第19話 転生したらオシャレもしたい
後日、わたしが役所に土地を売って大金を受け取ると、すぐにトイレと浴場の工事が始まった。
その時点で、東側の土地の道路はだいぶ整理されてきていて、マーレルの町中と同じ石畳の道路が数百メートル伸びていた。端から真っ直ぐに道路ができてきているので、これから左右に枝分かれしていくと思う。
それに、建物の建築も始まっている。今はまだ、大工さんたちも可愛いマスクをつけて作業しているが、トイレと風呂ができて、建物も完成すれば、この臭いもなくなることだろう。
次に、町の北側の様子を見に来た。鬱蒼としている森林エリアで、今まさに町を広げようとしている区画だ。
森の中に入ると、ギギさんが主導で何人ものゴブリンさんたちが木こりをしていて、切り倒した大木をひとりのゴブリンさんが持ち上げて運んでいった。
ゴブリンが怪力だというのは本当だったようだ。人間10人分くらいの力がありそうだった。
それと、彼らの姿には、目に見える変化があった。ゴブリンさんたちの服装がボロボロの短パンではなく、ちゃんとしたズボンとTシャツになっているのだ。
これは、マーレルからリサイクル品でよければと進呈されたもので、試しに着てもらったところ好評だったようだ。
マーレル側の思惑としては、悪臭問題の解決策の一つなのだが、素直に受け入れてもらえてよかった限りである。
あ、それに、ゴブリンさんたちが困っていた薬と食糧問題については、すでに解決済みだった。
これらは、トッポさんの好意もあって、先払いのような形で支給されたのだ。
ただし、薬と食糧はあくまでツケということで、ギギさんたちは一生懸命、木こり作業に勤しんでいる。
うん、win-winな関係になりつつあって、すごく嬉しい。
こんな感じで、わたしは、毎日変わる町の景色を楽しみにしながら、通訳としての仕事を続けた。
そうそう、通訳としてのお給料は、月に金貨20枚ということになった。役所の新入社員の給料と同じ金額だ。トッポさんは、もっと出すと言ってくれたが断った。
役所に土地を売って、大金を手に入れた手前もあって申し訳なかったというのもあるし、ゲバ爺の力で荒稼ぎするのも気が引けたからだ。
♢
「フランお姉さん!アウルム!大切なことを思い出したのです!」
「え?なになに?」
通訳の仕事を終えて、初めてお給料を受け取った日、アウルムちゃんがあわあわと騒ぎ出した。
「アウルムがフランお姉さんの服を選ぶって約束!まだできてないのです!」
「あぁ~、たしかにそんな約束したわね」
いつか、アウルムちゃんの罪悪感を薄めるために約束したことだと思い出す。
「すぐに!すぐにアウルムが選んであげるのです!すっごく可愛くしてあげるのです!」
「あはは……すっごく可愛く……ふ、普通でいいのよ?」
「ダメなのです!フランお姉さんは綺麗なのですから!オシャレしないと!」
「あはは……じゃ、じゃあ、明日は休日だし、明日一緒に服屋に来てくれる?」
「もちろんなのです!任せるのです!」
♢
翌日、わたしたちは、お昼ご飯を食べてから、マーレルの大通りにやってきた。商店街とは別で、雑貨屋や服屋などが立ち並ぶ通りだ。港に近く、一等地なので、それなりに高そうな店が多い。
「アウルムがフランお姉さんを可愛くするのです!」
ふんす!
アウルムちゃんは朝からテンション高めだ。両手をグーにして、気合を入れている。
「お、お手柔らかに~……」
「まずはあのお店に行くのです!」
そして、アウルムちゃん主導で、わたしの服選びが始まった。わたしはもう、言われるがままに着せ替え人形にされる。
色んな服を着せられ、鏡の前に立たされる。どんな服を着ても、
「可愛いのです!」
「綺麗なのです!」
「似合ってるのです!」
と、褒めてくれるアウルムちゃん。最初は気まずかったけど、今のわたしの身体は、客観的に見ても美少女だ。鏡の前に立つ自分の姿とアウルムちゃんの賞賛のおかげで、わたしは大変気持ちよくさせていただいた。
ありがとうございます!ゲバ爺!可愛く転生させてくれて!
何度もそう思っているうちに、アウルムちゃんコーディネイトのわたしの服が完成する。
「完璧なのです!すっごく似合ってるし!可愛いのです」
「そ、そうかな?んふふ……」
「はいなのです!」
鏡の前で、自分の姿を確認する。
わたしは、それはもう可愛らしい魔女の姿に変身していた。大きな魔女帽子、そして、ゴスロリみ溢れるふりふりの白ブラウスに、ミニスカート、魔女と言えばという感じの黒マントを羽織っている。
魔女帽子には主張が激しい大きなリボン、それに合わせるように胸と腰の後ろにもリボンがついている。リボンの色はオレンジ色だ。
アウルムちゃんに「好きな色を教えてほしいのです!」と言われ、「オレンジかな?」と答えたら、服の随所に差し色としてちりばめてくれた。
足には白いニーソックスを装備され、靴はハイカットのブーツっぽいものを選んでくれた。
改めて見ても、黒髪ロングでパッツンのわたしにすごく似合ってる魔女衣装だと思う。
あえて自分で言おう。わたしはとっても可愛い魔女っ娘であると。
「可愛いのです!」
「あ、ありがと……んふふ……」
何十回目の賞賛の言葉にとっても気持ちよくなる。
アウルムちゃんという天使に服を選んでもらえたこともそうだけど、こんなに可愛い少女に転生することができて、すごく幸せだった。
ついさっきまで、クソださTシャツと短パンを履いていたわたしは、もうどこにもいない。これからは美少女として生きていこうと思う!
わたしは、謎のハイテンション状態になって、店を出た。
明日から、いや、今から、男性の注目を集めることになるなんて、考えもせずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます