第34クエスト ちっこいシルフィ

 翌日、学園の廊下でアクロの話を聞いていたサン。


 どうやら前に在籍していたカルディア軍で事件が起こったそうだ。ゼシロス、ソンゴウと共に解決に向けて協力しなければならないらしい。



 その事を聞いてサンはちょっと残念になる。



「学園長の命令なら仕方ないよな。アクロ先生としばらく離れ離れかー。なんかちょっと寂しいな」



 アクロはサンの頭に手を置く。



「落ち込まなくても五日ぐらいで戻ってくるさ。次のクエストまでに戻って来るから安心しろ」


「約束だぞ! カルディア軍ってアクロ先生がいた所だよな? 事件があったって言ってたけど、何があったのか?」



 アクロは答えにくそうに言った。



「まあその……大事なことでな。そろそろ待ち合わせの時間だからそろそろ行くわ」


「分かった! アクロ先生、気をつけてな」


「ありがとさん。お前も勉学のほう、ちゃんと頑張れよ」



 階段を降りながらアクロは手を振っている。サンも彼を見送り、手を激しく振るのだった。彼の姿がいなくなると、大きく背伸びをする。



「うーん! アクロ先生は出かけたし、これから何しようかな。授業は終わってるし、アクリアとキバッグを探そう!」



 サンは自分の教室に向かい、二人を探そうとした瞬間だった。



「ちょっとそこのあなた!」



 後ろから元気な女性の声がして呼び止められる。振り返ると、声をかけられたはずなのにどこにもいない。気のせいかと思い下を向くと――そこにいた。



(ちっちゃ……!)



 こちらを見上げている身長の低い少女がいる。 褐色の肌に短めの黒髪。身長100センチぐらいの少女は両手で分厚い本を持っていた。



「あなた、さっきアクロ先生と話してましたよね?」



 目をキラキラ輝かせながら、少女は更に近づく。この体型からして彼女はドワーフ族だろう。他の種族より、平均身長が低いのが特徴だ。


 サンは大きく頷いた。



「おう! それよりオイラに何か用か?」


「はい! 二組のサン君ですよね? 私、五組のシルフィと言います。実はアクロ先生のパーティにいるあなたに、色々聞いてみたいことがありまして」


「そうだったのか。オイラにどんどん聞いてくれ! よろしく、シルフィ!」



 シルフィは深く頭を下げている。



「ありがとうございます! 私、この本に歴戦の戦士をメモするのが趣味でして。それで今回、アクロ先生についての情報をサン君に聞いてみようと思ったんです」


「でも、どうしてオイラなんだ? アクリアやキバッグも色々知っていると思うぞ」



 するとシルフィは苦笑いを浮かべている。



「それが……アクリアさんが不機嫌な様子でキバッグ君に風紀委員の仕事を手伝わさせていたので近寄り難くて。それでアクロ先生と仲がいいと聞いているサン君に近づいてみたんです」



 なるほど、とサンは納得する。恐らく、またキバッグが余計な事をしたのだろう。アクリアが怒ったのも目に見えて分かる。



「そうだったのか! いいぞ、どんなこと聞きたいんだ?」


「あ、その前にアクロ先生の自己紹介をここでさせてもらってもよろしいですか?」


「え、うん。いいけど?」



 シルフィは手に持っていた赤い本を、その場で広げる。これだけ分厚いのだから、彼女がどれだけメモしているのかがよく分かる。



「ありがとうございます! では――カルディアの矛のアクロ。三拳豪の一人であるソンゴウの息子。13歳の時にカルディア軍の養成学校に入学。幼なじみのゼシロスと共に軍の大佐まで昇格し退役。現在はリュウショク学園長にブレイブ学園で教師としての推薦を受け、活動している……はい、以上です!」



 彼女の説明を聞いて、どれだけ調べたのか情熱が伝わってくる。サンは思わず大きく拍手してしまう。



「すごい! シルフィはアクロ先生の事、いっぱい調べたんだな」


「情報力や分析は私の得意分野ですから。これくらい朝飯前です!」



 エッヘンと、胸を張るシルフィ。



「そんなに調べたんだから、オイラも色々と教えたくなってきた! いっぱい聞いていいぞ」


「ではまず……アクロ先生の趣味は分かりますか?」



 随分前に聞いた程度だが答えられる範囲内だ。



「確か、自分の部屋で花を育てることが趣味だって言ってたぞ!」


「ふむふむ、なかなか素敵な趣味をお持ちなんですね」



 シルフィは本を持ちながらペンでメモしている。



「次に、アクロ先生に好きな人はいますか?」



 聞いたことないので分からなかった。しかし、サンは心当たりがあった。



「恋愛はよく分かんないけど、初めての実践授業の時にキバッグが前に言ってた! 教師が生徒を口説いてんぞーって!」



 初めての実践授業を思い出し、あの時の台詞を真似してみる。アクロの言葉に、アクリアは顔を赤くしていたはずだ。よく分かっていないが、サンは適当に言ってみた。



「な、なるほど。教師と生徒の恋愛……アクロ先生はロリコンだったんですね。メモメモ」



 若干、顔を引きつらせながらシルフィはメモしていく。



 サンはロリコンという意味が分からず、口をぽかんと開けた。



「ロリ……? まあいいか!」



 難しいので気にしない事にした。



「最後の質問になります。実はサン君への質問になるんですけど、いいですか?」


「いいぞ! オイラの質問って?」


「サン君はアクロ先生のパーティに入って良かったと思いますか? ぜひ聞かせてください」



 アクロのパーティに入って時間が経つが、答えはもちろん決まっていた。なぜなら、彼に教えられたことはいっぱいあるのだから。サンは自信満々に答えた。



「もちろん……最高のパーティだ! アクロ先生に教えられた事はたくさんあるし、あの時出会えて良かった。これからもアクロ先生に教えてもらうつもりだ!」



 シルフィは微笑んで本を閉じる。



「サン君のおかげでアクロ先生の事をまた知れました。時間を取らせて頂いてありがとうございます」


「また聞きたくなったらいつでも来てくれ! 今度はアクリアとキバッグも連れて話し合おうな!」


「はい、約束ですよ! また聞かせてくださいね。では、失礼します!」



 本を脇に挟んで、シルフィは廊下の階段を降りていく。



「シルフィか……また会えるといいな!」



 サンはその姿を見送ると、休むため寮へと向かうのだった。

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