第43クエスト カルディア軍の本部

 シルフィ達の戦いが終わった頃。



 サンはキバッグやレイミーと共に、カルディアの地下本部を移動していた。白い壁に覆われた地下は、進むごとに光のランプが周りを照らしあちこちに金属の扉が存在している。分かれ道がいくつもあるので迷子になりそうだった。



 そしてサンは進むべき道を行きながら辺りを見渡していく。



「うーん。あちこちに分かれ道があって大変だなぁ。カルディア兵って毎日、こんな場所を通ってるのか?」



 やはり毎日通うのだから、嫌でも覚えるのだろう。このような細い道をサンはなかなか覚えられない。



「そりゃあ、ここの兵士だしな。嫌でも覚えるんだろうぜ」



 サンと同じことを思っていたキバッグ。彼は気だるそうな様子で道を歩いていた。



「どうしたんだ、キバッグ? まさか歩き続けて疲れたのか?」



 キバッグは首を左右に振って答えた。



「いや、こんなたくさんの分かれ道を通って酔いそうなんだ」


「そういうものなのか? オイラは全然平気だぞ!」



 サンは自信満々に胸を張る。



「いいなぁ、お前は元気で。羨ましいぜほんと」


「ふふっ。元気はサン君の取り柄ですからね」



 レイミーに褒められて、サンは嬉しく笑う。



「へへっ。オイラはこれからもいつでも元気だ!」


「オレもその取り柄を見習うか……うおおおおおお!」



 キバッグは突然叫びだすと、胸を両拳で叩く。サンは思わず驚いて、彼に問いかけた。



「キバッグ、どうしたんだ?」


「オレは……嫌でも元気を出すぜ!」


「あの、大声を出したらきっとモンスター達が……」



 レイミーが言いにくそうに呟くと、キバッグは叫ぶのをやめた。そして彼女の言う通り、嫌な予感は当たってしまう。そう、カルディア兵に化けていたモンスター達だ。



「なんだ!? 侵入者か?」


「至急、B1ブロックまで集合! 侵入者だ!」



 明らかにモンスターな外見の化け物がこちらへとやって来る。それだけではなく、次々と、分かれ道からモンスターが集まってくる。やばい、と思いつつ後ずさりすると完全に後ろ以外の逃げ場がなくなってしまう。



 サンは集まってきた大群に口を大きく開けた。



「で……でたー!」


「に、逃げるぞおおおお!」



 キバッグが冷や汗をかきながら叫ぶ。サン達は来た道を戻り、全速力で走っていく。



 後ろを振り返るとモンスター達が追いかけている。なんとか追いつかれまいと、サンは必死に逃げる。



「キバッグ、大声出したら見つかるに決まってるじゃん!」


「オレだって気分を晴らすためにやったんだよ! あまり責めるんじゃねえ!」


「とりあえず二人共。あの曲がり角を通って、どこかの部屋に逃げ込みましょう」



 レイミーの指示通り、目の前の曲がり角を通る。モンスター達がいないか確認し、前を見ると右側の壁に1つだけ扉があった。



「あった! あそこに逃げ込もう!」



 サンは先頭に出て扉の先へと入り込む。全速力で走り、つまずきそうになって急ブレーキをかけた。キバッグが最後に入ったのを確認し扉を閉めると、小さく息を吐いた。



 後ろから追いかけてきたモンスター達は扉の前を素通りしている。扉の窓ガラスを眺めると、周りを見ながらサン達を探していた。



「おい、いたか!?」


「くそ、逃げ足の速い奴らだ。いいか、邪魔をされる前に絶対に見つけ出せ!」



 モンスターの声が遠くなると、その場で座り込む。思わず安心してしまい、笑いが出てしまうのだった。



「へへっ。なんとか逃げ切れたぞ」


「ああ。一時はどうなることかと思ったぜ。その、すまなかったな」


「落ち込まないでください。ミスをすることは誰にでもあるのですから、元気出してくださいな」



 レイミーの優しい笑みに、キバッグは少しだけ照れている。



「お、おう。そう言われたら元気出すしかねえな!」



 キバッグはガッツポーズをして気合をいれているようだ。サンはその姿に、彼の背中を軽く叩いた。



「キバッグも元気が一番だ! また馬鹿やって、オイラを笑わせてくれよ!」


「ちょっと待て。今の言い方だと、オレがいつも馬鹿みたいじゃねえか?」


 キバッグがジトッとこちらを見ると笑い飛ばす。



「気のせいだって! あはは」


 2人で会話をしていると、レイミーは部屋の中を動き回って何か調べているようだ。よく見ると、この部屋はあちこちに本棚があり小さな図書室のような感じだった。


「たくさんの本がありますね……せっかくですし、少し調べてみましょうか」



 レイミーは棚の中から青い本を取り出して読み始める。サンも立ち上がり、右側の本棚から調べ始める。



「面白そうな本がいっぱいありそうだな! キバッグも見ようよ!」


「そうだな。オレはこっちから調べてみるか」



 キバッグも奥の本棚に向かう。



 勇者レジェッドの書籍、ブレイブ学園に関する書籍など様々な本が置かれている。サンはどれがいいか、悩んでいるとあるタイトルの本が目につく。



 カルディア養成学校アルバム……と書かれている本。サンはなんとなく気になり、その本を手に取った。



「なんだろ……どれどれ」


 サンはページをめくる。本の内容には、カルディア兵達の集合写真や盛り上がっている内容の写真などが写っている。次々とページを読み飛ばすと、ある部分が目に留まる。



「これって……アクロ先生とゼシロス先生か?」



 写真中段の右端に少年時代のアクロとゼシロスが写っている。その姿にサンは思わず、キバッグに見せびらかす。



「キバッグ! この写真、アクロ先生とゼシロス先生が写ってるぞ!」


「マジで? うーん……ほんとじゃねえか! あの2人にもガキの頃があったんだな」


「見た感じ、オイラ達と同い年ぐらいの頃だな。ここで見れてよかった!」



 サンは本を閉じて本棚にしまう。するとキバッグはこちらを見ながら言った。



「なあ、サン」


「どうしたんだ?」


「絶対に――アクロ先生達を助けようぜ」



 キバッグが拳を突き出すと、サンはそれに応える。



「もちろん! 約束したもんな!」


「なるほど……カルディア軍はブレイブクリスタルの力を使い、軍事兵器や戦力の補強に使っていた。そしてここまで大きな帝国に発展させたということですか。この事実は上層部の者しか知らない……興味深いですね」



 レイミーは真剣な表情で本を読んでいる。サンは彼女に近づいて、手を振る。



「おーい、レイミー先生」


「おや、すみません。少々、集中しすぎたようです」



 レイミーは本をしまい、本棚へと戻す。彼女は扉の前まで歩くと、こちらを振り返る。



 キバッグが辺りを見渡しながら言った。



「モンスター達、もういねえよな? そろそろ行くか?」


「ええ。時間も経ちましたし、大丈夫でしょう。今度は見つからないように慎重に行きましょうか」



 窓ガラスを見るとモンスター達の姿は見えない。今がチャンスだ。サン達はそーっと扉を開けると、そのまま出ていくのだった。

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