第24クエスト クエストへ出発

 次の日の朝。サン達はニュートビアの近くにある大きな橋の前で集合していた。


 初めてのクエストに楽しみで仕方なく、調子は万全だ。その証拠に朝6時に起きて朝食をしっかり食べてきている。



 腰に布柄のポーチをぶら下げ、サンは目的地に行きたくて仕方ない。



 「ついに初めてのクエストだな! オイラ、朝からぐっすり眠れたぞ!」


「寝れなかったじゃねーのかよ!? 普通、緊張して寝れねーだろ……」



 キバッグのどこか元気のない様子に、アクロは右肩を叩く。



「どうしたキバッグ。初クエストだってのに、喜びもしないなんてお前さんらしくないな。まさかのド緊張してる?」


「いや、そこまでじゃねーけどよ。これから受けていく色んなクエストが成績に響くってなるとちょっとな……」


「そんなこと考えてたのか? お前さんは、組み手のときにサンと互角に戦ったんだろ? なら実力は申し分ないでしょ」



 アクロの言葉に、キバッグはグイッと前へのめり込んで瞳を輝かせる。



「もしかして、オレのこと褒めてくれてんのか!?」


「パワーならお前に負ける奴はいないだろうな。サンだって、その実力を認めてるさ。なあ、サン」



 アクロがサンに視線を移すと、思わず強く頷いた。



「もちろんだ! キバッグはとても強い! パワーはお前のほうが上だし、魔法だって他のみんなにも引けを取らない。これからのクエスト、全員で頼りにしてるぞ!」



 サンの本心に、キバッグの表情は明るくなっていく。



「さ、サン……! はははっ、オレは何を落ち込んでたんだ。そうだ、オレはこんなことで悩む男じゃねえ。よし! そうと決まれば、おめえらの何百倍、何千倍も力になってやるぜ!」


「いつものキバッグに戻ったな! オイラも絶対に活躍するぞ!」


「ふっ。アクリアなんか見てみろ、後ろでさっきから、精神を落ち着かせて感心だなぁ」



 アクロが後ろを振り返ると、そこにはアクリアが下を向いて何か呟いていた。



「アタシならやれるアタシならやれる……!」


「あ……緊張してたのがもう一人いたなぁ」



 アクリアの明らかな異変に、アクロは苦笑いを浮かべる。



「ほら、アクリア! 肩の力、抜けよ!」



 キバッグは右手で、アクリアの左肩を叩いた。正気に戻った彼女は驚いている。


「いたっ!? なにすんのよ!」


「悪かったって。肩の力を抜かそうと思ってよ。最初からリラックスしたほうが気持ちいいぜ」



 キバッグが親指を立てて笑みを浮かべると、アクロが様子を息を吐いて見守っている。



「いや、お前さんもさっき緊張してたんだけどなぁ?」



「なんの事か忘れちまったぜ……というのは冗談で。緊張してるのは最初からオレも同じだぜ」


 キバッグの安心させるような笑みに落ち着いたのか、アクリアは息を小さく下げている。



「ご、ごめんなさい……」


「いいって。今回もお前のとびきりすごい魔法見せてくれよ! 後、鋭いツッコミも期待してるぜ!」


「最後だけ台無しな気がするんだけど」



 アクリアが目を細めて顔をしかめると、キバッグは笑う。



「あ、あの。そろそろ……ご案内してもよろしいでしょうか?」



 アクロの後ろに隠れていたアルマがそーっと現れる。



「アルマさんも心配のようだし、そろそろ行くか。お前ら、勝手な事せず集団行動を心がけるんだぞ」


「はーい! よーし、みんな行くぞー!」



 サンは命令を聞かず、一人で走っていく。それを見たアクロは、



「やれやれ……ピクニックじゃないのにな」



 目指すはアルマの故郷――オリーブ村だ。ここから歩いて半日かかるらしい。サン達は目的地へ徒歩で目指すのだった。




・・・




 その頃、オリーブ村の村長宅はモンスターに支配されていた。家内は家具など壁が荒らされて、既に襲われている。特に玄関は大きなモンスターに入られ、半壊していた。



 一本の瓶に入っている酒を飲み干す人型の二メートルほどあるモンスター。頭から背中まで繋がっている黒いトサカに相手を睨みつける赤い瞳。



 鋭く尖った爪で部下を指差し命令する。黄色の体色を持つ大柄なモンスターは、酒を求めているようだった。



「おい、これだけか? もっと酒を持ってこいや!」


「へ、へい。今すぐお持ちいたします」



 部下のモンスターは頭を下げ、その場を立ち去る。



 ボスのモンスターの前で立ち尽くす一人の仮面を被った少年――ルナークは先ほど耳に入った情報を伝える。



「さっき入った情報によると、村長の娘とブレイブ学園の人間たちがこっちに来ているらしい」



「あー? 逃げ延びたフェアリー族がのこのこと戻って来るとはええ度胸じゃのう。で、その仲間は何人おるんじゃ?」


「4人だ。その中に、カルディアの矛と呼ばれるアクロがいる。厄介な相手だから気をつけてくれ」



 手に持っていた葉巻に2本の指を交錯させ、火をつけるモンスター。口に含むと、大きく煙を吐いた。



「お前のような若造に言われなくても分かっとるわ。ワシがおる限り、この村は支配させてもらう」


「それまでの間、我々は目的を遂行させてもらう。達成したらお前は自由の身だ」


「ふん……貴様のボスに受けた仕打ち、後で倍返しにして返してやるけえの」



 ルナークは仮面の下に隠れた片眉をピクリと動かした。


「後でどう過ごすかはお前の自由だ。だが――」



 勢いのつけた回し蹴りを――ルナークは数センチの所でモンスターの目の前で止めた。



「お祖父様に手を出すことは、死に値すると知ってもらおうか、ハシュラ」



 ハシュラと呼ばれたモンスターは、葉巻を手のひらでグシャっと握りつぶす。



「……まあ、少しの間じゃけえ。仲良くしようじゃねえか、ルナーク」



 豪快に笑うハシュラ。一人のモンスターを見つめながらルナークは片足を戻す。



 誰であろうとあの方の目的は邪魔させない。幼い頃からの信念を曲げずにはいられなかったルナークであった。

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