第40クエスト マイヤ
目をつぶっていると足が地面に着地する。
一体何が起きたのかと思い、恐る恐る目を開いた。すると先ほどまでいたカルディア軍の本部とは違い、港まで移動していた。
サンの目で見たのだから間違いない。ここはカルディア帝国の港だ。
仲間もいないか辺りを見渡すと、全員いたようだった。彼らもサンと同じような驚いた反応をしている。
「みんな、大丈夫か!?」
全員に声をかけると、キバッグは言った。
「ああ。それより、どうなってんだ? さっきまでカルディア兵がたくさんいたのに……」
「さっきまで居た場所と全然違うようです。まるであの場所からワープしたみたいです」
「シルフィの言う通りね。全員があの場所から空間移動した……きっと転移魔法ね。誰かがアタシ達を助けてくれた以外、考えられないわ」
アクリアが考えた様子を見せて言うと、背後から気配を感じる
「その通り。心配だから様子を見に来たけど、占い通りだったね。あのまま私が助けに来なかったら、君たち牢獄行きだったよ」
後ろを振り返ると、サンは見たことのある人物を見て驚く。
「あー! あの時、占ってくれたねーちゃん!?」
そう。助けてくれたのは、鬼の仮面をした女占い師だ。彼女は仮面を外すと、微笑んだ表情をしている。
「やあ。さっきぶりだね、サン。どうだい、私の占いは。見事なものだろう?」
背中まである紫髪を後ろで1つに結っている。黒と紫をベースとした長袖の服を着ており、腰にはカードホルダーが装着されている。
「ほんとに当たってびっくりした……ってなんでオイラの名前を知ってるんだ?」
彼女に名前を教えたことは一度もない。それなのに、なぜ知っているのか疑問に思う。すると女性はふふっと笑う。
「私の占いは信用できるからね。君の名前だって当てることも簡単さ。左からキバッグ、アクリアにシルフィ。そして久しぶりだね……レイミー」
その場にいた全員がレイミーを見る。彼女は小さく頷いて挨拶をする。
「まさかあなたがこのような場所にいるとは思いませんでした。お元気でしたか、マイヤさん」
「レイミーも元気そうで嬉しいよ。懐かしいな……ブレイブ学園に赴任していた頃が。今ここにいる子供たちは君の生徒かい?」
「ええ。皆さん、とても優秀な生徒ですよ。もしかして、またブレイブ学園に戻りたくなりました?」
「いいや、私は占いの仕事があるんでね。また復帰するなんてありえないよ」
2人を交互に見ながらサンは、
「なあなあ。レイミー先生は、ねーちゃんと知り合いなのか?」
「ええ、彼女はマイヤさん。去年、一年間だけブレイブ学園の教師をしていた方なんです」
納得しながらサンは言った。
「そうだったのか! でも、どうしてやめちゃったんだ?」
マイヤは空を見上げながら、
「占いが好きだからね。いつか独立して本業にしたかったんだよ」
ふーん、とサンはそれ以上言わなかった。
「マイヤさん、先ほどは助けてくれてありがとうございます。あのまま捕まってたら、アクロ先生たちを助けられないところでした」
レイミーが礼を言うと、マイヤは右手を前に出す。
「礼なんていいよ。それよりも……数日前にアクロさん達を見たのは確かだけど、どうしてあんな真剣な様子でカルディアの塔に向かったんだい? 君たちも彼らの目的を知ってここまで来たんだろう?」
「オイラ達、学園長の話から知ったんだ。カルディア軍が持っているブレイブクリスタルの塊を狙っている怪しい奴がいるって。アクロ先生たちはその怪しい奴から守るために、強いパーティ組んで行ったらしいんだ」
サンの説明に、レイミーは続けるように言う。
「彼らの反応はカルディア帝国に乗り込んだものの、先ほどの塔の前で消息が途絶えたそうです。私たちはアクロ先生にゼシロス先生、ソンゴウさんを助けるためにここまでやって来ました」
「なるほどね……どうりで私の占いがざわつくはずだ」
「またその占いが示してるのか?」
キバッグが言うと、マイヤは手を前に出す。すると、目の前にあの時の水晶玉が宙に浮いて現れる。
「これを見てご覧」
水晶玉に近づいて眺めると、牢屋に入ったアクロ達の姿が見える。ソンゴウは座禅を組んでおり、アクロとゼシロスはどこか元気のない様子だった。
「これって、アクロ先生たちですよね……? なんだか顔色が悪いです」
シルフィの言う通り、アクロ達は食べ物も与えられてないのか顔が青ざめている。サンはもう一つ気になったことがある。
ソンゴウの隣にいる女性のことだ。彼女だけ唯一、両手を鎖で繋がれており、どこか見覚えあった。
「アタシの見間違いじゃなければ、この女性……さっきの総帥よね? さっきまで捕らえようとした張本人なのに、どうしてこんな牢屋にいるの?」
アクリアが疑問に思っていると、レイミーは答える。
「これは私の推測ですが……恐らくさっきのカルディア軍は、全部偽物でしょう」
ええっ!? とサン達は驚いてしまう。隣にいたシルフィは両手をあたふたさせながら言った。
「じゃ、じゃあ、さっきのソウギさんも偽物ということですか?」
マイヤは小さく頷く。
「さっきの映像を占ってみたけど、どうやら当たりみたいだね。あの場にいたカルディア兵、全部が人間に化けたモンスター達だ」
水晶玉を見てみると、ソウギ以外のカルディア兵たちがモンスターに移し変わっている。
「そういうことかよ……どうやらオレ達が思ってる以上に、この事件は深刻みたいだな」
「ええ。こんだけ大層な仕掛けをしてるんだから、組織的な犯行と見て間違いないわね」
アクリアの言う通り、個人が行った計画とは思えない。もしやと思い、サンはぐっと拳を握りしめた。
「もしかしたら、またクライスが悪いこと企んでるかもしれない」
サンの言葉に、シルフィが驚く。
「クライスって前にサン君たちが戦った組織のことですよね? じゃあ、今回もそのクライスの計画ということですか?」
「みたいだな。そして、本来の目的はブレイブクリスタル。今回、ここで出会ったのも納得がいくぜ」
キバッグはモンスター達が映っている水晶玉を睨んでいる。もしかしたら、今回もルナークがいるかもしれない。サンは密かに期待を寄せる。
「もし、また本部へ乗り込むなら二手に分かれたほうがいい。アクロさん達を助けるチームとブレイブクリスタルを守るチーム。この人数なら状況的にいいかもしれないからね。私も微力ながら参加させてもらうよ」
「ほんと!? マイヤのねーちゃんも戦ってくれるのか?」
サンが喜ぶとマイヤは静かに頷く。
「ああ。人数は多いほうが有利だろう、レイミーもそれでいいよね?」
「構いません、それではさっそくチーム分けしましょうか。サン君、キバッグ君、私。次にアクリアさん、シルフィさん、マイヤさんのチームで行きましょう」
チーム分けが決定し、サンがガッツポーズで気合を入れる。
「よーし! 絶対にアクロ先生を助けてブレイブクリスタルを守るぞ!」
すると水晶玉が更に強い輝きを放つ。
「サン、キバッグ。君たちに伝えたいことがある」
マイヤに呼ばれ、二人は振り向く。すると彼女は真剣な眼差しで何か伝えようとしていた。それが何なのか分からないが、やがて口を開く。
「……占いで君たちに関して強い反応を示している。これから、カルディア軍の本部に向かうのなら気をつけたほうがいい」
「オレ達に何があるってんだ? まさか、死んじゃうとかオチじゃねえよな!?」
キバッグが困惑すると、マイヤは首を左右に振った。
「それはない。ただ……君たちの運命と強く結びついている人物が近くにいるってことさ。もし、出会う時は気をつけたほうがいい」
キバッグは俯きながら呟いた。
「それって一体――いや、まさかな。あいつがここにいるわけ……」
恐らくルナークの事だろうか。もし、彼が近くにいるのであれば戦うことになるかもしれない。
サンは二度と負けないと誓った。これまで修行して強くなったのだから、今度こそルナークに勝ちたい。
サン達はもう一度、カルディアの塔に向かうのだった。
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