第22話 最高級肉料理シードラゴンのヒレステーキ

-高級レストラン前-


「来てしまった……高級レストラン……」


「ごくりなのです……もういい匂いなのです……」


「たしかに……」


 わたしたちは、マーレルにある最高級レストランに来ていた。


 黒塗りの大きな平家で、大きく飛び出た屋根を円柱の柱が支えている。その柱には、金色の装飾が施されていて、シンプルながら高級店だと一目でわかる外観だ。


「行くわよ……アウルムちゃん……」


「なのです……」


 わたしたちは、おそるおそる、そのお店に入る。


「いらっしゃいませ」


 お店に入ると、すぐに執事服をきた男性が声をかけてきた。この人は普通の人間っぽい、亜人じゃなくて30代の男の人だ。


「あ、予約してたフランです」


「フラン様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 ペコリと会釈され、白い布をかけた手とは逆側で案内される。


 わたしたちはゆっくりと後ろについていった。


「こちらの席でお願いします」


「あ、ありがとうございます」


 執事さんがわたしたちの椅子を引いて座らせてくれた。


 アウルムちゃんには、最初から子ども用の椅子が用意されている。


 アウルムちゃんが座るとき、若いお姉さんがやってきて、アウルムちゃんを抱っこして座らせてくれた。

 な、なんて洗練された接客なのだろう……


「はわわ……なのです……アウルム、王様になった気分なのです……」


「わたしも……」


 完全に借りてきた猫状態のわたしたちだった。


「それでは、本日のコース料理を説明させていただきます」


「は、はい……」


 執事さんが、コース料理のメニューを渡してくれて、説明をはじめてくれる。


 昼からコース料理?そう思ったかもしれない。

 だって!ディナーはもっと高かったんだもん!ランチが限界よ!庶民舐めんな!


 わたしは脳内の誰かと喧嘩していた。


 脳内デビルをやっつけていると、コース料理が始まる。


 わたしとアウルムちゃんは、「美味しいのです……」と呟いてばっかりだったと思う。


 そして、今回の目玉料理が登場する。


「本日のメイン、シードラゴンのヒレ肉でございます。レアにて焼き上げております。お好みのソースでお召し上がりください」


 わたしたちの前に、素敵な装飾のお皿に乗せられたステーキがあらわれた。


 真ん中に拳大のステーキが鎮座していて、周りには緑や赤、茶色のソースで飾られている。

 どのソースがどうとか説明していたが、よくわからなかったので、ひとつずつ付けて食べようと思う。


 ナイフを差し込むと、信じられないくらい柔らかかった。力を入れてないのに切れる。


「ごくり……」


 絶対美味しいやつだこれ……


 そして一口、肉の旨味が広がる。でも、嫌味が全くない。まったり優しくてすぐに溶けていく。もう口の中から消えてしまった……


「あぁ……」


「こんなの……こんなのダメなのです……普通のお肉が食べれなくなっちゃうのです……」


 そうそう……まさにそれ……そんな感じよ……


「でも手が止まらないのです!」


「ほんとそれ……」


 そしてわたしたちは、シードラゴンのステーキを満喫した。



「あー!美味しかった!」


「なのです!」


 ステーキを食べて、さらにデザートまで食べちゃって、ニッコニコのわたしたちは、食後のティータイムを楽しんでいた。


 大きな窓から見える港と海を眺めながら、自分がお金持ちになったことを実感する。


「……毎日、食べたいわ……」


「はわ!?ダメなのです!贅沢を癖にしたらダメなのです!」


「そ、そうよね……さすがアウルムちゃん……」


 意外としっかりしたうさ耳ちゃんである。


「はぁー……それにしても美味しかった……」


「なのです……アウルム、フランお姉さんになにかお礼しなきゃなのです」


「んー?そんなのいいわよ。わたしとアウルムちゃんの仲じゃない」


「でもでも!お礼がしたいのです!なんでも言って欲しいのです!」


「……なんでも?」


 なんでもって言った?


「なんでもなのです!」


「……そ、それじゃあ、してもらいたいことが……」


 わたしは、前々からやりたかったことを言おうとする。


「わかったのです!」


「え?ほんとに?」


 まだ何も言ってないのに、安請け合いしてしまうアウルムちゃん。


「アウルムに二言はないのです!」


「そ、そう……じゃあ……」


 ニッコリ。

 わたしは、このあとのアウルムちゃんとの時間を考えながら、顔をニヤつかせた。


 そのとき、


 カンカンカンカーン!!


 大きな鐘の音が鳴り響く。


「なに!?」


 その鐘の音は、壁についている水晶から発せられているようだった。


「火事なのです!?」


「お客様!こちらへ!」


 すぐに執事さんがやってきて、わたしたちを避難させようとする。


「な、なんなんですか!?」


「シードラゴンの襲撃です!」


「シー、ドラゴン?」


 わたしたちは、さっき食べたステーキのことを思い出しながら、お腹をさすり、窓の方を見た。


 港の先、海の向こうに、大きな波のようなものが見える。


 バシャバシャと白波がたっているから、波だと思ったのだ。でも、違った。


「シードラゴン……」


 細長い、蛇のような、でも、鱗が硬そうで、みずいろの大きなドラゴンが、10匹、20匹、いや、もっとたくさん迫ってきているのが見えた。


「お客様!シェルターへ!」


「で、ででで!でも!あれ!どうするんですか!」


「マーレルに防衛機能はありません!シェルターで身を隠し、あいつらがいなくなるのを待つしか!」


「じゃあ!町の人はどうなるんですか!シェルターには全員入れるんですか!?」


「それは……一部の方のみかと……」


「じゃあダメよ!アウルムちゃん!行くわよ!」


「は!はいなのです!」


 わたしは、何ができるのかもわからないのに、港に向けて走り出した。

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