第25クエスト チームプレイ
サン達が村へ向かってから三時間ほど経っていた。赤い色模様が溢れる森の中へ入り、全員で他愛ない会話しながら歩いていく。
中でもサンは緊張することなく楽しそうにしていた。
「あなたねぇ、なんでお気楽でいられるのかしら。今から危険を伴うクエストだっていうのに」
アクリアがため息をつくとサンは答えた。
「アクリアはみんなと協力できるクエスト、楽しくないのか?」
「えっ……初めての仲間と行くクエストは嬉しいけど。やっぱり不安もあるわよ」
「言っとくけどオイラも不安だぞ。まだオイラ達って連携プレイもできてないし、パーティ組んだばっかりだ。でも怖い気持ち持ったままじゃ、みんなを守れないから。だから大丈夫だ! もしもの時はオイラが守る!」
後ろにいたアクロがふっと笑う。
「サンの言うとおりだな。俺もいざという時は助けてやる。もう誰一人、大切な教え子を死なせやしないよ」
「アクロ先生……やっぱアンタかっけーよ!」
「キバッグ。今の俺……決まってたか?」
「ああ。バッチリだ!」
ぐっと親指を立てるキバッグ。アクリアはやれやれと困り顔をしていた。
「アクロ先生も意外と馬鹿なのかしら……」
「ふふっ、皆さん仲が宜しいんですね」
背中の羽根を動かして、飛びながら先導してくれるアルマが嬉しそうに笑っていた。
「そうか? オイラたち、こんな感じだぞ?」
「ご、ごめんなさい! そういうわけじゃなくてですね、えっと皆さんが楽しそうだったからつい言っちゃったというか――」
「そ、そこまで謝らなくても。アタシたちは別に気にしてないから」
アクリアの言葉を受けるが、アルマは落ち込んでいた。
「あ、ありがとうございます。私、いつもこんなだから自分に自信がなくて……婚約者にも迷惑をかけてないか心配なんです」
「へー……って! あんた人妻かよ!?」
驚くキバッグに対して、アルマは頷く。
「はい。婚約者は私を逃がすために人質になりました……村長であるおじいちゃんも心配だしどうすればいいか分からなくて」
アルマの瞳からは涙がこぼれていた。必死に拭おうとしているが、止められないようだ。
「アルマさん……あなた」
「ご、ごめんなさい。私が信じないといけないのに、何もできなかった自分が悔しくて……」
彼女がどれだけ苦しかったか、サンは分かっていた。自分の婚約者や祖父の安否がどうなっているのか分からない。
彼女を安心させるため、サンはぐっと距離を近寄らせた。
「アルマ。お前の気持ち、苦しいよな。これだけは信じてほしい。前も言ったように、このパーティ……強いから! いつまでも泣いてたら、村のみんなに会ったとき、笑顔じゃいられないぞ?」
サンが笑うと、アルマは安心したのか涙が引いていた。
「サンくん……ありがとございます。私、もう泣きません。セラピーやおじいちゃんに会うまで涙は見せません!」
「おう! 二人の無事、オイラも祈ってるぞ!」
その時、草むらで物音がした。思わずサンはその方向を思い切り振り向いた。
「どちらさんか知らないが出てこい」
アクロが呼びかけると姿を現す。二足歩行の背中に棘が生えており、緑色の体に一メートル半ほどの体格。異様な雰囲気を放つモンスターだった。
「こんな所にモンスターが!?」
サンが驚くと、アルマは答えた。
「あれは……私達の村を襲ったモンスターです! 敵のボスが私達の事に気付いたのかも……」
「なるほどな、足止めってわけか。いい機会だ。お前たち、今から実戦を交えながら例の足りない物を教えてやる」
それを聞いてもアクリアとキバッグの表情が引き締まる。
「アタシたちに足りない物……!」
「それが分かれば、オレたち強くなれんるだな!」
敵を見ると既に興奮しており、戦うやる気に満ち溢れていた。
「ガアア!」
ナイフのような鋭い腕を振り回し、一歩近づくモンスター。サンは拳を構え、戦う姿勢に入るのだった。
そして、アクロが背中の矛を取り出した瞬間――彼は一声を放つ。
「お前ら、来るぞ!」
モンスターが勢いをつけて襲いかかる。同時に4人のパーティはそれぞれ距離を取って分散した。
「アイスランサ!」
アクリアが呪文を唱えると氷の矛が現れる。そのままモンスター目掛けて飛び出した。
しかし、氷の矛はモンスターの鋭い腕で弾き返され粉々になる。
「おらあああ!」
キバッグが重々しい大剣を振りかざす。攻撃を見切っているのか、モンスターはひらりとかわした。
チャンスを見逃さずにサンは、炎の火球を作り出す。
「フレイア!」
火球を投げつけると、モンスターはこちらに気付く。鋭い腕で弾き返されると、火球は遠くへと弾け飛んでいった。
キバッグがモンスターの懐から斬りつけようとするが、相手の右腕でガードされてしまう。
サンも続いてモンスターの顔面に右拳で殴りつけるが、やはり当たらない。
「コリザード!」
アクリアの氷魔法が襲いかかるも、前進しながら避けていくモンスター。その表情は馬鹿にしたような笑みを見せていた。
「くっ、攻撃が来る!」
サンが身構えると、今度はアクロが前に出る。モンスターが腕を振り下ろすと同時に自分の矛でガードした。
「はい、ここで問題だ。今、お前たちは何かに気づいてない。さあ、なんでしょう?」
アクロの質問に戸惑うサン。アクリアや、キバッグを見ると、同じような反応をしている。
そう言われ、すぐには答えられなかった。
「アクロ先生、オイラ達に足りない物ってなんだ?」
「なに、簡単だ。それはな――共に協力し合い、目の前の敵を、仲間と信頼しながら戦って倒す。それが連携プレイだ」
「それがオイラたちに教えたかったこと?」
サンが首を傾げると、アクロは続ける。
「この先、クエストを受けていくにはチームプレイが不可欠だ。お前たちは自分だけが活躍したいと思うあまり、すぐに気付けなかった……それだけさ」
キバッグはハッと気づいた様子で呟く。
「そうか……だからオレたち、簡単にあのモンスターさえ倒せずにいたのか」
「ま、そういう事。じゃあ、このパーティ初仕事のチームプレイをやる。俺の言いたい事はなんとなく分かるな?」
アクロの言葉に全員が頷く。
「ええ、もちろんよ! アタシが呪文を出す間になんとか耐えてちょうだい!」
そう言ってアクリアは目を閉じて集中し始める。サンは頷き、アクロたちに視線を送る。
「任せろ! キバッグ、オイラ達のコンビネーションを見せるぞ!」
「当たり前だ!」
キバッグが地面に大剣を突き刺す。
「グランクェイク!」
地面に亀裂が走りモンスターに向かっていく。足元まで来ると、地面が盛り上がり相手の態勢を崩す。
「ガアアッ!?」
サンは逃さず火球を放つ。
「フレイア!」
腕でガードされたが、相手に命中する。モンスターが着地すると同時に、キバッグは大剣を振り下ろした。
モンスターは慌てながら腕でガードするも、サンは見逃さなかった。
「ここだあああ!」
チャンスを逃さず飛び出すと、サンの左拳がモンスターの頬を殴る。相手は攻撃を受けると、数メートル吹き飛ぶ。
「チェーンプリズン!」
アクリアが魔法を唱えると同時、地面から鉄の鎖が四本飛び出してくる。そのままモンスターの体を縛りつけた。
「今よ、アクロ先生!」
アクリアが声かけるも、既にアクロはトドメを刺そうとしていた。
「お前たち、いいコンビネーションだ!」
目に見えない矛の斬撃がモンスターの体を切りつけた。アクロが武器を収めると同時、モンスターの悲鳴が聞こえ始める。
「が、ガアア……」
地面に伏せ、そのまま動かなくなったモンスター。倒したのを確信すると、サンはその場で飛び跳ねた。
「やったー!」
「よくやったよ、お前たち。ま、お前らなら倒せると信じてたけどな」
「すごいです、皆さん! とても強くて安心しました!」
草むらで隠れていたアルマが飛び出した。
「いいチームプレイだったわね」
「ああ、オレたちパーティ初めての討伐だもんな。悪くなかったぜ!」
アクリアは一息ついて笑顔を見せ、キバッグはガッツポーズをした。
「なあなあ、アクロ先生!」
「ん、どうした?」
サンはアクロに対して微笑んだ。
「オイラ達にチームプレイ教えてくれてありがとな!」
「ふっ……お前たちなら安心してクエストに挑めそうだな」
アクロが嬉しそうに言う。
オリーブ村に着くまでもう少し。サン達は更に絆を深めるのだった。
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