第17クエスト アクロ

 職員室を後にした後、サンはニュートビアを出る。


 門番が教えてくれた道を頼りに、広い荒野を駆け抜けて大地を探し回ること、およそ10分後。ようやく緑の景色溢れる大きな森を見つけた。辺りはフルーツなど木の実が成熟しており、どれも美味しそうだった。


 辺りにモンスターの気配や小動物の気配もない。サンは首を左右に動かしながら、とある人物を探すのだった。


「ここを通った先にアクロ先生が――」


 その時、森林の奥で大きな爆発音が聞こえた。まるで何かが戦っているような。上空を見ると大きな煙が舞い上がっている。サンは心臓が跳ねて驚いてしまう。


「い、今の音ってなんだ!? とりあえず行ってみよう!」

 急ぎ足で向かう。

 すぐそこまでやって来ると焼け焦げた匂いが鼻を刺激する。草の障害物を避けながら、ついに最深部へとたどり着いた。


 そこには大きな湖の光景が広がっている。透き通った水に魚が泳いでいた。


「ここがゼシロス先生の言っていた湖か? んっあれって――」


 サンは辺りを見渡すと遠くに人影を発見した。その人物は木陰の下で座っている。


 まさかあれが例の人物なんだろうか。

 その男は勇ましい雰囲気の矛を片手に遠くの空を見つめていた。


「やれやれ……いきなり襲ってくるとはモンスターさんも血気盛んだなぁ」


 彼の言う通り、湖の側にあった衝撃的な光景。

 焼け焦げたモンスターの死骸が何十体も山積みにされていた。サンは目を丸くして唖然とする。


「す、すげー……なんだこれ!」


 目の前にいる人物がやったのかと目を輝かせる。すると男性はこちらに気づき眉をひそめていた。


「ん? なんだお前さん。どうして子供がこんなところに?」


 片目が隠れた金髪の二十代前半の男性。黄色を基調とした半袖と白ズボン。服の上から黒いジャケットを羽織っていた。そんな格好をした男性に近づき、サンは笑顔を見せた。


「にーちゃんがアクロ先生か!?」


 サンが問いかけると男性は気だるそうに答える。


「アクロ先生は俺だが。ってかお前さん。一体誰なんだ?」


 そういえば自己紹介するのを忘れていた。サンはいつものように元気よく挨拶するのだった。


「オイラ、ブレイブ学園に入学した新入生のサンだ! 実はパーティを決めるために大人の候補を探していてさ。教師のゼシロス先生からアクロ先生の事を聞いてここまで来たんだ!」


 サンが説明するとアクロは面倒くさそうに呟いた。


「あいつ……ほっとけって言ったのにな。それで? 俺にどんなお誘いをしてくれるんだ?」

「オイラのパーティに入ってくれないか!? 大人のメンバーが必要なんだ! とても強そうなアクロ先生にお願いしようと思ってここまで来たんだ! だから頼む。オイラたちに色んなことを教えてくれ!」


 頭を深く下げて精一杯に頼み込む。なんとか簡単に承諾してほしい。そんな思いを込めていると、アクロは小さく息を吐き微笑む。


「なるほどなぁ。わざわざ俺のために会いに来てくれて嬉しい限りだよ」


 やった、そう感じて頭を上げる。サンは、喜びの表情に満ちあふれていた。


「じゃあ――」

「残念だがそいつはお断りだ」

 意外な答えだった。


 一体どういうことなのか。サンの表情は焦りへと変わる。言葉に詰まりそうになりながらも、冷静を装うのだった。


「どうしてだ? 何か理由があるならオイラが話を聞くぞ!」


 サンの言葉も届かず、アクロはその場から立ち上がる。そのままこちらを横切って湖から立ち去ろうとしていた。


「やめておけ。もし俺が加入しても危険な目に遭うだけだ」


 言葉の意味が分からず、サンは聞いてしまう。


「それってどういうことだ?」

「気にしないほうがお前さんのためだ。そのモンスターの山はお前さんの晩飯にでもしとけ。じゃあな」


 背中を向け歩いて行くアクロ。


 このまま引き下がるわけにも行かず、サンは右足を強く地面に叩きつける。その凄まじい迫力に、アクロもこちらを振り返っていた。


「お願いだ……! じーちゃんと約束したんだ。絶対強くなって帰ってくるって。ここで立ち止まってたら前へ進めないんだ! だから待ってくれ……!」


 アクロを睨みつける。サンは拳を力いっぱい握った。このまま引き下がっては駄目だ。なぜなら、彼という存在を逃したら大切な事を学べないからだ。


 気迫に押されたのか、アクロの無表情が固まっていた。すると、彼は何か気付いたようでサンの赤い鉢巻を指さす。


「お前さんの頭につけた鉢巻き。どこか見覚えあるな……ずいぶん色褪せてるが」


 意外な箇所を発見され、サンは思わず身につけていた鉢巻きに触れる。嬉しい顔を見せながら当時の思い出を振り返るのだった。


「これか? オイラが小さい頃、シャンウィンじーちゃんから貰ったんだ。今でもこれはオイラの宝物だ!」


 そう語るとアクロの少し驚いた顔。


「そうか……だから見覚えが」

「どうしたんだ? そんな真面目な顔して」


 サンが思わず問いかけると、アクロは首を横に振って笑みを見せた。


「いーや、ただの独り言だ。ところでパーティ編成の件だったな。その話。俺の仕事を手伝ったら考えてやるよ」


 その話を聞いてサンの表情は更に明るくなる。一体何を手伝うのか、ワクワクする気持ちもあった。


「え!? それほんとだったら何を手伝えばいいんだ?」

「それは後日に話すさ。明日、学園が休みだったな。また昼頃、この湖で俺へ会いに来い」


 湖を眺め、アクロは持っていた矛を背中に仕舞う。


 サンは嬉しさのあまり、高くジャンプする。少しの希望が見えて目を輝かせる。


「やったー! 絶対来るからな!」

「ふっ、元気のいいガキンチョだな。約束は守るから安心しろ」


 アクロの立ち去る姿を見届ける。彼の姿が見えなくなると、山積みにされたモンスターを眺める。いつの間にか焦げた煙はなくなっている。


 あれがアクロという人物。


 彼の謎に満ちた実力に、サンは心踊らせるのだった。

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