第47クエスト ガンズ・フレイア

 アクリアたちが、カルディア兵たちを解放している頃。



 サン達も軍の本部を最深部へと進んでいく。道中、モンスターに遭遇することも何度かあったが、全員の力で難なく倒していく。



 複雑な通路を進んでいくと、ついに目的地へたどり着こうとしていた。



「あそこに大きい扉があるぞ!? もしかして、ゴールなのか?」



 サンが歩きながら指さした先。遠くに、今まで見たことない異様な鉄の扉が存在していた。全員で確認すると、キバッグが嬉しそうに笑っている。



「ははっ! ついにブレイブクリスタルのある場所までたどり着いたってことだな? そうと決まれば、さっそくあそこに入ろうぜ!」


「ええ、そうですね。さっそく――」



 レイミーが言いかけた瞬間、鋭い針が1本こちらに飛んでくる。壁に突き刺さると、サンは思わず飛んできた方向を振り向いた。



「あらあら。そのまま溶かしちゃおうと思ったけど、やっぱり避けられちゃったか」



 天井から降りてきたのは偽物のソウギだ。彼女は唇を舌で舐めると不気味っぽく微笑む。



「おめぇの正体は分かってんだ! そろそろ姿を現したらどうだ?」



 キバッグが言うと、ソウギはおかしそうに笑う。



「くくく……そうね。いつまでも私の正体に気づいてないほど馬鹿じゃないか。じゃあ見せてあげよう――あたいの恐ろしい姿を!」



 黒いオーラが渦巻いて偽物のソウギを取り巻く。姿が完全に見えなくなるほど覆われると、少し強い突風が吹く。黒いオーラがなくなった瞬間、そこにはモンスターらしき人物の姿があった。



「あれがあいつの真の姿……か?」



 針金のような銀髪の長い髪。手足は長い爪が尖っており、身長は1メートルにも満たず、シルフィよりも小さかった。褐色のモンスターはニヤッと笑い、どこか自慢気にしていた。



「くくく! これがあたいの恐ろしい姿だ。どうだ、驚いただろう!」



 その場にいたサン達はだんまりする。しかし、ジト目でサンは言った。



「お前……シルフィより小さいんだな」


「ああ。こいつとんでもねぇチビじゃねえか。なんだか可愛く見えてくるぜ」



 馬鹿にされたモンスターは睨んだ表情で怒り狂う。



「どうやらこのハーリンの餌食にされたいらしいね……! いいだろう! お前らを針漬けにして他の仲間たちの食材にしてやるよ!」


「皆さん、相手が来ますよ。気をつけてください」



 レイミーの言う通り、ハーリンがこちらへ勢いよく襲いかかる。鋭い爪をサンに振りかざすと、大きな叫びをあげた。



「死ねええええええ!」



 振り下ろした腕をサンは回避する。後ろに大きく下がると、サンは両の手のひらを合わせた。



「フレイア!」



 手のひらで火球を作り上げると、相手に勢いよく放つ。しかし、相手は自分の長い髪の毛で体からダメージを守っていた。



「残念だったね! あたいの髪の毛はそこらへんの針金のより固い! あんたの攻撃なんて効きやしないよ!」


「へぇ。じゃあ、これはどうだ! グランフィスト!」



 キバッグが魔法を唱えると、地面から大きな人形の拳が現れる。ハーリンの顔面へ殴りかかろうとするも、またもや自身の髪の毛でガードされてしまう。針金のような髪に触れた拳は、跡形もなく熱で溶けたように崩れ去ってしまう。



「なっ!?」


「言っておくけど、あたいの針に触れたら熱のように溶けてしまう! まだ戦いは始まったばかりなんだ、もっと楽しませておくれよ!」


「くそっ。うかつに触れねえな……次はどうする?」



 キバッグが尋ねると、レイミーは言った。



「できる限り、魔法で攻撃したほうがいいでしょう。私も手伝いますので、一緒に戦いましょう」


「レイミー先生がいたら百人力だ!」



 レイミーは微笑んで言った。



「ふふっ。サン君、今の魔法では相手に太刀打ちできないでしょう。あなたは日々成長しています。先ほどの魔法も、今こそパワーアップするべきです」


「フレイアをパワーアップさせる? もしかして、新しい魔法を教えてくれるのか?」



 サンが目を輝かせると、レイミーは首を横に振った。



「いいえ。どうパワーアップさせるかはサン君が考えてください。1つヒントをあげるとすれば、あのモンスターの針金のような固い髪をどう攻略するか。それだけを思い出しながら、ここで頭を捻るのです。それが、私からの今日の宿題です」


「オレ達があいつと戦う! サン、その間に新しい魔法を覚えろ!」



 キバッグが大剣を振り回し、ハーリンと戦っている。一生懸命戦っている彼に対して、サンは勢いよく頷いた。



「ありがとう、キバッグ! レイミー先生、オイラ考えてみる。あいつを一撃で倒せるだけのとっておきの魔法を!」


「ええ。私達が食い止めている間、新しい魔法の完成を楽しみにしていますよ」



 そう言い残しレイミーは、右手を前に出す。光の粒子が集まると、この前出した剣――エクスドラグーンを握る。彼女はこちらに微笑むと、ハーリンに突撃していく。



「あいつを一撃で倒せる魔法……!」



 顔を下に向けサンは考える。あの固い髪をどうやって打ち崩せるか。今のフレイアでは普通にガードされてしまう。タイヨー拳もお見舞いしたいが、あの針に触れたら熱のように溶けてしまう。



 もう一度、顔をあげる。それぞれの剣で応戦しているレイミーとキバッグ。だがやはり、相手の針金のような髪で防御されていた。



「あんなに集中攻撃しても防御されるなんてすごい髪の毛だ。オイラも戦いたいけど……どうすれば?」



 サンはこれまでの授業内容を思い出してみる。頭の中で覚えていた記憶を頼りに、あることがひらめく。



「そういえばレイミー先生が前に言ってた。普通にある魔法でもちょっとした工夫をすれば、オリジナルの魔法になるって……」



 そしてサンは拳をぐっと握りしめながら、ある事を考える。あの固い髪の毛を貫通させるだけの威力があれば倒せるのではないかと。



「よし……一か八かだ!」



 サンは両手を合わせて魔力を一点に集中させる。普段の火球を作るときより、もっと鮮明に細かく集中させる。



 一方、レイミーとキバッグは相手が大量に放出した針を避けていた。



「ほら、どうした! さっきまでの威勢はどうしたんだい!?」



 ハーリンは不気味に笑い大量の針を髪の毛から飛び出す。しかし、キバッグ達が避けつづけるのもサンの新技のため。両の手のひらを更に集中して作り上げると、ついにその時は来た。



「できた……!」



 両手には赤い炎が宿る。ほんのりとした温かさに包み込まれると、サンは両手を腰の位置まで持っていく。そして、溜め込んだ魔力をそのまま相手に向けて放った。



「ガンズ・フレイア!」



 次の瞬間、両手から燃え盛る炎が一直線に相手へ襲いかかる。ビーム状となって突き進んでいくそれは相手を振り向かせた。



「なっ!?」



 ハーリンは慌てた様子で自身の髪の毛を胸の前に持っていく。激しく燃える火の砲撃を直接受け止めると相手は勝利を確信したかのように笑う。しかし、その笑みもすぐに崩れ去ってしまう。



「いっけえええええ!」



 サンが叫ぶと相手の髪の毛が少しずつ燃え始める。そして、火の砲撃は髪の毛を突き抜けて相手の胸へと直撃した。体が壁際まで吹き飛ぶと、ハーリンは地面に倒れ込んだ。



「ば、馬鹿な……あたいの髪の毛が破られるなんて……!」


「これがオイラの新魔法、ガンズ・フレイアだ!」


「……くくく。あたいを倒してもこの先には、あんた達の知っている奴がいる。またそいつにボロ負けするんだね……ははは!」



 ハーリンは高笑いしながら、白目を向いて動かなくなった。サンはある人物のことを思い浮かべる。



 ルナークがいる。サンは彼との再戦に備えるため拳を強く握るのだった。



「やったな、サン!」



 キバッグが近づいて、こちらの肩に手を置く。それに対しサンは微笑んだ。



「前のレイミー先生の授業を思い出したんだ。どんな魔法でも工夫をすればオリジナル技になるって。だから今回、あの新魔法ができたんだ!」


「私の教えた内容を覚えていたんですね。今回の新魔法、とてもいいものを見せてもらいました。サン君、この調子でブレイブクリスタルも守りましょう」


「おう! 絶対、ルナークにブレイブクリスタルを奪わせるもんか!」



 サンは大きな扉の前に立つ。



「ついに来たんだな……ルナークもいるかもしれねえ。気をつけねえとな」



 キバッグが真剣な表情を見せている。



「いや、ルナークは絶対にいる。またあいつと戦えると思うと……オイラわくわくしてきた!」



 サンの心は熱くなりニヤッと笑う。そして、隣りにいたレイミーが言った。



「彼の他に誰かいるかもしれません、気をつけて戦いましょう」


「ああ。そんときは誰でもぶっ潰すだけだ!」



 キバッグが両拳を力強く叩き合わせる。



「よし……行こう!」



 両手で大きな扉を開けるサン。その見た目に合って、ずしっとくる重み。扉を向こう側まで開けると中まで入る。入るといままで狭い廊下だったのが嘘だったかのように、広い部屋だった。ここでずっと走り回れそうだった。しかし、注目したいのはそこではない。



「みんな、あれを……!」



 サンは奥の場所を指さす。そこには、天井まで登れそうな階段。見上げるほどにでかい紫色の結晶の塊。それを何か検査している機械の数々があった。光り輝く巨大な結晶を見て、サンはすぐに確信した。これがブレイブクリスタルだと。



「でけぇ塊の結晶だな。まさかこれがブレイブクリスタルなのか?」


「ここまで大きなブレイブクリスタルも珍しいですね。恐らく、カルディア軍がパーツのように結晶の欠片を組み合わせてここまで大きくしたのでしょう」


「その通り。カルディア軍は自ら軍事利用のためにブレイブクリスタルを使用している。だが、それも今日限りだ」



 奥のほうから聞き覚えのある声がする。サンは視界を1点に集中させた。



「その声……まさか!」


「久しぶりだな、サン。また君とは会うことになるとは思っていたよ」



 サンと同じ顔の少年、ルナークが階段を降りていく。彼はサンを笑うことなく見つめている。



「ルナーク……彼が……」



 レイミーはいつもより真剣な表情でルナークを見ながら言った。



「ルナーク……! 今回の事件、お前も絡んでいたのか!」


「ああ。残念だが、ブレイブクリスタルの力はとっくに頂いている。この瓶の中にな」



 ルナークは服の胸の中から何を取り出す。ルナークの手のひらに収まるほどの小さな瓶だ。中身は紫の粒子が集まって光り輝いていた。



「本当にブレイブクリスタルの力が吸い取られたってのか!?」



 キバッグが怒りっぽく言うと、ルナークは瓶を服の中にしまった。



「この魔法の瓶はあらゆる魔力を保存できる代物でね。こんな大きなブレイブクリスタルを持ち帰るには精一杯だ。だから、ある方から貰った瓶で魔力だけを吸収したのさ」


「なるほど。その高性能の瓶を作ったということは、あなたのボスはとても優れた魔法使いという事でしょう」



 レイミーがくすっと笑うと、ルナークは眉をぴくりと動かす。



「あなたは何が言いたい?」


「いえ。それだけの物を作れるのです。やはりあなたのボスは……なんでもないですよ。それより、その瓶を私たちに譲って頂けませんか? ブレイブクリスタルを守るためにここまで来たのですから」


「それは僕たちの目的を知ってのお願いか?」



 レイミーは右手を前に、光の粒子を集めさせる。そして、エクスドラグーンが握られて剣先をルナークに向けた。



「ふふっ。もし、差し出しても良ければ……あなたの秘密を1つ答えてあげましょう」



 その場にいた全員が静かに驚愕する。サンはレイミーをじっと見ながら考えた。この助成は本当に何者だろう。あれだけの実力を持ちながら、今度はルナークの秘密まで知っている素振りを見せている。



 まだまだサンは彼女について知らないことが多い。対してルナークは冷静な様子を見せているものの、動きはどこかぎこちなかった。



「僕の秘密だと……? あなたは一体――」


「何をもたもたしている、ルナーク。こちらの目的は既に終わっているぞ」



 背後から男性の声がする。サンが振り返ると、そこにはどこか見たことのある顔立ちがいた。



「キバッグ……?」



 サンがそう呼ぶと青年は頭を隠していたローブを脱ぐ。そして、はっきりとその顔が見えるようになった。



「……ほう。懐かしい魔力を感じて来てみれば、こんなところで会うとはな――キバッグ」


「あ、あんたは……!」



 ニヤリと笑う青年に対し、キバッグは後ろに下がりながら驚く様子を見せている。

 ルナークは青年に言った。



「ガルフ、前から思っていたがそこの彼とは知り合いか?」



 ガルフと呼ばれた青年は背負っていた大剣を手に持つ。剣先をキバッグに向けると、尖った歯を見せて笑う。



「ああ。この世でただ1人の家族……俺の弟だ」



 サンは後ろに下がって目を見開いた。この人物こそが、前に言っていたキバッグの兄。そして、探していたという人物。今ここでキバッグの目的が達成されたのだ。

 キバッグに視線を移すと、力強い目でガルフを睨んでいた。



「ようやくだ……あんたを探すまでにどれだけかかったか! ガルフウウウウウ!」



 キバッグは大剣を手に持ってガルフに襲いかかる。対して相手は一歩も動かないまま、余裕の笑みで自身の大剣でガードした。鋭い金属音が鳴り響いて剣同士がぶつかり合う。運命の出会いを果たした兄弟対決にサンはただ見ることしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太陽のブレイバーズ~勇者を目指す少年の軌跡~ カズタロウ @kazu_akatsuki

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ