ。リヴァイアサンの体は大きく、それに伴い、このダンジョンボス部屋も広い。無理やり生み出した海底火山噴火によるマグマも、この部屋を埋めるには大分時間がかかりそうだ。


《完全に埋める必要はないかもしれませんが、リヴァイアサンが倒れるまで大分時間がかかりそうですね》


どういう理屈かはわからないが、この部屋の水は水の精霊(男)により抜かれている。またマグマも冷えないように、火の精霊(男)が随時熱している。


《せっかくの自由時間ですから、何か質問などがありましたら答えますよ》


俺は少し考えて、興味本位の質問を投げかける。


「ここって高次元生命体が生み出したゲーム世界だよね?どうして日本が由来のような玉藻って名前なんだ?」


《答えは簡単です。私の元を作ったプレイヤーの高次元生命体がジャンル『地球』、その中の『日本』が好きだったからです。元々このゲーム自体が『地球』の『日本』の『異世界もの』を参考に作成されています。ゲームの舞台はこの惑星のこの大陸のみです。大陸の外は何もありません。ご主人様の常識でお答えすると、ユーラシア大陸くらいの大きさの大陸の中に、中世ヨーロッパ位の文化レベルで魔法ありの世界を作成しました》


「つまりゲームの平面世界みたいのものか?」


《いえ違います。地球規模の惑星を作成し、ユーラシア大陸規模の大陸だけ作成してます。大陸の外はすべて海です。それからゲーム世界の時間は進み、現在の文化レベルはご主人様のいた時代と同じか少し進んでいるくらいです》


そういえば太陽や月はどうなっているんだろうか。


《天体系は疑似的なものを惑星表面に浮かべています。その辺は詳しく考える必要がないと思います。それで話を戻しますと、高次元生命体の中では少数派のジャンル『地球』の『日本』の『異世界もの』が参考にされて作成されているため、ご主人様がご存じの魔物などが出てくるわけです。私も先程申し上げた通り『日本』好きから生み出されたため、玉藻という名前になっております》


もしかして男の娘なのも、それが原因ですか。俺は心の中で考えた。それを読み取り、玉藻は回答を行う。



《私が男の娘になったのは、ご主人様が原因です》



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