第15クエスト パーティ編成

 あれから組み手が終わり、時間はお昼を過ぎた。サンとアクリア、キバッグは学園内の食堂へやって来た。



 太陽の光が窓から差し込む食堂は、活気に満ちている。白い壁には色とりどりの絵が飾られ、温かみのある木製のテーブルと椅子が整然と並んでいる。厨房からは、フライパンが軽快に振られる音と共に、焼き立てのパンや煮込み料理の芳ばしい香りが漂ってくる。



 学生たちは、昼食を取りながら友人と談笑しており、その声が賑やかに響き合う。



 カウンターでは、笑顔の明るいスタッフが注文を受け、手際よく飲み物を準備している。



 食堂の隅には、小さな図書コーナーが設けられており、本を読みながら静かに時間を過ごす人々の姿もある。壁に掛けられた時計の針は、後30分で午後の授業が始まろうとしていた。



 サンはハンバーグ。キバッグはカレー。アクリアは肉野菜炒めを注文し、それぞれの料理を楽しんでいる。



「組み手、楽しかったな! みんな、いろんな魔法や技を使うしすごかったぞ!」



 サンが美味しい料理を噛み締めていると、キバッグは強く頷いている。



「ああ、そうだな。さすがブレイブ学園に入学するだけの実力はあるぜ。こりゃ、うかうかしてられねえな」


「アクリアの魔法もすごかったぞ! さすが大天才だ!」



 サンが組み手の時に見た、アクリアの戦い。さすがとしか言いようがなかった。得意とする魔法の数々で、相手を一気に倒したからだ。その時は周りの生徒から歓声が響いてたのを今でも覚えている。当の本人は、嬉しい顔でニヤついていた。



「当たり前でしょ! アタシのお得意魔法で、どんな相手もけちょんけちょんにしてあげるわ!」


「けちょんけちょんって……おめぇ」



 キバッグは馬鹿にしたような笑顔で呟くと、アクリアは分かってないような表情をしている。まさか、アクリアの口からけちょんけちょんなんて言葉が出るとは思わなかったのだろう。



「あら? アタシ、何か変なこと言っちゃった?」


「いや、なんでもねえよ。そういえば、午後は座学らしいな。今日は魔法の原理とか学ぶらしいぜ」



 キバッグがやる気なさそうにため息を吐くと、サンは午後の座学が楽しみでしょうがなかった。



「キバッグ、乗り気じゃないのか? オイラは早く勉強したくて仕方ないぞ!」


「おめぇはいつも全力だなぁ。オレ、勉強とか苦手だから羨ましいぜ」


「オイラだって勉強は苦手だぞ! でも、これから学園で勉強できると思うとワクワクするんだ! まずは、食堂でご飯食べて力をつけるぞー!」



 サンがもう一度ハンバーグを食していると、アクリアも食事を再開しながら言う。



「サンの言う通りね。腹ごしらえをして、午後も備えましょ。分からないことあれば、アタシも勉強を教えるから」



 アクリアの優しい言葉に、キバッグの瞳は潤っていた。



「アクリア、おめぇ……! なんて優しいんだよ!」


「助け合いよ。困った時はお互い様じゃない」


「よし! だったら、オレの宿題とか毎日手伝ってくれ!」


「ふざけるんじゃないわよ」


「ふざけるな! 助け合いって言ったじゃねえか!」


「宿題くらい自分でやりなさいよ!」



 2人の漫才みたいなやり取りに、サンは思わず笑う。



「あはは! 二人とも、すっかり仲良くなってオイラも嬉しいぞ!」



 そんな楽しい時間は過ぎ、食事を終えると教室へ戻るのだった。



 ・・・



 あれから2時間ほど午後の座学授業が始まり、サンは初めての勉強をした。今回は魔法の原理などについて学習し、サンは理解できないながらも勢いで楽しんでいた。




 授業のチャイムが鳴り終了した後、教室でキバッグやアクリアと話をするのだった。



「やっと授業が終わったな! 全然理解できなかったけど、楽しかったぞ!」


「いや、理解できなかったのにどう楽しかったのよ」



 アクリアの鋭いツッコミに、サンは椅子に座ったまま両手を広げ始める。



「えーと、魔法って体の中にある魔力ってエネルギーを使うんだろ? こんな風に!」



 両手を合わせ火球を作り上げた瞬間、アクリアは椅子から思い切り立ち上がって手を伸ばす。



「ちょっと待てぇ! みんなの教室で魔法を放つアホがどこにいるのよ!」


「冗談だって冗談! あははは!」



 火球を消し、サンは頭の後ろを手で掻く。アクリアは顔を引きつらせ、笑顔を作りつつも明らかに怒っていた。



「今のどこが冗談だったのか簡潔に述べてもらおうかしら」


「みね打ちだ!」


「どういうこと!?」



 そんなやり取りに、キバッグはサンの両肩を掴む。そのままサンの顔を、アクリアへと見せる。



「なんだよ。おめぇには、サンが嘘ついてると思ってんのか? 見ろよ、この純粋な目! まったく嘘なんかついてねえじゃねえか!」


「なんで笑いこらえながら言うのよ。本人、さっぱり分かってない顔してるわよ」



 またしてもアクリアのツッコミ。サンは笑顔を見せながらも、全然理解していなかった。



「まあ許してやれよ。こいつだって、ちゃんと分かってるからよ」



 キバッグが頼み込むと、アクリアはため息を大きく吐いた。



「あーもう、分かったわよ。次からは気をつけなさい。みんなの迷惑にならないようにね」


「あ、レイミー先生がプリントを配り始めたぞ!」



 サンが気づくと、レイミーが一番前の生徒たちにプリントを配り始めている。そのまま、生徒たちは後ろへとプリントを回し始める。



「話すら聞いてないわコイツ」



 アクリアが呟き、彼女は後ろのサンにプリントを回す。



「皆さん、いま配ったプリントに目を通してくださいな」



 レイミーの言う通り、サンはじっとプリントを眺める。そこには、こう書かれていた。



「なんだよこれ? パーティ編成報告書?」



 キバッグが読み上げると、レイミーは説明する。



「我がブレイブ学園では、世界各地からクエストと呼ばれる依頼の数々が集まってきます。クエストは、卒業するにあたって重要な成績の一つです。そこで皆さんには、このクラス内で3人のパーティを組んでもらいます」



 それを聞き、サンは思わず笑顔になる。クエストの存在に、胸が高鳴ってしまう。



「クエストかー! すごく面白そうだな! あのさ、ここに自由枠って書いてあるけど、これはなんだ?」


「自由枠はすなわち、あなたたちが連れてきた大人。大人であれば、街の人間でも私たち教員でも構いません。四人を集め終えたとき、その用紙に名前を記入し、私のところまで持ってきてください。ブレイブ学園で審査し合格すれば、晴れてパーティは決定します。ちなみに、パーティを決定したら一年間は変えることができませんので注意してくださいね。自由枠が埋まらない時は、ブレイブ学園が手配しますのでご安心くださいな」



 今度はキバッグが立ち上がり、レイミーに質問する。



「パーティが決定したら、クエストに行けるって言ったけどよ。それはいつ受けられるんだ?」


「入学から一ヶ月、ある程度の鍛錬を積んだら、一週間に一回だけクエストを受けることができます。先ほど仰った四人編成のパーティで行って頂きますが、最初は分からないことも多いと思います。その場合は後ほど、初めてクエストを受けていただくときに説明させて頂きます。他にご質問はありますか?」


「いや、ないぜ。ありがとよ」



 キバッグは椅子に座り、プリントをもう一度見ている。



「今日は皆さんと授業を共にすることができ、とても楽しい時間を過ごせました。明日は学園がお休みですが、これからも学園生活を存分にお過ごしくださいね。それでは、2日後に会いましょう。それでは、さようなら」



 レイミーは一礼すると、教室から出ようと扉へ歩き出す。そして、生徒たちも声を合わせるように、



『ありがとうございましたー!』



 こうして、今日の学園生活は終わった。

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