第21話 お金持ちになった日

-土地 契約日-


「それでは、売却金額1億5000万マーニを聖金貨150枚にてお支払いさせていただきます。ご確認ください」


 わたしたちは、マーレルにある銀行にて、土地の決済を行っていた。


 銀行を訪れると、銀行員の人に丁寧に対応され、奥にある応接室に通された。そこには既に、ジラーフさんとキャンベルさんが待っていて、わたしとアウルムちゃんは正面のソファに腰掛けた。布張りの高そうなソファであった。


 キャンベルさんが土地の売買について説明し終わると、ジラーフさんが銀行員の人を呼んで、お金を用意してくれた。


 そして、わたしたちの目の前には大金が用意されている。


 前世の価値でいうなら、1億5000万円だ。


 目の前には、1枚で金貨100枚の価値がある聖金貨という硬貨が個別のケースに入れられて150枚並んでいる。


 ごくり……

 喉が鳴りそうになるが、心の中でにとどめる。


「ごくり……なのです……」


 隣のうさ耳ちゃんは声に出していた。


 ジラーフさんとキャンベルさんが笑っている。

 ちょっと恥ずかしかったけど、アウルムちゃんにお願いして、聖金貨の数を数えてもらった。


「フランお姉さん!ちゃんと150枚あったのです!」


「ありがとね。そのお金はアウルムちゃんの宝箱にしまって置いてもらえる?」


「はいなのです!」


 言うと同時に、アウルムちゃんが宝箱を召喚に、そこに聖金貨を収納していく。そして、収納が終わったら、ポンっ!と音を立てて宝箱を消し去った。


「おお……これが収納魔法ってやつか……はじめてみた……」


 キャンベルさんたちは、アウルムちゃんのことを興味深そうに見ていた。やはり、この世界ではあまり魔法は浸透してないみたいだ。魔法陣とか魔道具は普及しているのに、不思議な感じだ。


「それじゃあ!現金の確認も済んだし!契約成立ってことでいいかい!」


 キャンベルさんが契約書を前に出し、元気に言う。


「はい、大丈夫です」


「じゃあ!ここにサインしてくれたら契約成立だからよ!」


 キャンベルさんから渡された契約書を確認する。購入したときと、同じものだ。現在の土地所有者はわたしの名前になっている。


 あのときは、金貨5枚でこの土地を購入した。


 今、金貨15000枚で、同じ土地を売ろうとしている。役所に売ったのも合わせると、16500枚だ。


 なんて……なんて世界なんだ……不動産投資……こわい……


「フラン殿?」


 わたしがなかなかサインしないので、ジラーフさんに心配そうな顔をさせてしまう。


「いえ、大丈夫です。緊張してるだけなので……」


 わたしはそう答えてから、契約書にサインした。


 契約書の魔法陣が緑に輝き、所有権がフラン・ペソからフィラッフ・ジラーフに書き変わる。


「これで契約は完了だ!仲介手数料はジラーフの旦那からフランちゃんの分ももらってるからな!ありがとな!」


「こちらこそ、でも、本当にそこまでサービスしてもらっていいんでしょうか?」


 わたしは立ち上がり、ジラーフさんと握手しながら質問した。


「もちろんです。そもそも、相場よりもお安く譲っていただいているのです。手数料くらいは出させてください」


 まぁ、相場で言えば、あの土地は1億8000万ほどでも売れたはずだ。それをジラーフ商会だから、という理由で安くしていたので、ここはお言葉に甘えようと思う。


「わかりました。ありがとうございます。それじゃあ、素敵なお店が出来るのを楽しみにしてますね」


「ええ、お任せください」


 そしてわたしたちは、銀行を後にした。


「ふぅ〜……緊張したのです……」


「ホントねぇ……」


「フランお姉さんも緊張したのです?そうは見えなかったのです」


「そんなことないわよ〜。すっごく緊張した。あんな大金見たことなかったしね」


「アウルムもなのです!すっごいのです!お金持ちなのです!」


 アウルムちゃんは、うさ耳をぴょこぴょこ動かしながら、目をキラキラさせて、わたしに訴えかけてきた。


「あはは、そうね。うん、わたしたちはお金持ち……お金持ち……ということで!今日はちょっと贅沢しちゃいましょ!」


「贅沢?なのです?」


「そう!高級レストランで!最高級のお肉!シードラゴンのステーキを食べるのよ!」


「はわわ……そんな贅沢……ダメなのです!」


「うふふ♪そう言いながら、よだれ垂らしてるじゃない?」


「あっ!これは違うのです!」


 アウルムちゃんがよだれをふきふきしながら恥ずかしそうにする。


「いいのよ!実はもう予約してあるの!毎日はダメだけど、儲けた日くらい贅沢しちゃいましょ!今日だけ!今日だけよ!」


「きょ……今日だけ……それなら……」


 わたしは、無垢なアウルムちゃんに、OLあるあるの〈自分へのご褒美〉を教育してしまった。


 うん、よくない、よくないわ、フラン。いたいけな幼女にそんなこと教えては。


 でも!わたしが我慢できないから教えちゃうわ!


「それじゃ行くわよ!アウルムちゃん!」


「あ!待ってなのですー!フランおねーさーん!」


 そしてわたしは駆け出した。高級レストランへ向けて。

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