第33話 転生の間でドルチェまで転生?

 採掘初日で金貨35枚もの大金を手にしたわたしたちは、その勢いのまま、ちょっといい洋食屋さんに突入した。


 ベルルクの町では、オーダーウルフちゃんたちが同行するのを断る飲食店はないようで、快く入店させてもらうことができた。


 それと、オーダーウルフちゃんが食べるのものは、人間と変わらない、ということで、ドルチェ用の小さい机を隣に並べてもらって、一緒にご飯を楽しむことができた。


「うちの名物は、パイ包みのクリームシチューだよ!」


 コース料理を何品か食べた後、奥さんが持ってきてくれたのは、真ん丸なピンクの器に入ったクリームシチューだった。いや、まだクリームシチューだとはわからない。なぜなら、器に蓋をするようにパイ生地が被さっているから。


「お嬢ちゃんたちは、はじめて来てくれたお客さんだよね?」


「はいなのです!」

「わふ!」


「このパイ包みの器はね、採掘場で取れた一番純度が高い岩塩を加工してできているのさ、岩塩は熱伝導率がいいから器はあっつあつだよ!気を付けてね!それとね、器の内側をスプーンでかりかり削ると塩味が強くなって面白いからやってみるといいよ!」


「わかりました!ありがとうございます!」

「わふわふ!」


 そして、わたしたちは、名物料理に舌鼓を打った。名物というだけあってすごく美味しくて、それにそのあとのデザートもとっても美味しかった。いい店を見つけてしまった。これはリピートしたいやつだ。


 しかし、ちょっといいお店は、ちょっといいお値段するもの。一人当たり銀貨5枚、3人で金貨1.5枚だ。……たまの贅沢だから許してほしい。



 こうして、ベルルクでの初採掘で大成功をおさめたわたしたちは、翌日からも採掘へと勤しむことになる。


 朝起きて、朝ごはんを食べ、お弁当を買って採掘場に潜る。夕方には出てきて、その日の成果を換金し、夕食を食べてから銭湯にいって、就寝だ。


 あ、ちなみに銭湯もドルチェ同伴でOKだった。オーダーウルフちゃん用の大きな湯船が用意されていたので、隣り合ってお風呂を楽しむことができている。ドルチェ以外のオーダーちゃんも湯舟に使っていたので、ニコニコ眺めていたらドルチェに甘噛みされてしまった。

 嫉妬しちゃってまぁ♪なんて可愛いのかしら♪


 それはそれとして、ここ1週間の採掘での収入について確認していこう。


「んー、やっぱり初日のミスリルフィーバーはすごかったってことね」


「なのです」


 まとめるとこんな感じだ。


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1日目、金貨35枚

2日目、金貨7枚

3日目、金貨4枚

4日目、金貨9枚

5日目、金貨2枚

6日目、金貨5枚

7日目、金貨1枚

----------------------


「安定しないものね〜」


 宿のベッドでパジャマに着替えてのんびりしながら、ここ1週間の収入を見てみてると、本当に不安定だということがわかる。


「わふん……」


 隣のドルチェが申し訳なさそうにする。


「ああ!違うの!ドルチェ!あなたは何も悪くないわ!」


「わふ?」


「ドルチェは頑張ってくれてるし!一緒にいてくれるだけでわたしはすっごく幸せよ!もしも1日中鉱石が取れなくっても!わたしはドルチェを愛してるわ!」


「わ、わふん……わふわふ!!」

 ふりふりふりふり!!


 ドルチェが目を輝かせて尻尾を振った。


「ペロペロペロペロ!!」


 そしてたくさんほっぺを舐めてくれる。


「あはは!ドルチェもわたしのこと好きになってくれたかしら?」


「わんわん!」


「そう!すっごく嬉しいわ!」


「わんわん!」


「むー……フランお姉さん!!」


「もちろんアウルムちゃんも大好きよ!おいでなさい!」


「むー……」


 抱き寄せてよちよちするが、いまいち納得してなさそうだ。なかなかに嫉妬深いうさ耳ちゃんである。

 わたしって罪な女ね。


 まぁ、それは置いておいて、毎日それなりに稼げる採掘活動もいいけど、お金持ちにはほど遠い気がする。


 やっぱり、あの秘策を使う時が来たのかもしれない。そう思い、明日、作戦を実行しようと心に決めるわたしであった。



-採掘場内部-


 今日は、少し深めに、というか遠目に、洞窟の奥の方までやってきた。他人の目を気にしてのことだ。


「ドルチェドルチェ、近くにわたしたち以外はいないかしら?」


「わふん」


「そう、ありがとう」


「それで、フランお姉さん、なにするのです?魔法を見せてくれるって言ってたですが、またあのバキューン!みたいなやつなのです?」


 わたしは、コインガンを打ちまくってたことを思い出し、恥ずかしくなる。


「アウルムちゃん……それは忘れて……違う魔法よ?」


「2個目の魔法なのです!フランお姉さんもすごい魔法使いなのですね!」


「まぁ、わたしのはチートというか、なんというか……とにかく、2人にはわたしの転移魔法を見せたいと思うわ!」


「転移魔法?」


「ちょっと待ってね」


 わたしは目をつむり、念じる。


『ゲバ爺ゲバ爺、聞こえる?転移する世界、好きに選んでいいって言ってたよね?通行税は取るとか言ってたけど……ちょっと他の世界も行きたいから、転生の間に案内してよ』


 そう語りかけると、


『……1人金貨5枚』


『たっ!……わかりました……』


 銭ゲバの声がして、あまりの金額にキレそうになるが、わたしは金貨を口にいれて通行の許可を求めた。金貨15枚、大金だ。でも、わたしの計画が上手くいけば余裕で取り返せる額だという算段だった。


 そういえば、金貨を口に入れると、喉を通る前に消え失せるので、お腹を壊すことはない。アウルムちゃんが心配していたので、ちゃんと説明しておいた。


「わぁぁ……扉が出てきたのです……」


 アウルムちゃんの声に目を開けると、わたしの目の前には白い扉が現れていた。このベスティーアという世界に転生したときに、ゲバ爺に放り込まれた扉だ。


「行くわよ、2人とも」


「わ、わかったのです……」


「わん……」


 わたしが扉をあけ、先に入る。あとから、2人もついてきた。


 転生の間だ。


 真っ白い空と壁がないどこまでも広い世界、地面は水面のようになっていて、歩くと水紋は広がるが、沈むことはない不思議な世界。


 その不思議な空間に、多種多様な扉が10枚以上置かれている。


 規則性はないが、ざっくり円形にはなっていると思う。


「な、なんなのですか……ここは……」


 アウルムちゃんはビックリした顔でキョロキョロしていた。


「えっと、他の世界に繋がる異世界?」


 わたしは自分の知っていることを素直に話す。


「へ?なにを言ってるのです?」


「あ、わたし転生者だから。えっと、目的の扉は……」


「……フランお姉さん!なに言ってるですか!?アウルムにもわかるように話すのです!」


「えーっと、わたしは違う世界からの転生者で、神様からベスティーアに転生させてもらったんだけど、他の異世界にも行ける権利があるから、そこでちょっとやりたいことがあって。あ、もちろんすぐにベスティーアには戻るから安心して?」


「なに言ってるかわからないのです!」


「まーそのうちわかるわよ」


 わたしは説明を放棄しながら目的の扉に近づいた。


 すると、扉の影から、見たことがあるおじいさんが姿を現した。


「……なぜここに獣がおるのじゃ」


 ゲバ爺である。


 腰くらいまで伸びた白い髭、同じ色の髪、ガリガリの身体、新興宗教の教祖みたいな真っ白の服を着たおじいさんだ。

 今日も、開いてるのかよくわからない細い目をしているが、髭を片手でなでながら、なんだか怒った雰囲気を出している。ドルチェのことを見てるようだ。


「グルル……わん!わん!」


「あらら?どうしたの?ドルチェ?この人は神様よ?害はないわ、たぶん」


「か、かかか、神様!?なのです!?」


「わんわん!!」


 アウルムちゃんはビックリしていて、ドルチェは何故かキレていた。


「儂、毛むくじゃらが嫌いなんじゃ」


「わんわん!」


「うるさいわい!わかる言葉で話さんか!あー!これだから獣は嫌なんじゃ!わんわんと訳のわからんことを言いおって!」


 ゲバ爺までキレ出した。みんなプリプリして、どうしたのかしら?


「まぁまぁ、こんなに可愛いじゃないですか、おじいちゃん」


「誰がおじいちゃんじゃ!おまえはもっと儂を敬え!」


「わんわん!」


「うっさい!人間の言葉でしゃべれ!犬っころ!」


 言いながら、ゲバ爺が杖を召喚する。木の根っこが絡んだようなそんな杖だ。それを天高く構えたと思うと、


「キェェェーー!!!」


 これまた、信仰宗教のあぶない教祖的な奇声をあげ出した。ふつうに怖い。


 わたしが引いていると、ゲバ爺の杖からウニャウニャした光の帯が飛び出してきて、ドルチェに直撃する。


 ビビビビ!!ボフン!!


 ドルチェが煙に包まれる。


「は?え?……ちょ!なにしてんのよ!このハゲ!」


「誰がハゲじゃ!この神聖な空間に獣畜生を連れてきたおまえが悪い!」


「だからって!なにしたの!ドルチェ!ドルチェ!」


 わたしはすぐにドルチェに駆け寄った。


 ドルチェがいたあたりには、もくもくと煙があがっていて、どうなったのかわからない。煙をかけ分けていくと、


「がるるる……ご主人様!あのジジイはあぶないぞ!危険な匂いがするぞ!がうがう!ドルチェが退治してあげる!」


「え?」


 そこには、すっぽんぽんの幼女がいた。


 茶色の髪に、垂れた犬耳、犬耳には、ペンキをぶちまけたような白い模様。わたしがクリームがついたチョコみたいだなって思った模様だ。


 その幼女は、アウルムちゃんと同じくらいの身長で、わたしの腰くらいまでしかない。

 その子のお尻からはもっふもふな茶色い犬尻尾が生えていた。


 表情は怒っているが、目はまん丸で、でも口からは獣らしい八重歯が見える。


 それらの特徴が、わたしが大好きな、もふもふちゃんだということを物語っていた。


「ど、ドルチェ……なの?」


「そうだぞ!あのジジイが!」


「……ジジイとか言っちゃだめよ?」


 呆然としながら、言葉を返す。


「でも!!……ご主人様?ドルチェの言葉がわかるのか?」


「わかる、わかるわ……だって、人間になって……」


「ご主人様!ドルチェ!ご主人様とお話しできて嬉しいぞ!」


「わっ!?」


 突然抱きつかれて、押し倒される。

 尻餅をついて、抱き止めた。


「ご主人様!ドルチェ!ドルチェって名前も!ご主人様も大好きだぞ!」


 ペロペロペロペロ!


「あわわわわ……」


 突如、全裸の犬耳もふもふ幼女にほっぺをペロペロされ、頭が幸せ、じゃなくて混乱の渦に巻き込まれる。


 なんだか、ドルチェのペロペロがわたしの唇にもにわかに触れたような気もした。

 んふふ……ちゅーしちゃった……


「ご主人様?もっとドルチェとお話ししてほしいぞ!」


「くっつきすぎなのです!犬っころ!はなれるのですー!」


 アウルムちゃんがドルチェの腕を引っ張る。


「なにするんだ!このバカうさぎ!」


「な!?アウルムは賢いのです!バカじゃないのです!」


「がるる……」


 ああ……これは夢かしら……


 わたしは、ドルチェが暴れないように抱きかかえつつ、犬耳の中にダイブする。もふもふで気持ちいい、ケモ吸いだぁ……


「フランお姉さんは浮気ばっかなのです!きらいになるですよ!」


「そんな!?ごめんなさい!許してください!」


「わんわん!ご主人様はドルチェのだ!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐわたしたち。


 それを遠目から見るゲバ爺がいた。


「……人間にしても、獣は何言ってるかわからんのじゃ……もう帰ろ……」


 そして、こいつはこいつで無責任なムーブをかまして姿を消す。

 転生させる者と転生する者は似るのかもしれない。

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