第21クエスト パーティ結成

 キバッグとアクリアがこちらへ近づく。


 ついに、これで4人集まった。アクロは、まだ分かっていない顔をしている。一箇所に集まると、先に口を開いたのはキバッグだった。


「よお、あんたがアクロ先生だよな。オレ、サンの友達でパーティを組むキバッグってんだ! 話は、昨日サンやゼシロス先生から聞かせてもらったぜ。で、こいつはアクリア。ただの魔法使いだ」


「そんな雑な紹介しないでくれる? 同じく、ブレイブ学園のアクリアよ。カルディアの矛、アクロ先生。あなたが大事な生徒さんを失った事、アタシにも辛いほど分かるわ。でも、そんな悲しい気持ちは今日でおさらば。ここはみんなで一緒に奴らを倒しましょ」


 アクリアは柔らかい笑みを向けると、アクロはようやく理解したようだ。


「なるほどねぇ……お前さんたちは、サンの頼みを聞いてライメイタイガーたちをここにおびき寄せたってことか? だから探す手間が省けたってことか」


 アクロは頭の後ろを掻きながら息を小さく吐く。サンは強く頷くと、2匹のモンスターに視線を移す。


「昨日、2人にアクロ先生の事を話したんだ! そしたらすぐに協力してくれてさ。ゼシロス先生の情報を頼りに、アクリアとキバッグにあいつらを捜索させたんだ」


 キバッグは肩をすくめて言う。


「昨日はグラウンドの整備に遅れてやって来たかと思えば、いきなり頼み事だもんな。けど、サンが頭を下げてまでの頼みだからよ。オレもアクロ先生の息苦しい過去を断ち切ってやるぜ!」

「そういう事よ。お願い、アタシたちも戦わせてもらえないかしら。決して、足手まといになることはないわ。このパーティで、最後は全員で勝ちましょ」


 アクリアがそう言うと、アクロはフッと笑って矛を構え直す。


「嬉しい事言ってくれるなぁ。俺とパーティ組むからには、必ず生きる事だけを考えろ。今も、そしてこれからもな」

「え、それって――パーティに入ってくれるのか!?」


 サンが大きく驚く。アクロはしばらく黙っていたが、


「……言うまでもないだろ」


 その言葉に、サンは心の底から静かに喜ぶ。いつものように飛び跳ねることも、抱きしめることもなく――両拳をグッと握りしめる。


「ありがとな……よーし! 初めてのパーティ結成、みんなで初勝利をかざるぞ!」

「グルアアアアアア!」


 ライメイタイガー2匹が怒り狂うように叫ぶ。それを聞いたアクリアは、軽く睨みつけて両手杖を前に向ける。


「うるさい奴らね。いいわ、この新魔法で大人しくしてあげる――チェーンプリズン」


 彼女がそう唱えると、ライメイタイガーの足元に異変が起こる。地面から鉄の鎖が勢いよく飛び出すと、相手の4本足をそれぞれきつく巻き付けた。突然の出来事に声を漏らすライメイタイガー2匹。その場から逃げようとするも、鎖の縛りが強いのか、まったく動かない。それを見たアクロはどこか感心しているようだ。


「へぇ、若いのに高度な魔法を使うとはな。だがこれで、一気にトドメをさすチャンスができたな」

「アタシの実力じゃ、せいぜい15秒しか持続できないわ。今のうちにやっつけてちょうだい!」


 アクリアが少し苦しそうに叫ぶと、全員は頷く。サンは左手に、魔力を込める。すぐに渦巻くオーラが出来上がると、キバッグも持っていた大剣を腰の位置に構える。アクロは、仇である片方のライメイタイガーに矛を向けて叫ぶ。


「一気に片付けるぞ! それぞれの全力をあいつらにぶつけろ!」


 そして、すぐに動き出す3人。まず攻撃を放ったのはキバッグだった。


「分かってんだよ! グランブレード!」


 キバッグの大剣に、小さな土が吸い寄せられるように集まっていく。形を整えてコーティングされると、相手を刈り取るような鋭い土の刃となる。相手の眼前まで迫ると、大振りで斬りつける。胴体からは、勢いのある出血。ライメイタイガーはきつそうに悲鳴を上げる。


 続いてはアクロだ。いつの間にか、その姿は消えた。既に、エリナを殺したもう一匹のライメイタイガーに矛を振り払う。


「イカヅチ乱舞!」


 彼がそう叫ぶと、再び姿が見えなくなる。そうじゃない。ライメイタイガーの背後に回り、自身の武器で攻撃した後だった。次の瞬間、相手の胴体と頭部に、複数の切り傷。静かに血液が流れて白目を向いている。頭部の結晶は、割れるように破壊された。


 最後はサンだ。勢いよく走り出し、低空で飛び上がる。相手の頭部に埋め込まれた結晶に狙いを定め――左拳に振りかざす。


「タイヨー拳!」


 キバッグも攻撃を命中させた、もう一匹のライメイタイガー。頭部の結晶に、見事命中。ヒビが入り、螺旋の傷がつけられた。


「グルアアアアア……!」


 その途端に、最後の力を振り絞ったのかライメイタイガーの体に激しい電気が纏う。次の瞬間、突風が巻き起こると全員の頭上にそれぞれ落雷が発生。


「まさか、あの時と同じように――」


 アクロが呟き、生徒たちに向かって右手を伸ばそうとする。しかし、簡単にやられる彼らではない。


「オイラたちは死なない! フレイア!」


 サンは空中で体を捻り、横に回避する。そのおかげで、雷の直撃は免れた。すぐに両手で火球を作り上げると、最後の抵抗をしたライメイタイガーに向かって放つ。


「グ、ルルルル……」


 白い体が燃える。うめき声を上げて、焼け焦げたライメイタイガー。アクロが倒したもう一匹も体を震わせている。既にもう、2匹はその場から崩れ落ちるように倒れ込むのだった。


「勝った……!?」


 サンがそう確信すると、相手を縛っていた鎖が透明となって消えていく。アクリアは額を腕で拭う。


「ふう、なんとか持ちこたえたわね」

「おいおい、パーティ結成した途端に初勝利かよ! 嬉しすぎるぜ!」


 キバッグが喜んでいると、サンはその場で大きく跳びはねた。


「やったー! 討伐成功だ!」


 すると、アクロはその場で片膝をつく。目を閉じて胸に右拳を当てながら、


「ついにやったぞ、エリナ……これで俺は」


 天国の生徒にお祈りを捧げる彼に、サンたちは近づく。アクロは立ち上がり、矛を背中にしまう。


「まったく、こんなに強いなんてな。想像以上の強さだったよ。こりゃ鍛えがいがありそうだ」

「なあ、ホントにオイラたちのパーティに入ってくれるのか?」


 サンが息を呑んで聞くと、アクロはこちらの頭に右手をのせた。


「言うまでもないっていったろ。ま、これからよろしく頼む。俺でよければ、お前たちの勇者になる夢を――手伝わせくれ」

「っ! よろしくな、アクロ先生!」


 サンは左手を差し出すと、アクロも握手に応じる。お互い微笑み合うと、サンのワクワクが湧き上がっていた。これからどんなパーティになるのか、楽しみでしょうがなかった。




 ・・・




 同時刻。草の茂みに隠れている謎の二人組がいた。一人は仮面を被って姿は見えないが、子供のようだ。


 もう一人は、顔にピエロのようなペイントをしている大人の男性だった。


「いやー、試しにやってみたけど倒されちゃったねぇ!」

「……仕方ありません。まだ実験段階ですから」

「あはは、だよねー。僕もいけるかなって思ったけど、次の改良が必要だなぁ」


 やれやれと首を振りながらも、ピエロのような男は呆れながらも笑っていた。


「これからまた、改良を重ねて開始するべきですか?」

「そうだねぇ。とりあえず計画は、君たちに……お任せするよ。彼も、君に期待を寄せているんだから――ルナーク」


 ルナークと呼ばれた仮面の少年は、小さく頷いた。


「お任せください。僕は必ず、計画を成功させてみせる……なぜなら、最高傑作なのだから」

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