第16話 土地の契約
「町長に会いたい?」
「はい、キャンベルさんから口添えしてもらえませんか?」
翌日、わたしたちは、再びケープ不動産を訪れていた。
「んー?どうだろうね?忙しいんじゃないかな?そもそも俺、町長とそんな仲良いってわけじゃないし」
「でも、よそ者のわたしがいきなり訪ねるのよりはいいですよね?」
「まぁ、たしかにね?」
「あ、それと、昨日紹介していただいた土地ですが、買おうと思ってます」
「おお!マジかい!」
難しそうにしていた顔を輝かせだすキャンベルさん。わたしの話に興味が出てきたらしい。
「はい」
「てことは……なにか秘策があるから町長に会いに行くってことか……」
キャンベルさんは興味深そうにわたしのことを観察する。
どうにかして、その秘策を知りたいのかもしれない。
それを知れば、自分たちであの土地の価値を倍増させられるかも、という考えなのだろうか。
「えっとですね、秘策はあるんですが、たぶん知っても真似はできないと思いますよ?」
「お?おお、いや!そういうつもりじゃなかったんだ!男に二言はない!金貨5枚で売るよ!もしフランちゃんが悪臭問題を解決して、土地値が何十倍になったって文句なんて言わないさ!」
「それは良かったです。妬み恨みは怖いですからねー」
「だよな。気持ちはわかるよ。ほら、不動産屋ってさ……結構儲かるから……」
キャンベルさんがヒソヒソ声で笑いかけてくる。
「そうですよね〜」
わたしも笑顔を返しておいた。
しかし、内心はこうだ。
なんだあなたも金持ちなのね。ハムハムしててかわいいお耳だからって勘違いしてたわ、ギルティ。
「あ、そうだ。土地を買うにあたって。確認があるんですがいいですか?」
「なんだい?」
「あそこの土地を買ったあとの維持費って、年間どれくらいなんでしょう?」
「維持費?建物が建ってないのに?そんなものかからないよ」
キャンベルさんは不思議そうに首を傾げる。
あれ、固定資産税とかかからないのかな?
不動産って、毎年税金とられると思うんだけど、そういう文化はないのだろうか。
「えーっと、建物が建った場合は維持費がかかるんですか?」
「そりゃあ、数年に一度は塗装とか、雨漏りしたら修理とかはかかるよね?」
やはり、不思議そうな顔だ。ふむ、税金はないらしい。つまり、購入後のリスクはほぼないと思ってよさそうだ。
「んー、でしたら、あの土地、今買います」
「マジかい!フランちゃん、ホントにすげぇ根性してるね!」
「……ねぇ、本当にいいの?やめといた方がいいわよ、あんな土地、お金がもったいない」
さっきまで黙って聞いていた奥さんが話に割ってはいってくる。
「いえ、大丈夫ですよ。だってわたしには秘策がありますから。あの土地を化けさせてみせます」
「でもー、私、心配だわ……」
「面白い!やっぱフランちゃんは面白いよ!その秘策ってのにも興味ある!茶々いれないで見学しようぜ!」
「あなた〜、見学なんて……趣味が悪いわよー」
「大丈夫です。数ヶ月後に100倍で売りにくるので、そのときは仲介お願いします♪」
「自信満々じゃないか!ほら!いいから契約書持ってきてくれ!」
「んー……ねぇ、あなた、契約書代、サービスしてあげなさいよ」
「え?……えー……」
「大丈夫!大丈夫ですから奥さん!ホントに!」
雲行きが怪しくなりそうだったので、全力で止めに入る。
夫婦喧嘩がはじまって破断になるとかごめんだ。
「フランちゃんがいいなら……でも、なにかあったら相談してね?色つけて買い戻させるからね?」
奥さんは以前として心配顔だった。キャンベルさんは面白くない顔をしている。
「あはは……ありがとうございます……でもですね、投資っていうのはリスクを背負うまでが投資なんです。だから、ここからは、わたしの責任で頑張ります」
「すごい!この若さでそこまでわかってるなんて!いや!むしろ、契約後にあれこれ文句言ってくる投資家気取りのやつより全然立派だよ!
ほら!契約書!はやくはやく!」
「はいはい……わかったわよ……」
テンションがあがるキャンベルさんと、対照的な奥さん。
だけど、なんとか、契約を結ぶ方向で話はまとまった。
「じゃあ、あとはココにフランちゃんの名前を書けばいいから」
キャンベルさんが契約書に色々書いてから、わたしに渡してくる。
土地の住所は裏面に地図で示されていて、表面には売買金額1万、現在の所有者、キャンベル・ケープとの記載がある。
そしてその下に、売主、キャンベル・ケープ、さらに下に買主、の欄が空白で残されていた。
この空白に名前を書くだけでいいらしい。
ココに名前を書くと、契約書に描かれている魔法陣によって所有権が移転するとのことだ。
役者に届けたりしないで便利だが、手軽すぎてなんだか心配だった。
「この契約って、契約書無くしたらどうなるんですか?」
「ん?そんときは、再発行手続きするよ?」
「でも、誰が所有者かってどうやって記録されてるんですか?」
「へ?それは魔法契約だから……神様が記録してるんじゃない?」
そんなこと疑問にも思ったことがない、みたいな顔をされた。
ふーむ?じゃあ契約書を盗まれてココは俺の土地だと言い張られても、魔法契約が結ばれてないとすぐバレるってことか。
魔法、便利ね。
「アウルムのお友達契約に似てるのです」
「そうなの?」
「はいなのです!解剖したらアウルムにも使えそうなのです!」
ほほう?それはまた今度試してみようかしら。
「あ、こちら金貨5枚です。お納めください」
わたしはポケットから金貨を取り出し、キャンベルさんに渡す。
「たしかに」
そしてわたしは契約書に名前を書いた。
フラン・ペソ、と。
すると、契約書に大きく描かれていた魔法陣が緑色に光り、現在の所有者のところがわたしの名前に書きかわる。
「これで、あの土地はフランちゃんのものだ」
「ありがとうございます」
「心配だわー……」
「まぁまぁ奥さん、大丈夫ですから。で、キャンベルさん」
「おう!町長のことだよな!待ってな!すぐに手紙出すからよ!」
「お願いします」
キャンベルさんが席を立ち、代わりに奥さんが座って、「本当に大丈夫なの?」と聞いてきた。
「あはは……」と適当に誤魔化していると、すぐにキャンベルさんが戻ってくる。
「今ふくろう便で手紙送ったからよ!数分で届くだろ!町長が興味持つようにフランちゃんのことたっぷり宣伝しておいたぜ!」
「ええ?なんて書いたんですか?」
「ゴブリン問題を片付ける救世主あらわる!ってな!」
おいおい……それはハードルあげすぎなのでわ……
「あはは……それじゃあ、早速行ってきます。役所の場所を教えてもらってもいいですか?」
「おう!えっとだな、ここだな。で、今いるのがココ」
言いながら、テーブル一面に広がる町の地図を指差しながら教えてくれた。
役所は町の中心の方にあるらしい。大通りに面してるので迷子になることはなさそうだ。
「役所には、近くに看板が出てるからよ!
建物に入ってすぐの受付に、ケープ不動産のキャンベルから紹介してもらったフランです、って言えば通してもらえるから!」
「ありがとうございます。なにからなにまで」
「いやいや!若き投資家フラン・ペソに期待してるからな!若者は応援してやらないと!ははは!」
「あはは……それじゃあ、また来ることもあると思いますので、そのときはよろしくお願いします」
「おう!またな!いつでも遊びに来てくれよ!」
「はい、ありがとうございます、それでは」
「ありがとなのです!」
こうしてわたしは土地の購入を済ませ、次の目的地へと向かうのであった。
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