第8クエスト 新魔法フレイア

 次の朝がやってきた。早めに起きたせいか、気温が肌寒い。


 リュウショクはもっと早く目覚めたらしく、お互い荷物を片付けてから、目的地へと進んでいた。


「そういえば、今日はなんか肌寒いよなー。朝ってこんなに冷えるものなのか?」

「いえ、どうやらこれは――何かが意図的に肌寒くしているようですね」


 前を歩いていたリュウショクが立ち止まる。


「それって一体、どういうこと――」

「キエエエエッ!」


 サンの言葉を遮るかのように、向こう側の木から大きめの鳥が襲いかかってくる。


「う、うわっ!?」

「ウインディ!」


 リュウショクの振り下ろした腕から、かまいたちが飛び出す。

 彼の放った風魔法が、鳥のモンスターへ命中する。


「キエエッ!?」


 モンスターは地面へと転がり落ち、すぐゆっくりと立ち上がった。


「学園長、あのモンスターってなんだ?」

「あれは、ヒエコミドリ。相手関係なく、冷気でいたずらをするモンスターです」

「もしかして、あの口から漏れている白い息がそうなのか?」


 よく見ると、ヒエコミドリの口から凍るような息が漏れている。あれに触れたら、自分も凍りそうだと、サンは感じていた。


「よく気づきましたね。最近、この森で奇妙なモンスターがいると聞きましたが、あれがそうだったとは」

「なあ、学園長。今ここで、オイラの実力を見てほしいんだ。だからここは、オイラ一人でやらせてくれ!」


 サンが数歩ずつ前へ横切ると、リュウショクはふっと笑う。


「分かりました。サン君、マスターに育てられた実力。出し惜しみないように見せてください!」

「おう! びっくりするような戦い、見せてやるぞー!」

「キエエエエッ!」


 ヒエコミドリが高く飛ぶと、サンは足をゆっくりと足を動かす。

 相手がこちらへ向かってくると、両腕を構える。


「来い!」


 ヒエコミドリは口を大きく開け、白い息をこちらに吐き出してくる。サンが難なく回避すると、地面に生えていた草が凍っていく。


「あんなの食らったらオイラも凍る……!」


 サンは着地し、低空飛行している相手に向かいキックを繰り出そうとする。だが、高く飛ばれて避けられてしまう。


「くっそー! これならどうだ!」


 サンも負けじと高くジャンプする。目の前まで近づくと、右腕を振り下ろす。


「キエエッ!」


 ヒエコミドリの翼で叩かれ、逆に撃ち落とされる。うつ伏せで地面に激突する直前、四つん這いで衝撃を和らげた。


「あいつ飛べるから攻撃が当たらないぞ……だったらもっと高くジャンプを!」

「お困りのようですね、サン君」


 観戦していたリュウショクが、こちらへ近づいてきた。


「学園長!オイラの攻撃が当たらないんだ。こういう時ってどうすればいいんだ?」

「なに、簡単な事ですよ。魔法を使い攻撃すればいいんです」

「でもオイラ、魔法なんて使ったことないぞ?」

「……サン君。今から君に、あれを仕留められるぐらいの魔法を教えましょう!」


 こちらの肩に手を置くリュウショク。それを聞いて、サンの顔が少しニヤける。


「ホントか! それってどんな魔法だ?」


 サンの問いに、リュウショクは一歩だけ下がる。そして、魔法の出し方を伝授しているのか、動きをつけている。


「よーく見ててくださいね。まず、両の手のひらを合わせ間隔を開ける。そのまま手のひらの間に魔力を集中させ……」


 すると、リュウショクの両手の間から大きな火球が出現する。綺麗に燃え盛るそれに、サンは思わず見とれてしまう。


「今の順序でやればヒエコミドリを倒すことができます。サン君ならできると、私は信じていますよ!」

「ありがとな学園長。オイラも挑戦するぞ……はああああ!」


 サンも互いの手のひらを合わせ、魔力を集中させる。すると、リュウショクより若干小さいが、丸くて温かみのある火球が出来上がった。


「よし、できた!」

「キエエエエッ!」


 ヒエコミドリがぶつかりそうな勢いで、こちらへ襲いかかってきた。サンは相手に狙いを定め、視点を集中させる。


 そして、心の中に浮かんだ技名と共に右手で投げ飛ばす――。


「フレイア!」


 勢いをつけた火球が、ヒエコミドリに直撃する。


「キアアアッ!?」


 相手は燃え盛り、悲鳴を上げている。全身が焼け焦げたそれは、地面へと崩れ落ちるのだった。


「倒したぞー! 学園長、オイラすごいだろ?」


 リュウショクへ向け右手でピースすると、彼は大きな拍手をしている。


「先ほどの戦い、お見事です! 私が教えた魔法も一回で使いこなすとは!」

「へへっ! やっぱオイラ、才能ある?」


 リュウショクは否定もせず、ゆっくりと頷く。


「もちろんですとも。あなたなら、ブレイブ学園で上手くやっていけるでしょう。さあ、ヒエコミドリを倒したことですし、目的地はもうすぐですよ!」

「おう!」


 その場を後にし、サン達は森の中を歩いて進んでいく。



・・・



 歩いて数分後。そろそろ風の空気が変わり、森の出口が見え始めている。


 この先は何が広がっているのだろう。期待を胸に膨らませながら、サンは足を早めようとする。


「さあ、出口はもうすぐですよ」


 リュウショクに付いて、草木を退けていく。森を抜けると、サンの目が大きく開く。


「すっ……すっげー!」


 色々な生物が住む荒野の道先に、遠くを眺めると大きな街が見える。遠くからで分かる。あの街が、アパロ村より比べ物にならないほど広い。崖の上から見えた景色に、サンの心がしばらく踊り続けるのだった。


「あそこがブレイブ学園のある街、ニュートビアです。サン君。これからあなたは、あの街を拠点にし生活をし成長するのです。どうです? 故郷以外の街を眺めるのは」

「……世界って広いんだな! オイラ、初めて知ったから、うまく言えないけど……世界ってものすごく広いな!」

「ははは。あなたなら立派な勇者になれるかもしれませんね……」


 リュウショクは小さく呟いたが、サンはよく聞き取れなかった。


「学園長、どうしたんだ?」

「いえ。さあ、行きましょう! 新しい人生が、あなたを待っていますよ!」


 サンは頬を緩み、ワクワクしながら歩いていく。これから、学園で新たな体験が待っている。


 一歩ずつ近づいていく街に、胸の中は楽しみなことだらけだった。

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