第18話 お金持ちへの一歩
マーレルの役所を出たわたしたちは、その足で、ゴブリン村長のリィグさんに会いに行った。
そして、明日の正午に橋を渡ったあたりで、町長たちと話をしようと約束を取り付けることに成功した。
なので、もう一度役所に戻り、町長のトッポさんに報告する。報告を聞いたトッポさんは、それはもう大層よろこんでくれた。
こうして、翌日、ゴブリンたちとマーレルの町の人との、はじめての意思疎通が行われることとなった。
♢
翌日、橋を渡ったところに、折り畳みの机と椅子が並べられた。マーレル側が用意してくれたものだ。
わたしとアウルムちゃんは、机の真ん中に座ることになっていて、橋側の椅子に町長さん、案内係のオジサンの2人が座っている。2人とも花柄の可愛いマスクをつけていた。わたしとアウルムちゃんとお揃いだ。
わたしは昨日、町長の部屋を出るときに、「匂いが辛いなら、このマスクをつけてください」とアドバイスしたのだ。
男性がつけるには可愛すぎるデザインだが、嫌そうな顔をしているのをゴブリンさんたちが気にしていたと伝えたら、申し訳なさそうにしていた。
トッポさんは、「我慢しているつもりだった……」とのことだったが、できていなかったようだ、
しばらく待っていると、洞穴の中からゴブリンさんたちがやってくる。村長のリィグさんを警護するようにギギさんが寄り添っていて、遠巻きに10人以上のゴブリンたちが見守っていた。
わたしたちは、立ち上がって、彼らを出迎える。
2人が机の前についたら、椅子の上に立つ小柄なトッポさんが声を出した。
「こ!この度はお時間をいただきありがとうございます!改めまして!マーレルの町長!トッポでございます!」
わたしは、すぐにそれをリィグさんたちに通訳する。
「これはご丁寧に、タタラ村の村長、リィグと申します。何度もご足労いただいたのに、上手くお話できずすみませんでした」
リィグさんとギギさんが頭を下げる。
「っ!?よ!よよ、よろしくお願い致します!どうぞおかけください!」
通訳すると、2人が椅子に腰掛けた。
それを見て、トッポさんと案内係のオジサンはすごく驚いた顔をする。今まで、こんなにスムーズにコミュニケーションが取れたことはなかったようだ。
「トッポさんも座ってください」
わたしは、ぽそりと呟く。
「そ、そそ、そうですな!」
そして、トッポさんは着席した。トッポさん用の背の高い椅子に。
「では、まずなにから話しましょうか」
「そ!そうですな!まずはこれまでの非礼をお詫びしたい!話はそれからです!」
「わかりました」
わたしはニコリと微笑んでトッポさんの言葉を通訳する。
今まで失礼な態度を取ってしまい、すみませんでした。それに、上手くこちらの意図を伝えることができず、申し訳ありませんでした。そんな内容だ。
それを聞いて、リィグさんたちは笑顔を見せてくれた。
こちらこそでございます。その言葉をトッポさんに返すと、感動して少し涙ぐんでいたように見える。
これならきっと大丈夫、大丈夫だ。上手くいくだろう。
♢
それから、トッポさんとリィグさんは、町の発展について話し合った。一日では話しきれないので、数日かけて、ゆっくりと交渉を進めることになった。
東側のゴブリンさんたちの土地にインフラを整えて、家を建てるから、洞窟から出て、そこに住んで欲しいこと。
土地の権利は奪わないし、家は譲るけども、木こりや狩りの労働を手伝って欲しいという交渉をマーレル側から提示する。
最初、この提案に、ギギさんが反対した。洞窟暮らしが今まで普通だった、だからやめたくない、という意見だ。
まぁ、予想通りである。
なので後日、トッポさんたちと相談して、ふかふかのベッドと、照明器具をプレゼントしてみた。そしたら、多くの人が意見を変えたらしい、もちろんギギさんも。
それに、ゴブリンさんたちが困っている薬と食糧問題を解決するには、この話に乗るしかないと結論づけてくれたようだ。
この時点で、マーレル側とゴブリン側の要望はお互いに聞き入れられることになった。
ただ、問題なのは、ゴブリンさんたちの衛生観念だった。
人族は匂いに敏感だから、排泄はその辺でするのではなく、トイレでして欲しいと伝え、それに身体も毎日洗って欲しいと話をした。
これについては、嫌だ、というよりも不思議そうにされたのだが、それが原因で今まで交渉がうまくいかなかったし、町に入ると嫌がられるのだ、と伝えたらリィグさんは理解を示してくれた。
リィグさんは、族長として指導すると言ってくれたが、すぐに意識が変わるかはわからない。
そこで、衛生観念の指導完了を待たずに、公衆トイレと公衆浴場の設置を最優先で行うこととなった。
どこに設置するのか、この課題にマーレル側は頭を悩ますことになる。だって、東側にマーレルが所有する土地なんてないのだから。
♢
-マーレル 役所 町長の執務室-
「トッポさん、トイレとシャワー施設の設置場所なんですけど、建てる場所って決まりましたか?」
「いえ、昨日もみなで議論したのですが、結論が出ていない状況です。臭い問題が解決していない現時点では、橋のこちら側に建てるのは反対されてしまいました。
となると、橋の向こう側に建設したいのですが……あちらはゴブリンのみなさんの土地ですし、勝手に建てるわけにも……土地を購入するというのも交渉が大変そうですし……」
「そうですよね〜♪ちなみに、わたし、オススメの土地情報を持ってるのですが、紹介してもいいでしょうか♪」
ニッコリ。
「ほう?それはどこでしょう?」
トッポさんはわたしの笑顔を訝しみながら尋ねる。
「ここです♪」
わたしは土地の契約書を取り出し、裏に描かれた地図を見せた。
「たしかに、ここならば……理想的ですが……ここは彼らの土地では?」
想定通りのリアクションなので、わたしはそのまま、契約書を裏返して、表面を見せた。土地所有者の欄には、わたしの名前が記載されている。
「……なるほど……そういうことでしたか……恐れ入りました……」
「いえいえ♪それほどでも♪あ!ちゃんとリィグさんには許してもらってますよ♪なので、トラブルになることはないので安心してください♪わたしとしては、賃貸でも買取でもいいですよ♪」
トッポさんが予想通り過ぎるリアクションをしてくれて、わたしの顔には満面の笑みが張り付いていた。テンションが上がっていく。
「……そうですな……とりあえず、施設を建築する100坪分、買い取りたいと考えております。おいくらで、譲っていただけますか?」
「ん~、そこはトッポさんの采配に、お任せしちゃおうカナ♪」
「……これは……失礼な金額を提示したら、通訳をおりるとか言われそうだ……」
「イヤだなぁ~♪そんなことしませんよー♪あぁ、いくらになるかなー♪楽しみだな~♪」
「……役所というのは、そんなに儲かる仕事ではないと、ご理解いただけますかな?」
「もちろんです♪あーでも!この執務室ってなんだか豪華ですよね!役所なのに!ね!」
「……ぐぬ……相場では金貨2000枚ほどでしょうが……今は東の復興作業もあります……1500で勘弁していただけないでしょうか?」
「売った!!」
こうして、わたしはお金持ちへの一歩を踏み出した。
1000坪の土地のうち、100坪を切り売りして金貨1500枚を手に入れたのだ。
この土地に、わたしが投資したのは、金貨5枚、たったの5枚だ。
この取引で1500枚を手に入れたので、すでに300倍の資産増加、そしてまだ900坪残っている。
まだ発展すらしていない土地が将来性を見越してここまでの金額になるとは、不動産投資ってなんて恐ろしいのだろう……
そして、ニコニコ顔のわたしは、ケープ不動産を訪れる。「役所にこれだけの金額で売るから仲介よろしく!」と伝えたら、「今から飲みに行こう!」とキャンベルさんに詰め寄られた。
どうやって売ったのか気になるらしい。
まぁ、もうネタバラシしてもいいかと思い、居酒屋でジュースをひっかけながら教えてあげることにした。
わたしの話を聞いたキャンベルさんは、頭のハム耳みたいに目をまん丸にしてから大笑いをはじめた。
さっきから「すげぇすげぇ!」と酒を煽っている。ぶっ倒れたら、奥さんに報告してから帰ろう。酔っ払いの相手は面倒だ。でも、このお店の料理美味しいわね。
そんなことを考えながら、わたしとアウルムちゃんは居酒屋の料理を満足するまでほおばる。キャンベルさんのお財布で食べるご飯は、とってもおいしかった。
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