第14クエスト キバッグと組み手
1時間後、サンは準備を終えると学園内のグラウンドへ到着した。2組の生徒たちが集まっており、彼らを見て走っていく。
「ついに組み手が始まるんだな! 一体、どんな奴と戦うんだろうな!」
「おーい、サン! ようやく来たな!」
生徒たちの最後方に並んでいるキバッグが声かける。隣には両手杖を持つアクリア。2人を発見すると、手を大きく振った。
「おーっす! みんな集まってるみたいだな!」
「まさかいきなり組み手するなんてね。アタシ、なんか気が乗らないわ」
アクリアは肩をすくめて、広い青空を見つめている。サンは笑いながら言った。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。オイラたちならきっと勝てるって!」
「その自信は本当に、どこから来るのかしら」
呆れ顔になるアクリアだが、その瞳に疑いの色はなさそうに見える。大剣を背負っているキバッグは、両拳を軽く合わせている。
「サンの言う通りだぜ! ここで負けるようじゃ、最強の勇者という道が遠のくからよ。オレたちの全力をぶつけようぜ」
「そうだな! オイラも昨日みたいに他のやつらをもっと驚かせるぞ!」
サンも気合いを入れて拳を握ると、アクリアがとある方向を眺めている。
「レイミー先生、あそこで何かメモを取ってるみたいだけど、何をしているのかしら?」
レイミーはメモ帳を片手に、ペンで書いている。しばらくすると、生徒たちに微笑み歩いてきた。
「 皆さんお待たせしてごめんなさいね。これより1年2組による組み手を始めます。こちらに集まってくださいな」
レイミーがグラウンドの中央へ向かうと同時に、生徒たちも彼女の後ろを着いてくる。
「ついに始まるんだな! なあ、レイミー先生! 組み手って何かルールがあったりするのか?」
サンが尋ねると、レイミーは答えた。
「教室でも言った通り、1対1での組み手を行い私が止めるまで勝負を行ってもらいます。今回の特別授業で、皆さんの実力を参考にさせていただきますね。組み分けは私が決めたので、誰と当たるかは楽しみにしてくださいな」
「燃えてきたぜ! オレの力をこいつらに見せつけてやるよ! 先生、さっさと組み手を始めようぜ!」
キバッグが闘志を燃やしていると、アクリアはやる気無さそうにため息を吐く。
「あなた、そんなに戦いたいの? どれだけ組み手が楽しみなのよ……」
「なんだよ、アクリア。おめぇ、負けるからって怖気付いてんのかよ?」
キバッグがニヤついていると、サンは首を振って否定する。
「違うぞ、キバッグ! アクリアは天才魔法使いだから、逆に相手を楽にギャフンと言わせてしまうのを遠慮してるんだ!」
「あー、そういうことかよ。さすが魔女っ子だぜ。圧倒的な実力を持ち、その謙虚な態度……尊敬するぜ!」
キバッグが親指を立て、アクリアに笑顔を向ける。
「褒められてるはずなのに、馬鹿にされてるのはアタシの気のせいかしら」
ジト目で呟くアクリアであった。
「そろそろ組み手を始めましょうか。まず記念すべき第1試合は――サン君とキバッグ君です。こちらのグラウンド中央に来てください」
レイミーに呼ばれると、サンはヨシっと大声を張り上げる。
「最初はオイラたちだな! 負けないぞ、キバッグ!」
「それはこっちのセリフだぜ! おめぇをあっという間にぶっ倒してやるよ、サン。覚悟しとけ!」
キバッグもやる気満々のようだ。その様子を見ていた、アクリアは心配そうに眺めていた。
「大丈夫かしら、あの二人……何事も起きなければいいけど」
グラウンドの中央で向かい合って立つサンとキバッグ。
「さっそくキバッグと戦えるなんてな! オイラ、ワクワクしてきたぞ!」
「準備はよろしいですか? くれぐれも怪我のないようにしてくださいね」
レイミーが注意するように言うと、キバッグは大剣を両手で持つ。
「安心しろって! オレたちだって、限度ってものを知ってるからよ」
「いや、あなた達だから不安なのよ……」
アクリアのツッコミは、サンとキバッグには聞こえていない。
「それでは、始め」
レイミーが試合開始の合図をする。
「先手必勝だ――おらあああ!」
キバッグが大剣を持って、勢いよく走ってくる。襲いかかってくる相手に対して、切られまいとキバッグの両腕を掴んで動きを封じた。
「すごい力だ……! 油断したら潰れそうだぞ……!」
「パワーでオレに勝てる奴はいねぇ! だからおめぇも気を抜くと、捻り潰すぞおおお!」
あまりの力強さに、サンは両手がほどけ体勢がよろける。相手の振り下ろした大剣に、地面を転がって回避する。深く突き刺さった箇所に、僅かな地響きと大きな亀裂。
「あのひと振りで、地面が抉れるなんてな……キバッグはすごい奴だ! オイラも負けないぞ! はああ!」
サンも自身の両拳で応戦する。しかし、キバッグも大剣を盾にして、こちらのパンチや蹴りを防御していた。
「やるじゃねえか! オレの土魔法、受けてみやがれ! グランクエイク!」
キバッグが大剣を地面に刺す。次の瞬間、サンの足元に違和感。その正体は、地面が勢いよく山のように盛り上がって、こちらの体を宙に大きく浮かせた。
「う、うわっ!?」
サンは下を見るも、相手の姿がない。見渡していると、背後からキバッグの気配。既に相手は、大剣を腰の位置に構えていた。
「オレはここだぜ!」
空中で一回転し、両手を合わせる。火球が出来上がると、放ちながら叫ぶ。
「くっ! フレイア!」
勢いよく飛んでいく火球。しかし、キバッグはもう一度だけ大剣を前に持ちガード。攻撃は不発に終わり、そのままお互いが地面に着地する。舌打ちをしたキバッグは、楽しそうに笑みがこぼれていた。
「炎魔法かよ!」
「まだだ! もう一発、フレイア!」
両手で火球を作り上げ、再び火球を放つ。今度はキバッグが大剣を思い切り振り、そのパワーで火球を跳ね返す。別の場所へ飛んでいく火球は、地面に激突し爆発を起こした。
「大剣でフレイアを跳ね返すなんてな……ホントにすごい馬鹿力だ!」
「感心してる場合かよ! うおおおお!」
「オイラの一撃を、この拳にかける!」
左拳に螺旋のオーラを纏う。タイヨー拳を決めるため、相手に向かって走り出す。
「そろそろ終わりにしてやる! うおらあああ!」
キバッグも高くジャンプし、大剣を振りかざした瞬間だった。
「そこまで。組み手を終了してくださいな」
レイミーの言葉によって、お互いの動きが静止する。突然の事に、サンは急ブレーキをかけて立ち止まった。
「はあ!? もう終わりかよ!」
キバッグが着地して声を荒らげる。レイミーは動じず、笑顔を向けると口元に人差し指を添える。
「言ったはずです。怪我のないように組み手をさせると。このまま戦えば、あなた達は勝負をやめないどころか、グラウンドの地形がもっと大変になっていたでしょう」
「えっ――あっ……」
キバッグが周りを見渡すと、サンも気づく。先程の戦いによって、地形が崩れていたこと。周りのクラスメイトが唖然としていたこと。アクリアも頭を抱えて、首を振っている。
「あの馬鹿2人……嫌な予感はしたのよね」
「見事なまでに、グラウンドがぐちゃぐちゃだぞ……」
サンも驚いていると、レイミーは続けて言う。
「気にしないでくださいな。それより、お二人の実力は光るものがありますね」
「ホントか!? そう言われると照れちゃうな! キバッグ、お前との戦い楽しかったぞ! またいつか本気の勝負をやろうな!」
「オレも同じ気持ちだぜ! 次の勝負は何十倍も強くなって勝つからな、サン!」
「オイラは何百倍も強くなってくるぞ!」
「ふふっ、この子たちの将来が楽しみですね。あ、そうですね」
レイミーは2人の様子を見守るような瞳で見た後、思い出すように言う。
「どうしたんだ? レイミー先生」
サンがキョトンとしていると、レイミーは他の生徒たちへ歩き出す。
「放課後、お二人でグラウンドの整備をしてくださいね。それでは次の試合を始めますよー」
レイミーと崩れたグラウンドを交互に眺めた後、戦った2人は見つめ合う。すると、キバッグは右手を差し出した。
「あ、オレ放課後に用事あるから整備は頼んだぜ、サン!」
「先生に言いつけるぞ」
眉間を寄せ、サンはキバッグに目で訴えかける。その場から逃げ出そうとしたキバッグを、後ろから首を締め付けた。
「く……くそおおおおおおお!?」
そんな2人のやり取り中に、もう次の組み手は始まっていた。
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