第27クエスト ブレイブクリスタル
ハシュラを撃退し、オリーブ村の人達は解放された。壊された村長の家の地下室に隔離されていて、食べ物も与えられなかったのかほとんどが衰弱していた。
その中にアルマの恋人セラピーや祖父であるオリーブ村の村長もいる。
食べ物を分け与え元気を取り戻した後の夜、サン達は村人達と一緒に祝いの宴を中心のキャンプ場で行っている。異なる種族での珍しい宴の組み合わせは、まさにお祭り状態だった。
「なあなあ、この肉美味しいぞ!」
「あ、サン! オレにも分けろよ!」
肉を取り合うサンとキバッグ。
「あなた達ねぇ、もっと遠慮しなさいよ……」
その様子を見て呆れるアクリア。
「ほっほ。アクロ殿、この度は助けていただきありがとうございます」
「いやぁ、俺はやるべき事をやっただけなんで。だから、お礼なんていいですよ」
語り合うアクロとオリーブ村の村長。
全員がこの宴を楽しみ笑い合う。しかし、宴にはある人物の姿がなかった。サンは気づいて見渡すが、姿はどこにもなかった。
「ん、どうしたんだよ。サン?」
キバッグに呼びかけられるとサンは言った。
「アルマとセラピーがいないなって思ってさ。どこに行ったんだ?」
「そういえば、村長の家のほうに二人で行くのを見たぜ。あれだ、夫婦二人で仲良く過ごしたいんじゃねえか?」
「キバッグ、ちょっと二人のところ行ってくる!」
そう言ってサンは、村長の家へと向かう。
「あまり茶化すんじゃねえぞー」
遠くからキバッグの声がして手を振る。
壊された村長の家へとやって来たサン。跡形も無い民家の中心を見る。そこには、残された小さなソファに見慣れた人物二人の姿が。アルマとその赤髪の婚約者セラピーだった。
どうやら二人の時間をここで過ごしているらしく、お互い顔を赤らめて見つめ合っていた。
「アルマ、君には心配をかけてしまったね。俺が不甲斐ないせいであのモンスター達に……」
「そんなことないわ。あなたが戦ってくれたのに私は何も……でも、本当に無事で良かった」
「俺も君が無事で良かった。なあ アルマ」
「どうしたの、セラピー?」
セラピーは彼女の顔を見つめながら、
「ずっと会いたかった」
「うん……私も」
お互い、唇を近づける。そんないい雰囲気の中、サンはお構いなしに――。
「おーい、二人共ー!」
二人に近づいて手を振った瞬間、驚きの声が重なった。
「さ、サンくん!? どうしてここに!」
アルマが聞くと、サンは首を傾げて言った。
「え? 二人の姿がないから顔を見に来たんだ!」
「べ、別に私たちそんな事とかするつもりなくて、ただセラピーにキュンとしちゃって、つい出来心で――」
「落ち着こうアルマ」
セラピーはアルマの左肩に手を置いた。
「はっ……ご、ごめんなさい」
「照れてる君も可愛いからいいけどね……サン。今回はモンスターから、俺達を救ってくれてありがとう。次の村長として、改めてお礼を言うよ」
頭を下げるセラピー。
「お礼ならアクロ先生に言ってくれ! オイラ、何もしてないぞ」
「そんなことはない。君はアルマをこの村まで送り届けてくれたじゃないか。だから、感謝しきれないくらいの恩がある」
「そっか、ありがとな! それにしても、あいつら……目的がどうとか言ってたけど、セラピーは知ってるのか?」
「恐らく、この村の奥にある洞窟の水晶を奪いに来たんだろう」
サンは更に尋ねる。
「その水晶って珍しいものなのか?」
「村長の話によると、50年ほど前、突然現れた水晶らしい。俺は詳しくわからないが、その水晶が持つ力をきっと奴らは――」
「別名……ブレイブクリスタル。その昔、勇者レジェッドが世界を救ったと同時に、各地で突然現れた事からその名がつけられた」
後ろを振り返ると、宴会を楽しんでいたはずのアクロが近くにいた。
「アクロ先生! どうしてここに?」
「まあ、ちょっと会話に混ざりたくなってな。ラブラブしてるとこ悪いけど、俺も混ざっていい?」
はい、と答えるセラピー。
「もちろんです。アクロさんは水晶の事について知ってるんですか?」
「まあ、本で知った程度だけどな。サン、お前と俺がライメイタイガーを倒したときのこと覚えてるか?」
ライメイタイガー。アクロの生徒を殺した仇だ。その出来事についてはよく覚えていた。
「知ってるぞ! アクロ先生と一緒に倒したモンスターだよな!」
「倒した後、モンスター専門の学者たちにライメイタイガーの体を調べてもらったんだが……そのブレイブクリスタルの欠片が見つかった」
「……アクロ先生。オイラの答えが当たれば、そのブレイブクリスタルは――力をパワーアップさせるものなのか?」
ふっと笑った後、アクロは言った。
「どうしてそう思う?」
「だってあの時のモンスター、うまく言えないけど……自分が抑えきれなくて暴走してる感じだった」
「お前の言うとおり、ブレイブクリスタルはその使用者の力を何倍にも増幅させるものだ。使い方を誤ると危険なものにもなる。恐らく、エンパイアはそれを使って何かするつもりなんだろう」
「アクロ先生は分からないのか? クライスの目的の事」
「さあな。ただ言える事は……とんでもない悪事を働いてる事は間違いない。すまないね、楽しく過ごしたいはずなのにな。とりあえず、今日は宴会を楽しもうじゃないか」
「そうだな! よーし、じゃあ二人の馴れ初めってやつ聞かせてよ!」
アルマは顔を赤くしながら、慌て始める。
「な、馴れ初めですかぁ!?」
「お、いいね。俺も聞きたいなぁ」
アクロも楽しそうにしながら、交える雑談。時間はいつの間にか過ぎようとしていた。
・・・
その頃、とある洞窟内のアジト。ルナークは本部に帰還し、ピエロのような男に報告していた。
「レインジョーカー様、ブレイブクリスタルの回収を完了しました」
「わお、こんなにいっぱい持ってきたのかい? やっぱり君はすごい子だよ、ルナーク」
レインジョーカーという人物は手を叩いて大喜びする。そして、とあるモンスターは激しく怒った様子で彼に迫った。
「おい、約束通り……娘は返してくれるんじゃろうな⁉」
「そんなかっかしなくても、返してあげるよ。ほら」
レインジョーカーは人差し指を上に向けると、一周だけ円を描く。すると、地面に灰色の魔法陣が描かれ、彼の隣に謎の女性が魔法陣から吐き出すように現れた。
ハシュラの娘とは思えない美しい人間の20代である女性、メリッサ。彼女が今回、レインジョーカーに囚われたのだ。
「め、メリッサか!?」
ハシュラは驚きながら娘に駆け寄り、メリッサは父親の体をぎゅっと抱きしめる。
「お父さん……!」
「遅くなってすまんのう……!」
「私は大丈夫だよ。それよりもお父さんに何かあったか心配で……」
「ワシは元気じゃから心配せんでええ。本当に無事で良かった……レインジョーカー! 解放された以上、もう貴様の言いなりにはならん! 今日で縁を切らせてもらう」
レインジョーカーは何か考え込んだ後、ニヤッと笑みを浮かべている。
「へえ……そりゃあ君の好きにすればいい。でも、やり残した事あるんじゃない?」
「何が言いたいんじゃ?」
「カルディアの矛、アクロだよ。負けて悔しいんだろう? このまま負けっぱなしで終わるなんてもったいなくないかな?」
レインジョーカーの言葉に曇った表情を見せるハシュラ。明らかに動揺しているのがルナークでも分かっていた。
「誰がお前なんぞの言葉に……!」
「悔しいよね! モンスターが人間ごときに負けるなんて。だからさ……僕が力を貸してあげるからもう一回、戦ってみない?」
ルナークは気付いていた。レインジョーカーが例の催眠魔法を使ってハシュラを洗脳しようとしていることを。彼の言葉に惑わされたが最後、抜け出すことは難しい。
「わ、ワシは……」
「お、お父さん……?」
その光景を見てルナークも決意し、レインジョーカーに言った。
「実は気になる人物がいるのですが……僕もその人物と戦ってはだめでしょうか?」
「ルナークも戦いたい相手がいるのかい? 君がそこまで言うなら……面白そうだね! じゃあ、ハシュラの部下のモンスター達を引き連れて、明日もう一回だけオリーブ村に行きなよ! 僕は君たちの勝負をひっそりと観戦するからさ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
ルナークはその場を後にし、一人で歩いていく。
気になる人物は、オレンジ髪の鉢巻をしていた少年。なぜなら自分と同じ感じがした。ただそれだけの理由で戦いたい。ルナークは静かに拳を握るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます