第23クエスト 学園長の呼び出し

 あれからしばらく経ち、サンは自室へと戻ってきた。

 ベッドに横たわり、アクロの言葉を思い出す。天井を見ながらぼーっとしていた。


「アクロ先生、強かったな……オイラ達、敵わなかった」


 サンは目を細め、スペシャル授業の内容を思い出す。


「アクリアやキバッグも強いはずなのに。どうしたら連携プレイがうまくいくんだ? うーん……」


 頭の中を回転させると、扉からノック音が聞こえてくる。サンは後ろを振り返った。


「さっきぶりね。入ってもいいかしら?」


 外からアクリアが話しかけてくる。


「アクリア? うん、いいぞ!」


 サンはベッドから走り出し、扉の前に立つ。

 鍵を開けると見慣れた人物が2人やって来た。アクリアとキバッグだ。


 アクリアは真面目な表情、キバッグは嬉しそうに笑っていた。


「よお、サン。オレも邪魔するぜ!」

「キバッグも! 2人共どうしたんだ? オイラの部屋に入るの初めてだよな。ゆっくりしていいぞ!」

「お言葉に甘えさせてもらうわ。さっそくだけど、あなたを訪ねた理由はただ1つ。今日の反省よ」


 アクリアが近くの椅子に座る。


「今日は手も足も出なかったな。まだ直撃した場所がひりひりするぜ……」

「わ、悪かったわよ。アタシもわざとやったわけじゃないんだから」

「あれだけすごい魔法が使えるんだ。わざとじゃないのは分かってるぜ」

「め、珍しくいじらないのね」

「ん? オレはありのままを述べてるだけだぜ。褒めてるんだから、もっと喜んでいいぜ!」

「オイラもアクリアの魔法はすごいと思う!」


 アクリアは顔を赤くして微笑んでいる。


「あ、ありがとう……嬉しいわ」

「照れてる顔も可愛いな、お前!」

 キバッグに褒められ、アクリアは遠慮がちに顔を背けている。

「や、やめてよ。それより、今日の反省をしましょ。じゃないと、いつまでもアクロ先生に負けっぱなしよ」

「そうだな! じゃあ、今日はまったり反省会だ!」


 サンが叫んだ時。部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。

 振り返ると、扉が開いて入ってきたのはアクロだった。


「よお、お前らここにいたか」

「アクロ先生! どうしたんだ?」


 サンが尋ねると、アクロは面倒くさそうにため息を吐いている。


「至急、学園長室まで来るようにって学園長からの呼び出しだ。ったく、忙しい時に呼んでくれるとは……つーわけでお前ら。後で来るんだぞ」


 そう言い残して、アクロは部屋を後にした。


「オレら、なにかやべーことしたっけ?」

「さあね。とりあえず、学園長室へ行ってみましょ」


 アクリアの言う通り、部屋を後にする。学園長が直々に呼び出すとは重要なことなのだろう。サン達は急いで向かうのだった。



・・・



 ブレイブ学園の廊下を歩き、学園長の前までたどり着いたサン達。


「アクロ先生、いきなりオイラたちを呼び出してどうしたんだ?」

「さあね。しかも職員室の前に待たされるってことは、急用かもしれないわよ」


 アクリアの言葉に、キバッグは首を横に振る。


「まさかアクロ先生の雑用をしろとか言わねえよな? そんなのだったらオレは嫌でも退散するぜ」


 キバッグが嫌そうに言うと、サンは両腕を組んで考える。


「けど、アクロ先生……そんなこと頼むのか?」

「急な用事だ。きっと自分で仕事できないからオレたちに――」

「やだなぁ、キバッグ。俺ってそんな人間に見えちゃう?」


 背後を振り返ると、アクロがいつの間にかいた。キバッグは驚きながら、その場で後ずさりしている。


「げっ、アクロ先生!」

「お前……会ってすぐに、げっはないだろ」


「ち、ちげーよ。いきなり現れたからびっくりしただけだって。あはは!」


 笑ってごまかすキバッグだが、その瞳は完全に泳いでいた。


「本当はビビってるくせに……それで、アクロ先生。こんなところに呼び出して何か用事?」

「もしかして新しいスペシャル授業をするのか!?」


 アクリアやサンが問うと、アクロは首を横に振る。


「授業はまた今度。お前達を呼んだのは……とりあえず学園長室に行くぞ。俺についてきな」

「え、学園長のところに行くのか?」


 サンが喜ぶ顔をすると、アクロはとある方向を見る。


「まあな。学園長が直々お呼びになってる。さて、そこの奥の部屋がそうだから入るぞ」


 とある扉の近くで、キバッグとアクリアは目を合わせていた。


「なあ、オレたち……なんかホントにやっちまったのか?」

「アタシにも分からないわ。とりあえず向かってみましょ」


 アクロに連れられ学園長室の扉の前に立つ。


「学園長、失礼しますよ」

「どうぞ入ってください」


 学園長室に入ると、目の前には木のテーブルに黒い椅子へ座っているリュウショクの姿。

 周りを見渡すと、歴史を感じさせる写真や武器などが置かれていた。


「言われた通り、期待のルーキー3人を連れてきましたよ」

「アクロ君、ありがとうございます。いやぁ、急な事態に連れてきて頂いて嬉しい限りですよ!」

「学園長、久しぶりだな!」


 サンが笑顔を向けると、挨拶を返すリュウショク。


「サンくん、お久しぶりです。どうですか、学園生活は楽しんで頂けてますか?」

「おう! 実はパーティをこの4人で組んでて、いろんなことを勉強してるぞ!」

「そうですか! アクリアさんも、変わらずサンくんと仲良くされて私も嬉しいです。今にも泣き出しそうな感覚ですよ!」


 親指を立て、リュウショクは白い歯を見せている。アクリアは、やれやれと言った表情だったがどこか嬉しそうだった。


「そうね。アタシも頼もしい友人たちができて嬉しいわ。こちらこそ、入学させてくれてありがとね」


 リュウショクは2回頷くと、キバッグにも視線を移す。


「そして、あなたがキバッグ君ですね! お兄さんに続き、あなたも入学してくれて光栄ですよ!」


 その事を聞き、サンはキバッグを見つめる。


「えっ!? キバッグって兄ちゃんがいたのか? それも、ブレイブ学園に?」

「ええ。彼のお兄さんは、5年前にブレイブ学園へ入学しましてね。その優秀な成績から首席1年で卒業したのです」


 リュウショクの説明に、アクリアも聞き入っている。この場にいる全員が、その事実に驚愕しているだろう。


「へぇ。あなたのお兄さんって、素晴らしい人だったのね。もしかして、お兄さんに憧れてブレイブ学園へ入学したの?」


 キバッグはなぜか、しばらく黙っていた。いつものように自慢することも、調子に乗ることもなかったが、やがて口を開いた。


「……まあな。でも、オレと兄貴の話はどうでもいいだろ。それよりも、学園長さんよ。オレたちをここに呼び出した理由を教えてほしいぜ」


 キバッグも何か言いづらい過去があるのだろうか。サンは聞きたいが、今は我慢しようと決心する。


「そうだな! 学園長、オイラたちに頼み事か? 何かあるなら、みんなで協力するぞ!」

「ありがとうございます。実は、とあるパーティが前のクエストで負傷者が出てしまいましてね。これから予定していたクエストのパーティ編成をどうするべきか悩んでいたのです」


 リュウショクが経緯を説明すると、アクロはフッと笑う。


「なるほど。そのクエストに俺たちへ出向いてほしいと」

「そうです。他のパーティがクエストでいない以上、これから期待のパーティにお願いしようと思った結果……君たちを選んだのです」


 サンは1歩詰め寄って興奮する。


「それって、オイラたちがすごいってこと!?」

「あなた達は、アクロ君を助けてくれました。その強さは、彼から直接聞いています。本来なら、新入生であるあなた達は、クエストの受注は先ですがね。それでもよろしければ、引き受けて頂けますか?」

「もちろん! みんなもクエスト受けるよな?」


 サンが、アクリアとキバッグに振り返ると既に頷いている。


「アタシは構わないわよ。初めてのクエストで、どこまでやれるのか試したいからね」

「オレもいいぞ。どんなクエストを受けるのかワクワクしてるぜ!」


 全員、やる気満々のようだった。アクロは3人を見ながら、


「全員、賛成だな。俺たちは行きますよ、学園長。こいつらもやる気満々みたいだし、教えてあげてください」

「分かりました。それでは早速クエストの内容を説明していきます。今回は――」

「あ、あの! 内容は私から説明させてください!」


 どこからか聞こえた可愛らしい女性の声。周りを見ると、リュウショクの側にとある妖精が飛んでいた。

キバッグが言った。


「なんだ? えらいちっこいのが出てきたな」


 その通り、女性の身長は人の頭部分のサイズしかなかった。

 背中に羽をはやし、金髪の髪。桃色のドレスを着ている女性は遠慮がちな様子でいた。


「学園長。こちらのお嬢さんは?」


 アクロが尋ねるとリュウショクは答えた。


「彼女はフェアリー族のアルマさん。3日前に傷だらけの状態へこの学園に助けを求めに来たんです」

「フェアリー族……私は本で読んで知ってた程度だけど初めて見たわ」

「オイラ、サンっていうんだ! もしかして、今回の依頼人?」


 アルマと呼ばれる女性は静かに頷いた。


「実は私達の村が大変な事になって……ブレイブ学園なら依頼を受けてくれると聞きました。今回、必死でここに来たのもそのためなんです」

「よく見たら怪我してる箇所があるわね。あなたの村で一体何が起きたの?」

「それは――」


 アルマが言いかけた時、リュウショクはゆっくりと立ち上がった。


「詳しい話は目的地へ向かいながらのほうがいいでしょう。皆さん、アルマさんの村は謎のモンスターに襲われました。どうか、彼女の村を救い生きて帰ってください」

「オイラ達なら大丈夫だ! だってこのパーティ……強いから!」

「ああ……そうだな!」


 キバッグがサンの右肩に手を置いた。アクリアやアクロは、頷いて軽い笑みを見せている。


「頼もしい限りですね。やる気は充分のようですし、明日の朝から出向いてもらいましょう」


 リュウショクの期待に応えるため、サンは「おう!」と大きな返事をした。


 初めてのクエストに胸が高鳴る。必ず活躍するため、サンは心の中で気合いを入れるのだった。

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太陽のブレイバーズ~勇者を目指す少年の軌跡~ カズタロウ @kazu_akatsuki

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