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第32クエスト キバッグと過ごす
クエストが終わってから二日が経った。
怪我の治りも早く、傷はほぼなくなっている。色んな事があったが、初めてのクエストを達成させた。正直、最初はそこまで重大なものになるとは誰も思わなかっただろう。
アクロから聞いた話によるとブレイブクリスタルの詳細についてはリュウショクの耳に届いた。すぐに対策を練るそうだ。
今いるのはブレイブ学園の教室。サンはレイミーの授業を受けていた。楽しみに聞きながら、サンは教科書のページをめくる。
「魔界軍によって滅んだとされるアポレア王国。勇者レジェッドはその国の王子でした。彼は仇をうつため、手がかりを探しながら旅に出ます」
レジェッドと言えば、この世界を救った勇者である。そんな彼は生前、男気ある性格から出会う人々から好かれていた……とサンは本で読んだことがあった。
「彼は旅をしながら3人の仲間と出会います。彼らは数多の試練を乗り越え、五年の歳月をかけて魔界軍を倒すことに成功するのです」
だが、この戦いでレジェッドは死んでしまう。結末を知っているとはいえ、サンは少し複雑な気分だった。
「しかし、その代償は大きいものでした。レジェッドは命と引き換えに、魔界軍を消滅させたのです。仲間たちの現在は分かっていませんが、今もどこかで生きていることでしょう……今日の授業は終わりにしましょうか」
時間はあっという間に過ぎて終わりのチャイムが鳴っている。レイミーが本を閉じると、生徒全員が席を立つ。
「礼!」
風紀委員に選ばれたアクリアの号令で――。
『ありがとうございました!』
生徒たちは一斉に頭を下げる。レイミーも笑顔を見せ、頭を下げると教室を出ていった。今から昼休みという事で、サンは気分が上がってしまう。
「よーし、今から食べるぞー!」
そう、お昼ご飯だ。サンは食堂に向かうため、教室を出ようとする。その時、誰かに肩を叩かれた。
「よっ、一緒に食わねえか?」
振り返るとキバッグがいた。
「キバッグ! もちろん、一緒に食べよう!」
「決まりだな! アクリアは風紀委員の仕事が忙しそうだし、たらふく食べようぜ!」
親指を立て、キバッグは教室を出る。サンも後に続いて食堂を目指すのだった。
・・・
昼ご飯を終え、キバッグと共にサンの自室へとやって来た。
今日は食堂でハンバーグ料理を食べ、お腹いっぱいになる。授業が始めるまでの休憩という事で寮の自室までやって来たが、サンはベッドでくつろいでいた。
「はぁー、今日も美味しかった! やっぱり食堂のご飯はおいしいな!」
椅子に座っているキバッグが笑う。
「そうだな。オレは肉野菜炒めを頼んだけど、あれもなかなかいけるぜ!」
「ほんと!? じゃあ今度はそれを頼む!」
「……なあ、サン。おめぇ、あの時の怪我は大丈夫か?」
先程の元気はなく、キバッグは俯きがちに口を開く。
「ん? もうほぼ治ったけど、どうしたんだ?」
サンが尋ねると、キバッグが首を振る。彼の右手を見ると、どこか力強く握っているようだった。
「いや。オレがあの時、早く駆けつけりゃ怪我をさせずに済んだのによって思ってな。ルナークには負けるし、本当にすまねえ」
キバッグが頭を深く下げている。
恐らく、自分が役に立てなかったことを悔やんでいるのだろう。しかし、サンは感謝しきれないくらいの恩があった。助けに来なければあのままやられていたのだから。
「キバッグが謝る必要はないぞ。そりゃ、オイラたち負けはしたけど……あの時、助けに来てくれてかっこよかったぞ! だから、ありがとな!」
キバッグは照れくさそうに笑みを浮かべる。どこか嬉しそうで先程の曇った表情はなくなっていた。
「優しいなお前は。おかげで気持ちが楽になったぜ」
「へへっ、キバッグが元気になって良かった!」
「……オレさ。ブレイブ学園に入学したのは、ある目的があるんだ」
キバッグは立ち上がり、窓際まで近づいて外を眺めている。
確か、キバッグはかっこいい勇者を目指している。その目的が何なのか、サンは首をひねる。
「キバッグはかっこいい勇者を目指すんじゃなかったのか?」
するとキバッグは答えた。
「それもあるけど、一番の目的は――俺の兄貴を探すことなんだ」
それを聞き、サンは思い出す。
「そういえば、キバッグの兄ちゃんもブレイブ学園の生徒だったんだよな! どんな兄ちゃんなんだ?」
「五つ年の離れた兄貴でな。レジェッドと同じように俺の憧れだった。戦い方や色んな事を教えてくれてさ、毎日が楽しかった。でも、あの事件から……兄貴はどこかへ行っちまった」
キバッグは真剣な眼差しで、部屋の窓から見える青空を見ている。
「ふーん……キバッグの兄ちゃん、どこへ行ったんだ?」
「さあな。ブレイブ学園に入学すれば、クエストを受けながら兄貴を探せるんじゃないかって思ってよ。だからオレは兄貴を絶対に探す。聞きたいことが山ほどあるんだ」
「そっか。じゃあ、オイラも一緒に探す!」
キバッグは驚きながら、こちらを振り向いた。
「おいおい。何も、無関係のお前が協力することなんて――」
「関係なくない! だってオイラ達、友達だから。友達を助けるのに理由はいらない!」
サンはニッと笑い安心させる。するとキバッグも笑顔になり、自室の扉まで歩いていく。
「お前って本当に優しい奴だな。お断り……と、言いたいとこだけど感謝するぜ」
「へへっ。オイラにできることなら手伝うぞ!」
「そうかい。じゃあ、また午後の授業で会おうぜ」
キバッグはドアノブに手をかけて扉を開ける。彼が自室から出ていくと、サンは拳を握りしめるのだった。
「キバッグの兄ちゃんか……どんな人なんだろう? よーし、オイラももっと強くならないと!」
サンはベッドから降り、窓から見える外を眺める。空は青く、雲はゆっくりと動いていた。
いつもの景色を見ながら、もっと強くなることを誓うのだった。
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