第11クエスト カルディアの盾
数分後。ブレイブ学園の上級生たちも集まり、グラウンドはお祭り騒ぎになっていた。二人の対戦を見る為に集まった野次馬たちで埋め尽くされている中、中央にいる彼らの姿が目立っている。
サンとゼシロスは向かい合うように立っていた。周囲は大きな歓声に包まれているが、サンは目の前の相手に集中する。強敵と戦えることに、サンはワクワクしていた。
「――ではこれより! サン君とゼシロス君のエキシビションバトルを開始します!」
拡声器を通したリュウショクの大声が響くと同時に、観衆たちは大いに盛り上がる。それを聞きながら、サンは大きく息を吸い込む。
「おっしゃー! 燃えてきたぞ!」
声を張り上げ、構えを取る。すると、ゼシロスは自身の体に右手をかざす。次の瞬間、彼の胸元には白い魔法陣が浮かび上がった。
「もし、私の体に付着した魔法陣を破壊できれば君の勝ちにしよう。時間制限は……3分だ」
「なるほどな……よし! 絶対に勝ってやる!」
理解したところで、再び大きく深呼吸して集中力を高めると、サンは勢いよく飛び出した。そして、瞬く間に距離を詰める。対するゼシロスは微動だにしないままだ。そのまま拳を振りかぶると、迷いなく打ち込む。しかし――その攻撃が届く前に、白く光る正方形の障壁がゼシロスを守るように出現した。驚いたサンは慌てて距離を取り、着地して呟く。
「防御魔法なのか……!? カルディアの盾ってそういうことか!」
笑みを浮かべ、今度は高く飛び上がる。今度は、落下しながらのかかと落とし。それもまた障壁によって防がれてしまう。今度はゼシロスの反撃。彼の指先から魔力弾が次々と飛んでくるではないか。慌てて回避するが、全てを回避することはできなかったようだ。数発被弾してしまったことで地面に倒れ込んでしまう。
「もう30秒切っているが、ここで棄権するか?」
「……誰が棄権なんかするか!」
飛び上がるように、起き上がったサン。それを見た生徒たちは大盛り上がりを見せるのだった。
「もっと本気の本気を見せてやる! フレイア!」
両手の間に魔力を込め、火球を灯す。それを思いっきり投げつけると同時――サンは走り出す。
「うおおおお!」
左手に魔力を込め、螺旋のオーラを纏う。
ゼシロスは、こちらの投げつけた火球を障壁でかき消した後、またしても指先から魔力弾を発射していく。もう簡単にやられるサンではない。今度こそ相手の攻撃を避けていき、一気に距離を詰めた。
「食らえ! タイヨー拳だあああ!」
左拳を相手の胸元に叩きつけようとする。だが、
「楽しませてもらったよ。なかなか素質のある新入生だ」
サンのタイヨー拳を、またしても防御魔法の障壁によって阻まれてしまう。もうほとんどの生徒がダメだと思っていただろう。
しかし、これがサンの作戦だった。空いた右拳に魔力を再び注入した。
「まだ終わってないぞ!」
「ほう……?」
ゼシロスは冷静だったが、その瞳は僅かに見開いていた。サンは右手でのタイヨー拳を繰り出そうとする。
「これがオイラの――全身全霊だあああああ!」
ゼシロスの胸元に付着した魔法陣に見事、直撃。割れるように破壊され相手は数センチ後方に動く。そこで試合終了を告げる声が響く。
「そこまで! エキシビションバトルの勝者は、サン君です! 今すぐ大きな拍手を!」
その瞬間、割れんばかりの歓声が上がった。同時にサンはガッツポーズをして喜びを表現する。
「やったぞー! みんな見てくれたか!? オイラがサンだー!」
「勝利おめでとう、サン。君はこれからの成長に期待できそうだ」
涼しい顔をしているゼシロスが、こちらへ歩いてくる。よく見ると彼は、痛がる素振りも見せない。今のサンにはどうでもいいことだ。とにかく、今は嬉しさでいっぱいなのだから。そんな彼の前にやってきたゼシロスは手を差し伸べた。その手をガシッと掴み取ると力強く握手を交わす。
「さすがゼシロス先生だ。実力は本物だったぞ……いつかオイラ、先生よりもっと強くなるからな!」
「君が強くなるその日まで、何時でも待っているよ。さて、入学式もあと少しで終わる。しばらく待っていてくれ」
お互い握手をやめると、ゼシロスはリュウショクの元へ行く。その背中を見つめ、サンは密かに左拳を握るのだった。
・・・
3分ほど経過した後だろうか。上級生たちは自身の教室へ戻り、新入生は再び、ステージ台の前で集まる。そんな中、隣のアクリアにサンは自慢話をしていた。
「見たかアクリア!? オイラ、あのゼシロス先生に攻撃を当てたぞ!」
「さっきも聞いたわよ、まったく」
アクリアは、やれやれといった様子で呆れている。サンはニヤニヤが止まらず、口数が減らないでいた。
「やっぱりオイラ、将来は凄い勇者になるんだなぁ。もうなんか、やる気満々だぞ!」
「あなた。あの人が手加減してたとはいえ、よく調子に乗れるわね」
衝撃の言葉に、サンは動きが停止する。
「ゼシロス先生が、手加減?」
「戦って分からなかったの? 彼が最後に攻撃を受けたのもワザと。みんなに楽しんでもらおうと、あなたに華を持たせたのよ」
それを聞いて、サンは口を大きく開ける。アクリアはやばい事を言ったかのように気まずそうだ。
「あっ……別に、あなたのやる気を削ぐために言った訳じゃなくて。事実を言っただけ。まあ、とにかく元気出しなさいよ――」
「すっげー!」
サンの目は眩しいくらいに輝いていた。落ち込んではいない。むしろ興奮していて、今にも走り出したいくらいだという表情である。そんな様子を目にしたアクリアは驚いていた。
「ど、どうしたのよ急に」
「だって、手加減してたってことは実力を隠してるってことだろ? ゼシロス先生が本当にどれくらい強いのか、もうワクワクばかりだ!」
ポジティブ思考なサンに、アクリアはおかしそうに軽く笑う。
「馬鹿なのか、そうじゃないのか……本当にその前向きさ、羨ましいわね」
2人で顔を見合せ、微笑み合う。そんな時だった。
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