第9クエスト ニュートビア到着
道なりをまっすぐに進む。目的の街へ近づくたび、サンの鼓動は高鳴っていた。
心地良い風が吹く中、ついに巨大街――ニュートビアの入り口前へとたどり着く。サンは見上げるほど巨大な扉に口を開けてしまう。
「つ……着いたー! でっけー扉だな!」
案内してくれたリュウショクは、入口前にいる門番の所へ近づいている。
「リュウショク学園長、お疲れ様です! 例の入学生は発見できましたか?」
真面目そうな門番が姿勢よく敬礼をすると、リュウショクは言った。
「ええ、モンスターに襲われるトラブルもありましたが、無事に連れて来ることができました」
サンは笑顔を見せて、門番の前に出る。
「オイラ、サンって言うんだ! 門番のにーちゃん、よろしくな!」
「ああ、サン。俺はここを守護する門番だ。これからの学園生活、頑張るんだぞ」
「へへっ、ありがとな!」
門番はサンに笑みを見せ、リュウショクに一礼をする。
「学園長もお疲れ様です! お気をつけてお帰りください」
「ええ、それでは。サン君、中に入りましょうか」
二人は門番へ別れを告げると、歩き出す。
「サン君。ここが巨大街――ニュートビアです」
リュウショクは右手を広げ、街の景色を見せるように立ち止まる。サンは、目の前に広がる光景に思わず口を開けてしまう。
「うわああ……!」
アパロ村とは比べ物にならないほど大きな街に圧倒されていた。建物やお店など、全てが初めて目にするもので溢れていて、心が躍るようだ。
そして何より――人が多いのだ。数え切れないほどの人々が行き交い、その活気ある声が耳に入ってくる。このニュートビアには一体どんな人が住んでいるのか? そう考えていると、サンは興奮が抑えられない。
「学園長! この街、いろんなお店があるぞ!」
「ニュートビアはブレイブ学園に通うため、毎年たくさんの入学者が集います。そして、学園の設立以前に様々な娯楽があることから別名、無限大の繁華街と言われているのです」
「すごいな、このニュートビア! オイラもここで学園生活を送れるのかー」
サンは目を輝かせながら街を眺めていると、リュウショクは一歩先に進む。
「入学式まで、後2日あります。宿屋を手配しておきましたので、まずはそちらへ行きましょうか」
「泊まっていいのか!? オイラの部屋もあるのか?」
「もちろんですとも! サン君が安らかに過ごせるよう、こちらで探しておきました!」
リュウショクはニッコリと笑い、サンを宿へ案内する。人の波をかき分けると、様々な種族が歩いている。それを眺めるだけでもワクワクが止まらない。そしていつの間にか、目的地へと着く。
「ここが私の手配した宿です。入学式の日が来るまで、ニュートビアで遊んでください」
宿屋の外観は、白と青を基調にしていてとてもお洒落である。入口にある看板には『東エリア宿屋』と書かれている。
「学園長、ここまで連れてきてくれてありがとな! 後は自分で手続きするから大丈夫だぞ! そうだ! オイラの宿代を払わないといけないな。いくらだ?」
「宿代なら事前に、私が手配しています。安心して休んでください!」
親指を立て、リュウショクは白い歯をキラリと光らせる。
「学園長、ありがとうな! オイラ、色々と世話になったぞ! 入学して、学園長の期待を裏切らないように頑張るからな!」
「あなたが楽しい学園生活を送れるよう、信じていますよ。ご武運を祈っています。それでは! またブレイブ学園でお会いしましょう!」
「おう! また会おうなー!」
サンが大きく手を振ると、リュウショクは背中を向けて歩き出す。その大きな身体は遠くなっていき、人混みの中へ紛れ込んでいった。
「よーし! さっそく、宿屋に入るぞー!」
宿屋の中へ入り、サンは手続きを済ませるのだった。
・・・
「よしっ!」
サンは思わず気合を入れる。ついにニュートビアへやって来たのだ。ここで新たな学園生活が始まろうとしている。その期待を胸に宿の手続きを済ませた。
自分の部屋に荷物を置いて、宿屋を一旦出る。サンは周囲を見渡しながら適当に街を歩く。
「街は広いし、人も多いなー! オイラの故郷とは違った良さだ!」
アパロ村より何倍も大きい街にサンは思わず興奮してしまう。
「まずはどこに行こうかなー?」
そう考えていると、サンはあることに気づく。それは――あるお店の前に行列ができていることだ。その店の看板には『ブレイブ食堂』と書かれている。
「あの店、すごく並んでるぞ? 何かあるのか?」
行列の先を見ると、そこには大きな鍋があるではないか。そして、そこから漂う香ばしい匂いが鼻をくすぐり、腹の虫が鳴り始める。匂いの正体はカレーらしい。どうやら、客を集めて試食会が行われているようだ。
「あれは……肉入りのカレー!? 美味そうだなぁ。ちょうど腹減ってたんだ! 昼はあそこでご飯にするぞー! さっそく――」
「きゃあああ! ひったくりよー!」
背後から聞こえた女性の絶叫。振り返ると、そこには、高級そうな革のバッグを持っている男が走っていた。泥棒は痩せ細っており、服装もボロボロだ。サンは、その光景に目を丸くした。
「泥棒か!? あのねーちゃん困ってるみたいだし……助けるぞ! おーい! そこの泥棒止まれー!」
もう片方の手で、服のポケットから果物ナイフを取り出す泥棒。サンに向かって突きつけ、お互いの距離はもう目と鼻の先だ。
「くっ、どきやがれ!」
サンも一瞬の隙をつき、殴りかかろうとした瞬間だった。
「コリザード!」
無数に降り注ぐ氷が突然、サンを横切る。謎の出来事に動きを止めてしまい、氷のツブテは泥棒へと直撃した。
「ぎゃあああ!」
攻撃を受けた泥棒は倒れこんだ。うつ伏せになりながら、小さく震えている。斜め後ろを見ると、先ほど氷魔法を出したであろう少女の姿があった。
自身の身長分ほどある杖を片手に、ほっと一息ついている。
「ふぅ……なんとかなったわね」
周りから拍手を受けるサンと少女。しかし、それよりも――。
「お前、アクリアか!?」
見間違いではない。半年前、アパロ村をリュウショクと一緒に訪れたエルフ族のアクリアだ。
「あら。誰かと思えばサンじゃない。あなたも本当にブレイブ学園に入学するのね」
アクリアも、サンのことを覚えていたようだ。思わず嬉しくなり、アクリアにグイっと近づき両手を握る。
「ひゃっ!? またいきなり何よ!」
「アクリア! 腹減ったから一緒にご飯食べよう! 丁度、そこに食堂があったぞ!」
そう言ってサンは、アクリアを食堂へ強引に連れて行く。
「ちょっと! なんで出会っていきなり食事しなきゃいけないのよ! ってか、あなたどれだけ馬鹿力なのよ離しなさいー!」
そんなドタバタ劇が、周りの人間たちに見られる。サンはお構いなしに楽しむが、アクリアは顔を赤くして恥ずかしがっている様子だった。
・・・
食堂の店内へ入ると、鼻をくすぐるカレーの香ばしい匂いが出迎える。木造建築でカウンター席がありテーブル席もある内装。壁にはメニュー表がかかっている。客が多く賑わいを見せている様子が描かれている。店員に案内されると、窓際のテーブル席に座ることができた。
「やっと座れたな! ってどうしたんだ、アクリア?」
アクリアは不満そうな顔で椅子に座ると、視線を逸らしている。
「どうしてアタシは、親しくもない人と食事をしないといけないのかしら」
「オイラはもう、アクリアと友達だと思ってるぞ! さーて、何食べようかなぁ!」
「……アタシが友達?」
アクリアが驚いた顔を見せて、こちらを向く。サンはテーブルの隅にあったメニュー表を手に取ると、既にお腹が鳴っていた。カレーやオムレツなどの料理名がたくさん並んでいる中、一際目立つものがある。写真を見て、目を輝かせた。
「これは大食いカレー10人前!? すげー! アクリア、このメニューに挑戦してくれよ!」
アクリアにメニュー表を見せると、当の本人は――椅子から転げ落ちそうになっていた。驚きのあまり、口をパクパクさせている。
「なっ……こんなの食べられるわけないでしょ! ふざけるんじゃないわよ!」
「えー。天才魔法使いのアクリアなら、食べられると思ったんだけどなぁ」
サンが残念そうにすると、アクリアは少しニヤついている。
「て、天才ねぇ。しょーがないわねー! そこまで言うならアタシが……って食べるわけないでしょうが! ってか、よくアタシに食べさせようと思ったわね。逆よね、普通は?」
「あはは、そうだな! じゃあ、このステーキ十人前は次の機会にオイラが食べるぞ!」
サンの元気な雰囲気に、アクリアは再び息を吐く。
「……もうツッコむ気が失せたわ。それよりも……まさかこんなに早く、あなたと再会するなんてね。正直言って驚いたわ」
「オイラは絶対に会えるって信じてたぞ! これも、学園長がニュートビアまで連れてきてくれたおかげだな!」
「はいはい。確か、学園長が言ってたわね。あなたがそろそろ来るかもしれないから、早く行かなくてはって。あんな歴戦の人に連れて来てもらって、本当にすごいと思うわよ」
その事実を聞いて、サンは嬉しくなる。自分が来たことでこんなにも喜んでくれる人がいることに感動を覚えてしまう。
「わああ……! 学園長、オイラの為にそんなことを! オイラは幸せ者だなぁ! なあなあ! アクリアは、入学する前から学園長の知り合いなんだよな? 学園長ってどれくらいすごいんだ?」
「リュウショク学園長。かつてフレム寺で、マスターシャンウィンに師事し、
「すげー! 学園長ってそんなにかっこよかったんだな!」
「学園長と一年前に初めて出会ったばかりでね。その時に、本人から聞いた話よ。そんなにすごいのなら、戦いぶりをアタシも見てみたいわ」
「もう一つ聞きたいんだけどさ! アクリアってどこからやって来たんだ? 遠い所から来たのか?」
質問するとアクリアは、答えたくなさそうに目を逸らしている。なにか事情があるかのように、口を中途半端に開けていた。
「あれ、どうしたんだ?」
すると彼女は首を左右に振り、作ったような笑顔を見せている。
「ウォ、ウォーターク王国。浜辺の海が綺麗な所で、アタシはそこの一般市民よ」
「海の綺麗な国かー! 機会があれば、遊びに行ってもいいか?」
「べ、別にいいわよ……あなたが行きたいなら」
アクリアは何故か俯いて、悩んでいる様子だ。だが、サンはあまり気にせず両手でテーブルを軽く叩いた。
「オイラ、今日は同じ仲間ができて嬉しかった! だから、これから一緒によろしくな――アクリア!」
満面の笑みを浮かべると、アクリアも釣られたのか、軽く微笑んでいる。
「ええ、よろしくね。お互い、成長し合いながら頑張っていきましょ」
「ありがとな! てことで、店員さーん! オイラ、チーズステーキ食べたいからよろしくー!」
近くにいた店員に声をかけ、サンは手を上げる。それに対し、アクリアはやれやれと言った様子で肩をすくめていた。
「あなた、どれだけ食べたかったのよ。まあ、少しくらい食事に付き合ってあげるわよ」
「お、アクリアも食べたいのか? だったら、この大食いステーキ15人前なんてどうだ!」
「殺す気か! アタシ、女の子なのにお腹が破裂するどころじゃ済まないわよ! って、さっき言ってたメニューの増量版じゃないの!」
「えー、そんなに元気なら食べ切れると思ったのになぁ」
「まだイジり倒すかっ!」
サンは頬を掻いて笑う。
「あはは、褒めても何も出ないぞ!」
「褒めてもないわよ! はぁ、この子が同じ新入生だと思うと……ため息が出るわ」
アクリアが顔を下に向かせ、ため息を吐く。サンは彼女の様子に不思議そうな顔になるが、気にしないようにした。
その後、お互いに注文した料理を満腹になるまで食べきるのだった。
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