第17話 マーレルの町長の考え
-マーレル 役所 受付-
「こんにちは、ケープ不動産のキャンベルさんに紹介いただいた、」
「フラン様ですか?」
「あ、そうです」
町長を尋ねに、役所までやってきて、受付嬢に話しかけたら、食い気味に名前を言い当てられた。
来るのを心待ちにしていた、みたいな対応に、少し緊張を覚える。
「お待ちしておりました。係の元を呼びますので、しばしお待ちください」
受付のお姉さんは、耳の形からして、ネズミの亜人っぽく見える。
待っていると、スーツに身を包んだ、これまたネズミ系の亜人の男性がやってきた。こっちはオジサンだ。
「フラン様、町長がお待ちです。こちらへどうぞ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
わたしたちは、案内されるがままついていく。
役所はなかなかに大きい建物で、4階まで上がり、1番奥の部屋の前に案内された。
ここまで案内してくれた男性がドアをノックする。
コンコン。
「町長、フラン様をお連れしました」
「おお!どうぞお入りください!」
すごく明るい、期待した声色だ。
キャンベルさんの電話のせいで、だいぶ期待させてしまっている気がする。
「……」
わたしは緊張した面持ちで中に入ることにした。
ガチャリ。
観音開きの立派な扉が開けられると、そこには、これまた豪華な執務室が広がっていて、正面に大きい執務机が置いてあった。大統領でも座っていそうな机だ。
でも、そこに町長らしき人は見当たらない。
いや、
「ようこそいらっしゃいました!」
机の後ろから小さな男性が飛び出してきて、机の上に乗る。
「私がマーレルの町長!トッポ・マーレルです!」
町長を名乗ったその男性は、受付嬢、案内人に続き、ネズミの亜人だった。
蝶ネクタイにスーツ、シルクハットを被っているちっちゃいおじさんだ。アウルムちゃんよりも小さい。
「町長……机の上に立たないでください……」
案内係が呆れ顔で言う。
「しかしね!また椅子が壊れたんだよ!あ!フラン様!どうぞこちらへ!」
トッポさんが机からおりて、トコトコ歩いてきてソファの方に案内してくれる。
わたしとアウルムちゃんは、並んでソファに腰掛けた。
「飲み物はなににされますかな?ジュースもありますぞ!」
「アウルム、ジュースがいいのです!」
「あー、じゃあ、わたしは冷たいお茶でお願いします」
「頼む!」
「かしこまりました」
案内係が会釈してから部屋を出ていった。
すると、トッポさんが我慢できない、と言わんばかりに口を開いた。
「この度は!ゴブリンたちとの話し合いを進めてくださる逸材だと聞いておりますが!フラン様は彼らとコミュニケーションが取れるのですか!?」
トッポさんは、机に両手をつけて前のめりだった。
「ま、まぁ……そうですね……」
勢いが凄まじくて、なんだか気後れする。
「それはすごい!私は2年間何も成果を出せておらず!藁にもすがる思いだったのです!あ!フラン様のことを藁だなんて思ってないですよ!例えです!例え!」
「ああ、いえ、大丈夫です。突然やってきて、本当に解決できるかなんてわかりませんしね。なので、少し落ち着きましょう」
わたしは、どーどーと、両手を出して落ち着くようにジェスチャーする。
「そ、そうですな……これは、失礼しました」
コンコン。
トッポさんが一旦おちついたところで、案内係の人がオレンジジュースと冷たいお茶を持ってきてくれた。
トッポさんには、温かいコーヒーらしきものを渡している。
「そ、それで……本日ここにお越しになった目的をお聞きしても?ごくり……」
トッポさんは、落ち着いたかに見えて、やっぱり、すごく期待した顔をしていた。
引っ張るのもおかしいので、さっさと話すことにする。
「実はわたし、ゴブリン語を話せるので、もしよければ彼らとの交渉の仲介をさせていただきたく、こちらに伺いました」
「……」
「あれ?町長さん?」
「おぉ……おぉ……おおおおぉ!!!」
「キュ!?」
町長の大声にアウルムちゃんが怯える。
うん、気持ちはわかる。わたしも若干こわい。
「本当なのですか!?ゴブリン語を話せるというのは!」
「え、ええ……昨日、ゴブリンさんたちの村長さんともお話ししてきました……問題なく、コミュニケーションが取れます」
「そんな!そんなことが!!キャンベル殿が言ってたのは本当だった!まさに救世主ですぞ!!」
「いやー……あはは……それほどでも?」
ゲバ爺の力なので、なんとも言えない気分だ。
「で、確認なんですが、町長さんはゴブリンさんたちとどんな交渉をしたいんでしょう?」
想像はしているが、念のため確認する。
「それはですな!町を東側に広げたいのと!ゴブリンの皆さんも町の一員になってもらいたいのです!」
「……もっと言えば、労働力が欲しい?」
「おぉ……なるほど……さすが救世主殿……その通りです……」
「あはは……救世主はやめてください。様付けもちょっと……わたしのことは普通にフランでいいです。わたしもトッポさんでいいですか?」
「もちろんです!承知しました、では、フラン殿とお呼びします。フラン殿の言うとおり、ゴブリンの皆さんには、狩りや木こりとしての労働を期待しています。彼らは私どもよりも力が強いので」
「へー、そうなんですね。じゃあ、その辺はゴブリンさんたちと話し合って交渉しましょうか」
「お願いできますかな!?」
「もちろんです。あ、でもですね……ひとつご相談が……」
「はい、なんでしょうか?」
「不躾なお願いなのですが……通訳をするにあたって、わたしとこの子が食べていけるだけのお給料なんかを……その……いただけたらと……」
通訳ができるとわかったときに思いついたアイデアだった。棚ぼた的な儲け方だが、許されるだろうか?
「もちろんでございます!そんな!ちゃんとした通訳としての特別手当をご用意する想定でございました!」
「ああいえ!普通の!普通の給料でいいので!」
「そんなそんな!」
「いえいえ!」
「と、とりあえず、お給料については後日決めましょうか……」
引かないわたしを見て、トッポさんから引いてくれた。それよりも話したいことがあるからだろう。
「そうですね。お給料については後日。
確認なのですが、ゴブリンさんたちを追い出したりとか、嫌がるようなことはしないですよね?あくまで交渉ということでよろしいですか?」
「はい、それはもちろんです。元々あのあたりは、彼らが住んでいた土地です。そこから追い出そうなんてとんでもない」
「良かった、町長さんがいい人で。では、ゴブリンさんの村長さんと話をしてきますので、橋の向こうで話し合いの場を設けましょうか?」
「ぜひとも!お願い致します!」
「わかりました。あ、それとですね、話し合うにあたって――」
わたしは最後に一言付け加えて、その場を後にした。
ちょっとしたアドバイスだ。交渉をスムーズに行うための一工夫である。
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