第23話 シードラゴン襲来と自営能力
「はぁはぁ……アウルムちゃん、大丈夫?」
「はいなのです……ふぅ……でも、あんなのどうするのですか?」
わたしは、海の向こうから迫り来るシードラゴンの群れを見て立ち尽くした。
「……どうしよう」
「え?……ど、どどど!どうにかできるから来たんじゃないのです!?」
アウルムちゃんが青い顔をしてガクガクと焦り出す。それを見て、わたしも冷や汗が噴出してきた。
「ま!待って!なんとか!なんとかするから!」
わたしは目をつむって考える。
わたしが転生したとき、ゲバ爺になんて言った?
わたし:自衛できる力が欲しい!
ゲバ爺:なら、儂の力を分けてやろう
『それだ!ゲバ爺!力を貸して!』
そう願うと、わたしの頭の中に、あるイメージが広がった。
ゲームでいうところの、アイテムショップのような画面だ。そしてそこには、こんな文字が記載されている。
---------------------------------------------------------
【自衛能力一覧】
・なんかすごい殲滅魔法:1億マーニ
・めっちゃ強くなれる身体強化:5000万マーニ
:
:
・コインガン:500万マーニ
---------------------------------------------------------
「……金取んのかよ!ふざけんな!!」
つい声を出してしまう。
「キュ!?どうしたのです!?」
「あ、ああ……ごめんね……ちょっと待って……」
もう一度、目を閉じる。
なんだか、色々能力が書いてあるが、このコインガンというのが1番安い。
『これ!これでいいから頂戴!』
『お金を入れてね』
ゲバ爺の声がナビゲーション的に聞こえてくる。
イラつく!
『どうやって支払えばいいわけ!?』
『コインを食べてね』
『なにそれ!?』
『はやく、お金を入れてね』
ゲバ爺の声はあくまで説明口調で、感情がこもっていなかった。これは録音で、会話ではないのだと察する。
「ああもう!アウルムちゃん!」
「はいなのです!」
「聖金貨5枚出して!」
「わかったのです!」
アウルムちゃんが宝箱を召喚し、そこから出してくれた聖金貨5枚をケースからだし、口に入れた。もはや、やけくそだ。
「フランお姉さん!?お腹壊すのです!」
「大丈夫だから!」
ごくん。
喉を鳴らすと、わたしの両手が光り出した。
「な、なにこれ……」
不思議に思っていると、ゲバ爺の声が聞こえてきた。
『コインガン、所持金を消費して、敵を攻撃することができるのじゃ。手のひらを鉄砲みたいに構えてバンバンやると良いぞ。1発、金貨1枚じゃ』
『なによそれ!?まだお金かかるっていうの!?』
「フラン!!」
わたしが葛藤していると、ゴブリンさんたちが10人ほど、向こうから走ってきた。先頭はギギさんだ。
「おまえも来ていたのか!」
「は、はい!ギギさんたちはどうして!?」
「俺たちしか戦えないだろう!ここは任せろ!」
「でも!」
そんな問答をしてる間に、シードラゴンが港まで到達してしまった。
「ギャォォォ!!」
雄叫びを上げながら、わたしの何十倍もデカいそいつが、ギギさんに体当たりしていった。
「ぐっ!?うぉぉぉ!!」
ギギさんが巨大なシードラゴンを受け止める。
「ギギさん!?」
ギギさんは、牙を持ち、飲み込まれないように踏ん張り、港のコンクリに足を食い込ませて耐えていた。
か、怪力すぎるでしょ……
周りをみると、ゴブリンさんたちがなんとか町への侵入を阻んでいるのが確認できる。
今はなんとかなっている、でも、みんな苦しそうでギリギリといった表情だ。
「おまえは戦えるのか!魔法かなにか使えるなら頼む!」
「ええ!?」
「俺たちが止めてるうちに!」
「そ、そんなこと言われても……ああ!もう!なるようになれ!
コ、コインガン!!バキューン!!」
わたしは、両手を鉄砲みたいに構え、バカみたいなセリフを吐く。
シーン……
何も、起きない。
「ふ、フランお姉さん……?」
アウルムちゃんがポカン顔でわたしのことを見る。
「……」
わたしは、顔真っ赤だったと思う。
恥ずかしい、死にたい……
『お金を入れてね』
またゲバ爺の声だ。
「ああもう!アウルムちゃん!聖金貨出して!」
「何枚なのです!?」
「10枚!」
そしてわたしはまた金貨を食べた。1000万だ。
ツラい!でもそんな場合じゃない!
「コインガン!これでいいんでしょ!?」
わたしは、再度、両手を鉄砲みたいに構え叫んだ。
すると、
ズドドドドド!!
両手から、マシンガンのように金貨が飛び出し、シードラゴンを直撃した。
「ギャァァァオ!?」
顔面に大量のコインを浴びたそいつは、すごく痛そうにしながら、ギギさんへの突撃をやめる。そして、海に向けて逃げていった。
「他のやつも頼む!」
「ま、任せなさい!!」
やけくそだった。
ギギさんに頼られ、はじめての戦闘で舞い上がっていたのかもしれない。
ファンタジーらしい世界観で、強敵に立ち向かうわたし、カッコいい、そんな感じだ。
だから、わたしはゴブリンさんたちが足止めしてる数十匹のシードラゴンに向かって、コインを発射し続けた。
『お金を入れてね』
わたしは――
『お金を入れてね』
舞い上がっていたのかもしれない――
『お金を入れてねぇ』
どんどん所持金が減っていっても、私TUEEEE、に酔いしれていたのかもしれない――
『お金を入れ――』
「フランお姉さん!もうないのです!」
「……え?……ないってなにが?」
「お金が!すっからかんなのですー!」
アウルムちゃんの叫び声を聞いて、わたしは正気を取り戻した。さっきまで構えていたコインガン!バキュンバキュン!のポーズをやめ、だらんと腕を下げる。
「………わたしの1億5000万が!?き!消えた!?」
「大丈夫だ!あと数匹なら俺たちだけで!」
ギギさんたちが巨木を振り回しながら、残り数匹のシードラゴンを殴り倒していた。
わたしは、その光景を呆然と眺める。
わたしの……お金が……ない……?
「……あ!でも!最初に土地を売ったときの1500万には手を出してないわ!」
わたしは、シードラゴンの残党よりも、自分の残金の方が気になっていた。
「それもフランお姉さんがアウルムから無理矢理取って食べたのですー!」
「そんな……ポカーン……」
こうして、わたしはまた無一文に戻ったのだった。
-完-
つづくよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます