第20話 インフラの発展と悪臭問題の解決
ゴブリンさんたちの通訳として働いているうちに、月日はあっという間に過ぎていく。
わたしとアウルムちゃんは、毎月のお給料で生活基盤が安定したので、硬いベッドの宿から普通のベッドの宿に移り、毎日美味しいご飯を食べることができていた。
もふもふ幼女と過ごす日々は幸せで、町の発展に関わることもでき、お金にも余裕がある。
そんな幸せな日々を過ごしていると、ついに東側の土地のインフラが整った。
ここまで、約半年間だ。
♢
「すっかり綺麗になったわね〜」
「もう臭くないのです!」
わたしは、アウルムちゃんと一緒にゴブリンさんたちの土地、マーレルの東側にきていた。
橋を渡った先は、半年前に荒野だった土地とは思えないほどに発展していた。橋から長い石畳の道路が伸び、さらに左右に細い道が何本も枝分かれしている。
その小道の先には、木製の民家がいくつも建っていて、町には清潔な服を着たゴブリンさんたちが歩いていた。
わたしが役所に売った土地に建てた公共トイレとシャワー施設は、今も無料解放されているが、各家庭に備えつけられた設備があるため、利用者はだいぶ減ったようだ。
ゴブリンさんたちが地上で生活するようになったことで、元々の住処であった洞窟は、埋め立てられた。これにより、悪臭問題はほとんど改善、ゴブリンさんたちの衛生観念もこのころには定着しはじめていたので、彼ら自身の体臭もほとんどなくなっていた。
なので、今の町には――
「あら、フランちゃん、こんにちは」
「あ、キャンベルさんの奥さん、こんにちは。お仕事ですか?」
「ええ、ゴブリンさんに、建物をもっと大きくするにはいくらかかるか?って聞かれたの。だから、大工さんたちと打合せに来てたのよ」
キャンベルさんの奥さんの後ろには、親方っぽいハム耳のおじさんが2人、連れ添っていた。
少し話してから、3人に手を振って見送る。
とまぁ、こんな感じで、普通にマスクもせずにマーレルの人たちが出入りしているのだ。
半年前には考えられなかった光景だ。
そうそう、奥さんは、打合せに来た、と言っていたが、その打合せにわたしは同行していない。つまり、わたしの通訳なしで打合せを行ったことになる。
マーレル側、ゴブリン側の双方に言語教育を施し、それぞれに通訳できる人物を育成した成果であった。
だから、わたしがいなくても、ある程度のコミュニケーションは取れるようになっていた。
当初、通訳としての特権を独占するか悩んだりもしたが、ずっとこの町に居続けるつもりもないので、わたしが去った後のことを考えて、教えることにした。
役所に給料ももらってるし、しっかりと業務として指導させてもらったのだ。
「フランお姉さん!」
「んー?なぁに?」
「これでお金持ちになれるのですか?」
「んー、んふふ、そうねぇ、たぶんそうなれるわね……んふふ……」
わたしはいやらしい笑みを浮かべていると思う。でも、ニヤニヤが止まらない。
「すごいのです!やっぱりフランお姉さんは賢くて綺麗なのです!」
アウルムちゃんは、そんな、いやらしいわたしを褒めてくれる。なんていい子なのかしら…
いやいや、そうじゃなくて、アウルムちゃんが言うお金持ちになれるの?という件だが、わたしには、マーレルの東側の橋を渡ったすぐそばに900坪の土地がある。
橋の向こう側の土地の坪単価は金貨20枚だ、つまり、悪臭問題が解決された今、わたしの900坪の土地は、900坪×20枚=金貨18000枚のポテンシャルを持っていることになる。
日本円にして、1億8000万だ。
もし、この値段で売れれば億万長者である。
そして、今日、わたしのこの土地に、購入希望者が見学にくることになっていた。わたしたちは、今、その人が来るのを待っているのだ。
「おーい!フランちゃーん!」
橋の中腹から、わたしを呼ぶ声が聞こえたので、そちらを見る。
ケープ不動産のキャンベルさんがニコニコしながら手を振っていた。
隣には、すごく背が高い男性、耳と角の模様からしてキリンさんの亜人だろうか。上品なスーツに身を包み、しかし、どこかお金持ちを匂わせる雰囲気だった。たぶん、ところどころにつけている装飾品が高そうに見えるからだろう。そのキリンさんの後ろには、同じ種族の付き人が2人、付き従っていた。お手伝いさんか、従業員、部下、といった雰囲気だ。
キャンベルさんを含めた4人がわたしの土地の前に到着する。
「こんにちは。はじめまして、フラン・ペソです」
「あなたが……お噂は、かねがね伺っております。ジラーフ商会代表のフィラッフ・ジラーフと申します」
キリンの亜人、ジラーフさんが頭を下げると、後ろの2人も頭を下げてくれた。上品な振る舞いだ。
わたしとアウルムちゃんも真似して頭を下げる。
「ご丁寧にありがとうございます。ジラーフさん、今日は土地の見学に来ていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。当商会にお声がけいただき、ありがとうございます。他にも購入希望者がいたと聞いていますが、よろしかったのでしょうか?」
「ええ、ジラーフさんの商売が、ゴブリンさんたちにとっても有益かと思いましたので」
というのも、わたしのこの土地は、悪臭問題が解決に向かい始めた途端、引く手数多で買い手がついたのだ。
でも、ずっと断ってきた。
なぜなら、もっと値上がりするとわかっていたし、どんな商売をする人かわからない人には売りたくなかったからだ。
極端な話、風俗街なんかにされたらたまったもんじゃない。わたしには、この土地をゴブリンさんたちの不利益にならないように活用する責任がある。
「確認ですが、ジラーフさんがこの土地を購入された場合、衣服や日用品などを扱うデパートにするんですよね?」
「ええ、そのつもりです。当商会は以前よりマーレルにも店舗を持ちたいと思っていたのですが、なかなかまとまった土地がなくてですね。北側の土地の発展を待っていたのですが、港から近いこちらの方がなにかと都合が良いのです。ですから、この土地を紹介されたときには、とても嬉しく思いました。それにしても…」
ジラーフさんがキョロキョロして、クンクンと鼻を鳴らした。
「本当に、綺麗になりましたね……」
「ええ、マーレルの皆さんとゴブリンさんたちが協力してくれたおかげです」
「これはまた、ご謙遜を。私の耳には、フラン殿のご尽力が不可欠だったと届いておりますよ?」
「いえいえ、そんなことありませんよ。まぁ、とにかく、土地の方をご覧ください。広さは900坪あります。資料はありますか?」
「ああ!ジラーフの旦那にはうちから資料を渡してある!」
「ありがとうございます。それでは、どうぞご自由にご覧ください」
「それでは失礼して」
ジラーフさんは、後ろの2人に声をかけてから、図面らしきものを持って土地に踏み入れた。
どんな建物を建てるのか、本当に収益性のある土地なのか話し合うのだろう。
「……ありがとうございます。ジラーフさんを紹介してくれて」
わたしは隣のキャンベルさんに話しかける。
「いいさいいさ。フランちゃんが変な人には売りたくないって言ったときにはちょいと頭を悩ませたが、俺としても変な店が地元にできるのは嫌だからよ。頭を悩ませて正解だったと思ってる」
「あはは、キャンベルさんがいい人で良かった。でも、わたしはちゃんと儲けちゃいますよ?」
「ははは!儲けちまえ儲けちまえ!ちょーっとだけ悔しい思いもあるけどよ。でも、これはフランちゃんだからできたことだ。胸張ってけ!そのちっこい胸をよ!」
「……はぁ?」
「フランお姉さんのおっぱいは大きいのです!」
「ははは!」
このハム耳……ギルティ……儲けすぎて、ちょっと申し訳ないと思っていた罪悪感がどっかに吹き飛んでいった。
女性の身体のことを口にするなんてサイテーよ!ハム耳だからって許さないんだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます