第35クエスト 緊急クエスト

 一週間後、いつものように授業が終わる放課後。



 アクリアやキバッグと顔を見合わせる。全員が心配な表情で、ある人物の事について語り合っていた。



「アクロ先生、あれから帰ってきてないわね。本当に大丈夫かしら?」



 そう。アクロがカルディア軍に行き、音沙汰もなく戻ってこないのだ。一週間も帰ってこないので担任のレイミーにも聞いてみたが、詳しい詳細については分からないという。



 何か事件にでも巻き込まれたのかと思い、不安が強くなっていく。このままではクエストを受けることさえできなかった。



「そうだな……ここはボケたいとこだけど、今回ばかりは心配だぜ」



 あのキバッグもおバカな様子を見せることなく、真剣な顔を見せていた。



「アクロ先生なら大丈夫だ! だって、あんなに強いんだ。もし、敵に襲われたりしても生き延びてると思うぞ」



 不安な一面を隠すため、サンは強気に言う。



 しかし、心の中では心配な気持ちでいっぱいだった。彼にどれだけ教えられてきたか、サンは数え切れないほどあった。



「ええ。ゼシロス先生やソンゴウさんも、きっと無事でいるわ。最強の三人だもの」



 アクリアが笑顔で言うと、サンの心が和らいでいく。彼女には心の奥底はバレバレだろう。追求しない事にサンは感謝した。



「なんだよ、サン! アクロ先生が心配でたまんないのか?」



 キバッグが勢いよく肩を組んでくる。その様子にアクリアは深くため息をついた。



「あなた、やっぱり馬鹿ね。少しはそっとしてあげなさいよ」


「なんだよ、だって本当のことだろ。それに、サン……気持ちを隠す必要はねぇ。不安があるならぶつけてみろ。お前は優しいからな、我慢する必要はねえ」



 アクリアとは正反対に、キバッグなりの優しさだろう。心遣いにまた感謝したい。



「そうだよなキバッグ。オイラ、すごい不安だ。でも、二人のおかげで気分が晴れたよ。ありがとな!」


「へっ。おめぇが元気になりゃ、それでいいんだよ」



 キバッグと見つめ合い、サンの不安はかき消されていく。そうだ、不安がるなんて自分らしくない。いつもの調子を取り戻し、ニコッと笑う。



「で、見つめ合ってるとこ悪いけど……本当に入るの?」



 アクリアが視線を移した先――そこは学園長室だった。



 今、サン達がいる場所は1階の廊下にある学園長室の前。アクロ達の生存を確かめるため、リュウショクの所まで足を運びに来た。サンは普段通りの調子だが、アクリアとキバッグはどこか緊張しているようだった。



「オレもあの学園長に会うってなると、なんだか緊張するぜ」


「そんな固まらなくても学園長は怒らないぞ!」


「そうよ。あの人の事だから、きっと楽しそうに歓迎するわ。ねえ、サン?」


「おう! オイラはアクロ先生達を探すために立ち止まってるわけには行かないんだ! それじゃ早速――失礼します!」



 サンは学園長室の扉を何回もノックする。



「どうぞ入ってください」



 部屋の中から聞こえるリュウショクの声。サンはドアノブに手をかけて扉を開けた。



 中に入ると、椅子に座っているリュウショクがいる。彼は立ち上がり、軽く頭を下げている。



「学園長、実はアクロ先生達の事を聞きに来たんだ。あれから何も連絡がないの?」



 リュウショクは静かに頷いて言った。



「ええ。カルディア軍にも何回か、連絡を取ってみましたが応答しません。私が彼らを派遣させたばかりにこんなことになるとは……」



 リュウショクは自分に対して責任を感じているようだった。サンは、彼の責任だとは思っていない。仕方のないことだった。



「学園長のせいじゃないぞ。きっと、向こうで事件に巻き込まれたんだ。不安な気持ちはオイラも同じだ!」



 サンはニッコリと笑う。



「いけませんね……学園長である私がしっかりしなくては。ありがとうございます、サン君」


「学園長が落ち込むのも分かるぞ! だから、今はみんなの無事を祈ろう!」


「で、これからどうすんだ? いつまでも行動しなきゃアクロ先生達は戻ってこないぜ」



 キバッグの言うとおり、何か行動しないとアクロ達は戻ってこない。今すぐにでも助けに行きたい。ならば、やるべき事は1つ。サンの答えはすぐに決まった。



「学園長……お願いがあるんだ」


「なんでしょう?」



 視線を合わせると、リュウショクは何か分かっている様子だった。サンは遠慮なく口を開く。



「オイラ達を――カルディア帝国に行かせてくれ!」


「サン、あなた分かってるの? アクロ先生がいない以上、クエストにいけない状態なのよ。それをたった生徒三人で行くなんて無謀すぎるわ」



 アクリアの言葉から続けるようにサンは言った。



「三人じゃない。もう一人、追加メンバーを入れるんだ!」


「気持ちは分かるけどよ。アクロ先生みたいな戦力がこの学園にいるのか?」



 キバッグに疑問をぶつけられると、サンは1人だけ心当たりがあった。それは最近できたサンの友人だ。彼女なら一緒に戦ってくれるだろうと信じている。



「オイラの友達に戦ってくれそうな奴がいてさ。これから話をしようと思う。学園長、その友達を連れてアクロ先生達を助けに行きたいんだ。無茶なお願いだと分かってるけど、オイラの大切な先生を見捨てるわけにはいかない! だから頼む! オイラ達に行かせてくれ!」



 サンは深く頭を下げる。この思いをリュウショクに届いてほしいと願うばかりだ。アクロを今すぐにでも助けたい。サンの気持ちはいっぱいだった。



 リュウショクは軽く笑みを浮かべて、サンの肩に手を置く。



「サン君の熱意、そこまでお願いされては拒否するわけにも行きません。いいでしょう! 緊急クエストとしてあなた方の行動を、学園長として許可します!」



 親指を立てるリュウショク。サンは彼の決断に喜び、グイッと近づいた。



「じゃあ、アクロ先生達を助けてもいいんだな!」


「ええ。ただし、生徒だけで行かせるのは私も心配です。そこで明日、ある教師を呼び出します。ぜひ、大きな戦力となるでしょう」


「ある教師って一体誰のこと?」



 サンが首を傾げると、リュウショクは窓側に向かう。窓ガラスに手を当て、こう言った。



「なに、当日のお楽しみですよ」



 うーん、とサンは誰か考え込むが見当がつかない。この学園の教師なのだから、きっと強いのだろう。



 するとキバッグは、質問があるのか手を挙げる。



「なあ。アクロ先生達はどうして、カルディア軍に行ったんだ? あの強い3人にパーティ組ませて向かわせるなんて、よっぽどの事件が起きない限り、ありえないと思うぜ」



 確かにキバッグの言うとおり。名のしれた3人がクエストに行くなんて滅多にないことだ。恐らく、リュウショクが危険に感じるほどの重大事件なのだろう。我らが学園長はサン達をこちらを振り切、真剣な眼差しを見せている。



「数週間前のことです。あれは――」



 リュウショクから語られたのは、サン達も知っているあの事に関連する事だった。本当にそうならば、カルディア軍が壊滅の危機になってしまう。サンは唾を喉奥に飲み込むのだった。

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