第28クエスト 奴ら再び

 宴が終わり、朝を迎えた次の日。



 サン達は村人全員に見送られ、オリーブ村を旅立とうとしていた。



「皆さん、オリーブ村の村長として改めてお礼を言います。今回は本当にありがとうございました」



 深々と頭を下げる村長。アクロは穏やかな表情で言った。



「村の方々が無事でいてくれて俺達も安心しました。元気に暮らしてください」


「アルマ、セラピー! 結婚してもずっと仲良くするんだぞ!」


「サンくん。私、セラピーが無事で本当に良かったです。もう二度と離れないようにずっと幸せでいます!」


「今度は客人としてオリーブ村を訪れてくれ。その時は、オリーブ村名物の蜂蜜を分けてあげるよ」



 セラピーの誘いに思わず、



「ほんと!? じゃあ、明日来るからほしい!」


「いや、明日は学校だからサボってどーすんのよ」



 アクリアのツッコミと同時にチョップが脳天に刺さる。



「冗談だって! 時間があればまた来るぞ!」



「時間だし、そろそろ行こうぜ! 急がないと学園長が待ってるしな」



 キバッグに対して、アクロは頷く。



「そうだな。じゃあ俺達はこれで……ん?」



 アクロは右横を振り返ると、じっと何かを見つめていた。サンもそこを見るが何も見当たらない。



「どうしたんだ、アクロ先生?」


「そこにいるのは分かっている。早く出てきたらどうだ?」



 アクロが何もないところで語った瞬間――その場所から白煙が巻き起こる。



「な、なんだ!?」



 突然の強風に吹き飛ばされそうになるも、サンはその場でぐっとしがみつく。白煙が発生した箇所を見ると、徐々に晴れていく。そこにいたのは昨日の見慣れた人物達だった。



「おい、あれって……」



 キバッグも気付いたようで、あの二人は間違いない。



「アタシの見間違いじゃなければ……ハシュラと昨日の仮面ね」



 アクリアの言うとおり、目の前にいたのはハシュラと仮面の少年ルナークだった。それだけじゃない。その周りには、ハシュラの部下と思わしきモンスター達が50匹ほどいた。



「どうやらこのモンスター達は手下っぽいな。おまけに親玉さんの様子もおかしいしよ。どうなってんだこりゃ?」



 アクロが面倒くさそうに頭を掻く。ハシュラの表情を見るとどこか違和感があった。まるで無表情で何かに操られている様子だった。



「昨日ぶり……とでも言っておこうか。今日は君たちに決闘を申し込みに来た」



 ルナークの姿をキバッグは睨みつけていた。



「どういうことだ? おめえらの目的は果たせたんじゃねえのか?」


「確かに目的は果たせた。だが、今回は僕達の興味本位で戦いを申し込みに来た。特に僕は……そこの君と戦いたい」



 指名した先は――サンだ。驚きのあまり、声が漏れてしまい体が固まってしまう。



「オイラ……?」


「あなた、いきなりそんなこと言ってアタシたちが引き受けると思う? お断りよ、帰って頂戴」



 アクリアが強く断ると、ルナークはこう言った。



「君たちが戦いたくないと言うならば、こちらから先手を打たせてもらう……ハシュラ」


「グオオオオ!」



 激しく流れる炎を体に纏うハシュラ。サンが瞬きをした瞬間、その巨体は数メートルまで来ていた。



「はやっ――」



 サンは驚きのあまり、体を動かせない。何も反撃できないままやられてしまう。その時、何かを受け止める金属音と共に攻撃はやって来ない。



 閉じていた目をゆっくりと広げる。



「やれやれ。いきなり襲ってくるとか、ちょっと強引すぎるんじゃない?」



 ハシュラの攻撃を矛で受け止めていたアクロ。サンは安心のあまり、笑みがこぼれてしまう。



「アクロ先生、ありがとう!」


「役割分担だ。俺はハシュラと戦う。キバッグとアクリアは手下のモンスターを一掃。そしてサンはそこの仮面と戦え」


「……決まりだ。君は僕と一緒に来てもらう」



 ルナークは村の外へと走り出す。サンも追いかけるように、その場を後にした。



「くっ……アクロ先生、また後で会おうな!」



 手を振って別れた後、ルナークに追いつこうとする。向かっている先はオリーブ村からニュートピアに帰るまでの森の一本道。相手の足が速いこともあって、追いかけるだけで精一杯だった。前にいるルナークへ声をかけようと、サンは視線を変えない。



「おまえ! どうしてオイラと戦いたいんだ?」


「……君からは特別な何かを感じた。だから戦いたい」



 確かにサンも彼と特別な何かを感じていた。



 一度でいいから手合わせをすれば分かるかもしれない。サンは彼のことが気になってしょうがなかった。それを聞いて、サンはニヤッと笑う。



「そっか……オイラもなんだ! 実はオイラもお前と戦いたいたかった!」


「お互い意見は同じということか……ここまで来れば大丈夫だろう」



 突然ルナークが立ち止まると、サンは転びそうになる。



「おっとっと」



 なんとか踏みとどまり、たどり着いた場所は森の中心にある大きな噴水だった。ルナークは大きくジャンプし、大きく離れた所で着地した。



「ここなら誰も邪魔が入らないだろう。さあ、始めようか」


「なあ、オイラはサンって言うんだ! お前の名前、教えてくれよ!」


「……ルナークだ」


「ルナーク、真剣勝負だ!」



 ルナークが只者ではないことは分かっていた。それでもサンは先手を打ち、速攻で相手に突撃していくのだった。

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