パーティ結成編
第13クエスト 始まる学園生活
次の日。
ついに、登校初日がやって来た。サンは朝早く目覚め、学校の支度をする。宿屋から持ち帰った荷物から、朝ごはんに用意していたパンを取り出す。完食すると、準備完了だ。
玄関前で立ち止まると、自身の部屋を振り返る。何回も頷くと叫ぶ。
「忘れ物はないな! よーし、さっそく学園に行くぞ!」
ドアノブに手をかけ、扉を開ける。部屋を出ると、近くに人の気配がして振り返った。
「よう、待ってたぜ」
「キバッグ、おはよう! オイラが来るまで待っててくれたのか?」
挨拶をすると、キバッグは頷いて答える。
「おめぇと一緒に初登校するのも悪くねえと思ってな。今日から学園生活、お互い頑張ろうぜ!」
キバッグが右拳を突き出すと、サンは笑顔で頷いた後――拳を合わせた後に抱きしめた。
「嬉しいぞキバッグ! オイラの為に待っててくれるなんて! オイラはもう、幸せ者だあああああ!」
「っておい、いきなり何を――ぎゃあああ!?」
サンが力を込めると、キバッグの痛がる悲鳴。体の骨がどこかしら一瞬だけ鳴った。
「待て待て待て! 骨が折れる! 頼むからやめてくれえええ!」
「あーもう! 楽しすぎるぞおおお!」
そんなやり取りが、男子寮の廊下に響いた。
・・・
それから二人は寮を後にし、ブレイブ学園の校舎へと入った。
広く清潔感のある空間が広がっている。床に敷かれた赤絨毯を踏みしめていく生徒達の姿が多く見受けられる。廊下の脇には大きな掲示板があり、張り紙が無造作にある。天井には巨大なシャンデリアが設置されており、天井付近まで伸びている為とても煌びやかな雰囲気を出している。
続く廊下には部屋が並んでおり、一階は三年生の教室、職員室や学園長室がある階層のようだ。廊下の階段を上がり、サンは周りを見渡しながら驚いてばかりだった。
「学校って言っても、お城みたいなところだな! なっ、キバッグ!」
「あー……そうだなー」
キバッグは顔を引きつらせて笑っている。サンは様子のおかしい彼に、
「どうしたんだ、キバッグ! さっきまで元気よく学園生活がんばろうって誓ったじゃん!」
「お、おう。オレほどじゃねえが、おめぇもけっこう力強いんだなって思ってよ」
「オイラ、なんかしたっけ? あはは!」
「覚えてねえのかよ! さっきのホールドはマジで骨がヤバかったぜ?」
キバッグは体を包むように、両腕を交差させ、腕をさする仕草を見せた。ようやく気付いたサンは、また笑ってしまう。
「あー、さっきはごめんな! でもオイラのパワーを褒めても何も出ないぞ!」
「褒めてねえよ! まあいいけどよ、とりあえず3階に着いたみたいだぜ。あれ見ろよ、サン」
キバッグが指さした方向。そこには、1年生たちが掲示板の貼り紙を見ているようだ。
「キバッグ! もしかしたら、クラス分けが発表されてるかもしれないぞ!」
サンは駆け足でそこへ行く。キバッグも後ろをついてくると、ボードには白い用紙が貼られている。1年生たちが集まっているため、最後方からしか見えない。何回も飛び跳ねて、張り紙の内容を確認すると、やはりクラス発表が書かれている。
「オイラのクラスはどこだー?」
背伸びしながら何とか見えると、直ぐに自分の名前を見つける。1年2組。確認すると、すぐキバッグに視線を送る。
「オイラは2組だ! キバッグは何組だ?」
キバッグは嬉しそうに、
「奇遇だな……オレも2組だぜ!」
「ほんとか!? やったー! キバッグと同じクラスだー!」
サンが嬉しさのあまり、キバッグをもう一度だきしめようとするが。
「待て待て! 嬉しいよなぁ!? だけど、そのスキンシップはやめてくれ!」
キバッグに拒否され、サンは口を尖らせる。
「えー、ケチだなぁ。でも、これからお前と同じクラスかぁ! 本当に楽しい学園生活が始まりそうだ!」
「そうだな。オレもワクワクしてきたぜ! 2組はすぐそこの部屋みたいだな。入ってみようぜ!」
お互いに笑い頷き合うと、生徒たちの塊を通り過ぎ、奥の通路を進んでいく。すぐにたどり着いた場所は、1年2組。木製のスライド式の扉を開き、サンは息を大きく吸う。
「オイラ、サンっていうんだ! 2組のみんな、これからよろしくな!」
机と椅子が並べられている広い部屋。黒板の前に教壇が置かれている。教室にいる生徒全員の視線がこちらに集まっている。驚く者もいれば、おかしそうに笑う者。サンは思わず、首を傾げた。
「ありゃ? どうしたんだ、みんな」
「おめぇらしい元気な挨拶だな。オレは嫌いじゃないぜ、サン。昨日といい、こいつらに印象を焼き付けたんだからよ」
キバッグの手が、こちらの肩に置かれる。サンは思わず、笑みをこぼす。
「オイラらしく挨拶できてよかったー! みんな、今日から学園生活がんばろうな! さーて、オイラの席はどこかなー?」
それぞれの机に置かれているネームプレートを眺め歩いていく。窓側の席まで行くと、見慣れた人物と遭遇する。
「まさかあなた達も同じクラスなんてね。どうしていつも、アタシのところに導かれてくるのかしら」
窓を眺め、景色を見ていたアクリア。どうやら彼女も同じクラスだと分かり、サンは目を輝かせる。
「アクリア!? お前も一緒のクラスだったんだな!」
彼女はこちらへ振り向き、微笑みながら言う。
「これからの学園生活、なんだか騒がしくなりそうだわ。まあ、これからよろしくね」
「おう! オレたち同じクラスだからよ。三人共、これから頑張ろうぜ!」
キバッグが手の甲を前へ差し出してくる。サンは意気投合し、その上に手のひらを重ねる。
「アクリアもやるぞ!」
「え、アタシは……」
「やらないとだめだぞ! オイラたち友達だから!」
出会って日が経っていないが、サンは彼女のことを友達と思っている。普段は反応が面白いアクリアだが、一緒にいて楽しい。共に行動すると、自然と笑顔になるのだ。
「……友達。ふふっ、あなたって本当に……ほら、これでいいんでしょ?」
照れくさそうに笑いながら、アクリアもその上に手を重ねてくれた。その直前に一瞬だけ、彼女の戸惑う姿があったが乗ってくれて、サンは嬉しかった。
「昨日ばかり出会ったが、オレもおめぇらの事をダチだと思ってる。だって、おめぇらと話してると、楽しいからな! これからの学園生活、絶対に頑張ろうぜ!」
「おー!」
重ねていた手を上に上げ、バラけさせる。サンが気合の声を入れると、アクリアが嬉しそうに微笑んでいた。
「なんだ、アクリア。初めての友達ができて嬉しかったのか?」
「へっ……って、アタシにも故郷に友達ぐらいいるわよ!」
キバッグがからかうと、顔を赤くしながらアクリアは若干照れていた。
「アクリア。今まで、ぼっちだったのか?」
サンがうっすらと悲しい目を向けると、アクリアは激しく首を振った。
「誰がぼっちよ! こんな時でもアタシをからかうなんて……いつものことね」
そう言って、アクリアは俯きながら嬉しそうだった。生徒たちが賑やかに話している中、教室の扉が静かに開けられる。後ろを振り返ると、サン以外の男子生徒が目を惹かれた。
「はーい。皆さん、席に着いてくださいな。ホームルームですよー」
見とれているキバッグは、動きが固まっている。
「あれって、昨日の美人な受付嬢さんじゃねーか。まさかこの人が……?」
サンもよく覚えている。入学式の受付で会った女性のエルフ族――レイミーだ。長い桃髪を揺らしながら歩いてくる姿は美しく、思わず見惚れてしまうほどだ。そんな男子生徒たちの声。
――ああ、なんて美しいんだ……!
――すげえ美人だよな。
彼らのヒソヒソ話に、アクリアは頬を膨らませる。明らかに怒っていた。
「何よ。これだから男子は単純なんだから」
彼女の冷ややかな視線とは違い、サンは再会出来た事に嬉しくなる。
「あのねーちゃん、先生だったんだな……! よし、自分の席に座るぞ!」
アクリアの真後ろに座り、サンは机に肘かける。全員、着席したのを確認したレイミーは頭を下げている。
「皆さん、昨日ぶりですね。改めて自己紹介させていただきます。この1年2組の担当をさせていただく、レイミーといいます。これからの学園生活は楽しみと緊張がいっぱいだと思います。みなさん、リラックスして頑張っていきましょうね」
「レイミー先生! これからよろしくなー!」
サンが立ち上がり、手を大きく振る。対してレイミーは嬉しそうに微笑んでいる。
「サン君、よろしくお願いします。あなたは明るくて元気のある子ですね。これからの将来に期待が持てます。ぜひ、このブレイブ学園でたくさん成長してください」
「オイラ、レイミー先生に褒められたぞ! みんなもこれから卒業目指して頑張ろうな! 目指すは、1年で全員卒業だー!」
サンの元気っぷりに周りのクラスメイトは、少しずつ表情が明るくなっていく。すると、サンの真横に座っていたキバッグが呟く。
「こいつの明るさはホントにすげーな……オレまで不安がなくなってくるぜ。つーか、クラス全員で1年卒業は無理だろ……」
「なに言ってるんだ! 縁があって、みんな同じクラスになれたんだ! ゼシロス先生が言ったように、頼る勇気だ! みんなで助け合っていけば、どんな困難だって乗り越えられる。ということで、まずオイラはこのクラス全員と友達になるぞ!」
サンが両拳を握りしめ、笑顔を見せる。前に座っているアクリアが、
「ほんとにすごいわね……なんだか、この子なら色々やらかしてくれそうね」
すると、サンに声をかける生徒たちが少しずつ聞こえてくる。
――よろしくな、サン!
――これからよろしくね!
彼らに挨拶され、サンは思わず手をあちこち振り返す。その様子を見ていたレイミーは何回も頷いている。
「いきなり打ち解けることができ、私も嬉しいですよ。さてと……欠席者はいないようですから。学園の一日での過ごし方を説明しますね。基本的に午前中は座学。間に昼休み。そして午後からは実技を行ってもらいます。本当ならば、この時間帯は座学なのですが……皆さんの実力を一目見たくなりましてね。今回は特別授業として――このクラスで1対1による組み手を1時間後に始めさせていただきます」
それを聞いた生徒たちの驚愕の叫び。ただ一人を除いて、
「ほんとか!? オイラ、早くみんなと組み手やりたい!」
「1対1って言ったでしょ。話を聞きなさい」
サンが再び立ち上がって喜ぶと、アクリアが後ろを振り返り注意する。
レイミーは続けるように言う。
「緊張しなくて大丈夫です。皆さんがどんな武器、魔法などを使うのか私が見極めるだけですので。怪我させないよう、すぐ試合は止めますからね。1時間後、学園内のグラウンドに来てくださいな。私は準備をして待っていますので。それでは、朝のホームルームを終わります。また後で会いましょうね」
そう言い残し、レイミーは一礼してから教室を後にする。呆然と座り尽くしているクラスメイトたち。しかし、サンは待ちきれないでいた。
「まだかなぁ……組み手が楽しみだ!」
その後、生徒たちは各自の自室に戻って準備を行うのだった。
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