第33クエスト アクロの父親
ブレイブ学園に入学してから一ヶ月が経つ。学園生活も楽しくなってきて、友達も多くなった。
だいぶ授業やクエストなどにも慣れて来た頃だ。
座学は苦手なところもあるが、実践では好成績を治めている。特にクエストでは、商人の護衛やモンスターの討伐など様々だが期待のパーティとしてサン達は評価されていた。
そして今日もクエストを受けてアクリア、キバッグ、アクロの4人のいつものパーティである、モンスターと戦っていた。
今いるのは街の外にあるゴツゴツした小さな岩山がいくつも存在するロックウェル高地。天気は曇っており、太陽の姿はどこにも見えない。
目的のモンスターと戦いながら、サンは驚愕してしまう。
「何だこいつ! 体からマグマを出してきたぞ!」
4足歩行に黒い肌色。体中にはあちこち小さな穴があり、そこから赤いマグマが吹き出していた。黄色いたてがみを持つ馬のようなモンスターは、興奮しながら体を震わせている。
「早いもん勝ちだ、一気に畳み掛けるぞ!」
アクロがそう言って動くと同時に、サン達もそれぞれの役割を担う。
モンスターは口からマグマの塊を発射させている。それをアクロの矛で切り裂くと、仕掛けたのはキバッグだった。
「グランフィスト!」
地面から現れたのは、泥で完成された大きな人型の手だった。それが力強い握り拳をした瞬間、勢いよくモンスターへと向かう。相手が気付く頃には頬を殴りつけていた。
「バウウッ!」
低い悲鳴と同時にサンが動く。モンスターの懐に回り込んでしゃがみ込むと左拳を握る。そのまま膝のバネを使ってジャンプすると、相手のアゴを下から叩きつけた。
「アクリア、今だ!」
サンが呼びかけると、アクリアは既に杖を向けていた。
「任せなさい――コリフィール!」
モンスターの周囲に、氷柱が無数に出現する。そのまま相手の胴体に突き刺さっていく。
身動きの取れなくなったモンスター。そんなチャンスに止めをさすのは、もちろんあの人物だった。
「よくやった、お前ら――」
アクロが矛を振り上げると、モンスターの紫色の血液が飛び散る。その直後、激しい電撃が相手を襲う。黒い煙をあげ、丸焦げになるとそのまま地面に倒れ伏せた。
「やったー! 討伐完了だ!」
サンはクエストを達成して大喜びする。パーティが固まって集まると、アクロは、ふっと笑う。
「もうチームプレイにも慣れてきたな。今回のクエスト、いい仕事ぶりだったぞ」
「新しい魔法使ったんだけど、オレの活躍ぶりどうだった?」
アクリアにグイッと近づくキバッグ。対して彼女は慣れた様子で押しのける。
「はいはい。いい戦いだったわよ」
キバッグは残念そうな顔で、
「なんだよーその反応。最近、いじっても聞き流されるし、どうしたんだよ」
「あなた達がいじり倒すから嫌でも慣れるのよ……」
アクリアはため息をついて、顔を手で隠す。その光景を見て、サンはあることを思う。
「アクリアは芸人だな!」
「……は?」
アクリアの目がギョロっと丸くなる。サンは彼女の反応に困って首をひねる。
「へ? だってそんなに面白いなら芸人に転職したらいいと思うぞ!」
「見る目があるわね! じゃあ魔法使いからこのまま転職を……ってなるわけないでしょうがあああ!」
アクリアのノリツッコミが空まで響き渡る。彼女は右足を地面に叩きつけて、鬼の形相で睨む。
「あなた達はそんなにアタシの胃に穴を開けたいんだ……この前もそうだったわよね。勝手に風紀委員という重荷を背負わせたのは誰かしら?」
アクリアがなぜ風紀委員になったかと言うと理由がある。クラスではアクリアが既にいじられキャラとして定着していた。キバッグの提案でクラス全員がアクリアを風紀委員にするというドッキリにしたつもりだった。
『アクリアさんがいいと思いまーす!』
クラス全員がその台詞を放った瞬間――。
「じゃあ、風紀委員はアクリアさんに決まりですね」
真に受けたレイミーは、アクリアに許可もなしに風紀委員にしてしまった。
これが、アクリアさん風紀委員事件の過程である。
「いつもいつもいじり倒して……! もし、アタシの胃に穴が空いたら罰金を払ってもらうわよ」
その言葉にキバッグは笑い飛ばしている。
「ハハッ、何言ってるのか分かんねーや!」
サンもおかしく笑うと、アクリアは突然こちらに杖を向ける。
「どうやら制裁が必要なようね……!」
アクリアのご立腹な様子に、アクロは彼女の頭に手を置く。
「まあ落ち着けよ、アクリア」
「アクロ先生、だって……!」
「前も言ったけど、いじられるのは愛されてる証拠だ。安心しろ、こいつらも限度ってものを知ってる」
アクリアは涙目になりながら、アクロを見つめている。
「優しいのはアクロ先生だけよ……」
「さて、クエストも終わったことだしそろそろ――」
アクロが言いかけた瞬間、謎の地響きがロックウェル高地を襲う。何事かと思い、サンが辺りを見渡すと衝撃の光景が目に入る。
「な、なんかいっぱい……こっちに来るぞ!」
遠くから襲いかかるのは、赤い牛のようなモンスターが50頭ほど。このまま素通りするかと思えば、何やらこちらに進路を向けていた。
アクロは面倒くさそうな様子で言った。
「あー。あれはブラッドバッファローの集団だな。俺達が倒したこいつを餌だと思ってやって来たんだろう」
先ほど倒した馬のようなモンスターを見る。確かに食材としては美味しそうに見えなくもないが、サンはブラッドバッファローの数に驚いてしまう。
「あの数に突撃されたらオイラ達、吹き飛ばされるぞ!」
サンが身構えると、アクロは一番前に出る。彼はやれやれと言いながら、矛を前に構えていた。
「仕方ないなぁ。ここは俺が――」
やる気のない顔でアクロが突撃しようとした瞬間――。
「ギガ・グランインパクト!」
サン達の一番前に何者かが現れ、魔法を唱える。虎の刻印が入った斧を地面にぶつけたその瞬間、地面から白い衝撃波が波となってブラッドバッファロー達に向かう。白い衝撃波の大きさは尋常ではない。最悪、あのモンスター全員を飲み込もうとしている。そして予想通り、それはブラッドバッファロー達を空中まで吹き飛ばした。
「すげー……」
思わず言葉にしてしまうサン。口を開けて驚いていると、ブラッドバッファロー達が空から次々と地面に落とされる。
「こんなモンスターの山が降り注ぐの、見たことないわ……!」
アクリアがそう口にすると、謎の男はこちらを振り向く。
「はっはっは! 会いたかったぞ、アクロよ!」
いきなり走ってきて抱きついた先は――アクロだった。その時、サンは思った。
(……誰?)
アクリアとキバッグも変な顔をしていたのだからきっと誰もが思っているだろう。
抱きつかれたアクロはかなり嫌そうな表情をしながら、男から離れようと必死だった。
「離れろ……いい加減暑苦しいんだよ……!」
「そんな事言うな! お前が心配で顔を見に来たのに、父親として悲しいぞ!」
父親という言葉にサンは後ろに大きく下がった。そして確信した。この男こそが――。
アクロはようやく、男から離れて肩で息をしていた。額を見ると、うっすらと汗をかいている。
「くそ親父、あんたどうしてここに――」
「リュウショクに呼ばれてな。話が終わった後、お前の様子を見に来たってわけだ!」
ぐっと親指を立てる男。アクロは顔を手で覆いながら呟いた。
「はぁ、会いたくなかったな……」
サンは男に近づいて言った。
「おっちゃんはもしかして、アクロ先生の父ちゃんなのか?」
「おう、そうだ。お主達は息子の生徒らしいな! 俺はアクロの父親、ソンゴウだ。俺のこの顔、よく覚えておいてくれ!」
ソンゴウと名乗った男は、アクロと同じ金髪でオールバックにしていた。体格はやや細身だ。僧侶のような赤い服装をしており、背中には先ほど使っていた斧がある。
「ソンゴウって……三拳豪の一人じゃない! そうよね。確か、アクロ先生の父親だったわね……」
アクリアが驚きながら言うと、キバッグも続けて言った。
「ああ……なんていうか、ある意味で正反対な親子だな」
ソンゴウは高笑いすると、サンに視線を変える。
「そこのお主、どこか見覚えがあるな。名前はなんと言う?」
「オイラ、サンって言うんだ!」
ソンゴウは首をひねりながら考え込んでいる。
「サン? どこかで聞き覚えが……まさか!」
「この子はシャンウィン様が育てた、あの時の赤ん坊だ」
アクロが懐かしそうに微笑むと、ソンゴウは驚きの声を上げる。
「そうか……シャンウィンのじいさんが育てた赤ん坊だったのか! こんなに大きくなって、立派に成長したな! じいさんは今も元気か?」
「じーちゃんは今も元気に暮らしてるぞ! 今は離れ離れだけど、卒業したら成長した姿を見てもらうんだ!」
「そのハチマキも懐かしい。この子の姿をソウギにも見せてやりたいが奴は忙しいだろうな」
「そうだな、それより親父。学園長からの呼び出しって事は何か重大な事があったのか?」
ソンゴウは言った。
「相変わらず勘がいいな。様子を見に来たのもあるが、お前を連れて来いとリュウショクから頼まれたのだ。ゼシロスも後で来るそうだ」
アクロは片眉を動かしながら、
「ゼシロスも……? どうやら深刻な事態らしいな。分かった、こいつら達を送り届けてから行く。ということでお前ら、今日のクエスト報告は俺がするから、ゆっくり休めよ」
サンは手を挙げて元気に返事をする。
「おう! アクロ先生も用事が終わったら、ちゃんと休むんだぞ!」
「ま、何も起こらなければいいけどな……」
アクロはぼそっと呟く。
全員がその場を後にする。アクロとソンゴウの用事が気になるが、今は体を休めよう。サンは街へと向かうのだった。
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