第11話 不動産投資の下見

「むにゃむにゃ……なのですぅ……」


「んふ……んふふ……」


 翌朝、わたしはニンジンのぬいぐるみを抱きしめているうさ耳幼女を抱き枕にして目が覚めた。


 アウルムちゃんがごそごそ動くたびに、うさ耳が顎のあたりをいったりきたりしてとても気持ちがいい。もっふもふで幸せだ。


「うー……あれ?ここ、どこなのです?」


 目覚めたようだ、わたしの天使が。


「おはよう、アウルムちゃん」


「あ、おはようなのです、フランお姉さん」


 クルリと寝返りを打って挨拶を返してくれる。


「よく眠れた?」


「はいなのです。やっぱりベッドは幸せなのです」


 守りたいこの笑顔。


「それは良かったわ、わたしもぐっすりだった。今日は、町の中を見て回ろうと思うんだけど、ついてきてくれる?」


「もちろんなのです!」


「じゃあ、朝ごはん食べてから行きましょうか」


「あ……アウルム、お金が……」


「そんなのお姉さんが出すから大丈夫!」


「で、でも……」


「お礼にもふ!……撫でさせてくれればいいから!」


「ホントにそんなのでいいのですか?」


「うん!わたしはそれですっごく幸せになれるから!」


「わかったのです!ご馳走様なのです!」


「むしろこちらこそ!」

 ご馳走です!

 わたしは、そんなことを頭の中で叫んでから身支度を始めた。



 そして、アウルムちゃんの着替えを手伝ってから軽食を食べに行く。


 サンドイッチを買って公園のベンチで2人して食べ、町の中の散策をはじめた。


「それで、どこに行くのですか?」


「えっと、お家か土地を見ようと思って」


「お家買うのですか!?やっぱりお金持ちなのです!」


「あははー……今は違うけどね。お金持ちになるための下見というかなんというか」


 そう、わたしがお金稼ぎとして考えたのは、不動産投資だ。


 前世の銀行員としての仕事で散々関わった投資方法だから知識だけはある。


 不動産投資。

 簡単に言えば、安い家か土地を買って、人に貸す、もしくは買った時より高く売る。

 このどちらかで収入を得ることができる。


 ちなみに、賃貸で稼ぐことをインカムゲイン、売買で稼ぐことをキャピタルゲインというが、まぁそんな専門用語はどうでもいい。


 とにかく、相場より安い物件を見つけれるかどうかが一番のポイントだ。


 なので、とりあえず、町中を見て回ることにする。


 ところどころに、売地の看板は立ってるのを見つけることはできた。どの看板も同じデザインで、〈お問合せはケープ不動産まで〉と書いてある。


 ふむふむ、このマーレルという町の不動産屋はここしかないのだろうか。


「お家には看板出てないのです」


「そうねぇ。家に看板立てると、空家だってバレて、泥棒とかに入られるからかもね」


「なるほどなのです!フランお姉さんは賢いのです!」


「あはは、ありがと」


「じゃあ、お家を買うにはどうすればいいのです?」


「この看板のケープ不動産っていうお店にいけば、案内してくれるかも」


 わたしは、看板を指差しながら教えてあげる。


「ならすぐ行くのです!」


「ああ!ちょっと待って!」


 走り出そうとするアウルムちゃんを呼び止める。


「もうちょっと町はずれとかも見てみたいから」


「わかったのです!」


 そしてわたしたちは、町の外周付近を重点的に周り出した。



 わたしたちが泊まっている宿は、マーレルの西門の近くで、行商人の出入りが多い場所だ。

 町を出ると草原が広がっているので、あのあたりの土地を買えれば需要はあるのではないかと考えていた。


 そんな土地が他にもないかチェックするため、町の外周を見て回る。


 町の南側は一面海なのでチェックせず、まずは、北の町外れに行く。


「森ね」


「森なのです」


 北の町外れは森になっていて鬱蒼としていた。開拓が進んでいるようで、少しずつ道を広げているのがわかる。


「んー……これから発展する予定なら、もう土地値はあがってそうね……」


「そうなのです?アウルムにはよくわからないのです」


「とりあえず、東側も見てみましょうか」


「はいなのです!」


 元気いっぱいなアウルムちゃんと手を繋いでニコニコしながら町の東に向かった。 

 ちっちゃいお手手も愛らしいわ。



 町の東側には、大きな川が流れていて、馬車がすれ違えるくらいの立派な橋が建っていた。

 その先は、荒野だ。

 いや、なんだか、ところどころに丘みたいに膨れ上がっている場所がある。大きなモグラでも住んでいるのだろうか?


 いやそれよりも……なんであっち側は発展していない?不思議だ。こんなに港から近いのに……


 わたしは気になって橋を渡ろうとする。すると、


「ちょっと!あんた!そこのお嬢ちゃんたち!」


「へ?あ、わたしたちですか?」


 振り返ると、お年を召したフェネックの亜人の人が声をかけてきたところだった。


「そうよ!その橋は渡っちゃだめ!」


「え?なんでですか?」


「そっちはゴブリンの家があるから!その……病気になるかもしれないわよ……」


 ちょっと声のボリュームを抑えて、近づいてきてひそひそと話す。


「ゴブリン?」


「そう、あの人たちは衛生観念がちょっとね……だから、近づいちゃだめ……」


「でも、だったら、この橋は、なんのためにあるんです?見るからに新しいですけど……」


 橋を指さして質問する。渡っちゃダメな橋をかけたのはなんでなのか。


「今の町長が建てたのよ。ゴブリンと交流しようとか言ってね。でも、言葉が通じないし、上手くいってなくって。

 ホント、わたしたちの税金をなんだと思ってるのかしら。はぁ、やだやだ。とにかく!ここは渡ったらダメだからね!」


「あぁ……はい、アドバイスありがとうございました」


 わたしはペコリと頭を下げて、老婆がいなくなるのを待つ。


「どうするのです?」


「百聞は一見にしかずよ!いくわよ!」


「わかりました!なのです!」


 ということで、わたしたちはアドバイスを無視して橋の向こう側に突撃した。


 ビジネスチャンスは人が敬遠するところにこそ転がっているのだ!

 ビジネスしたことないから知らんけど!



「うー……臭いのです……」


「ホントね……」


 大きな川を渡り切って、荒野に降り立つと、顔を背けたくなるような悪臭がおそってきた。


 キョロキョロしていると、丘のようになっているところから、緑色の肌の人たちが出入りしているのが見える。


 ボロボロの服を着ていて、男性は短パンだけ履いている。女性も最低限のワンピースみたいなボロい服だった。


 あれがゴブリンか。見た目は、肌の色だけ違う人間って感じだけど。


 その人たちはわたしたちを見たらビクッとして、穴の中に逃げていった。

 地下で暮らしているのかな?わたしがもぐらの巣だと思っていた地面の膨らみは、ゴブリンさんたちのお家だったようだ。


 それにしても、この臭いはなんだろう?下水が整備されていないから?


 さっきのフェネック婆さんが、ゴブリンは衛生観念がなってない、みたいなことを言ってたけど、この臭いのことを言っていたのかと納得する。


「臭いのです……まだ見て回るのですか?」


 アウルムちゃんが鼻と口を押さえて嫌そうにする。


「んー、一旦戻ろうかな」


「それがいいのです!」


 幼女に苦行を強いるのは、はばかられるので一旦引き返すことにした。


 でも、あれだけの土地が余っているなら、ビジネスチャンスはあるかもしれない、とわたしは橋を渡りながら考えていた。


 でも、そのためにはゴブリンたちを、この悪臭問題を、どうにかしないといけない。

 どうするべきか……んー……


「とりあえず、ケープ不動産に行ってみましょうか」


「ごーごー!なのです!」


 橋を渡りきったら悪臭もなくなり、元気を取り戻したアウルムちゃん。


 わたしは、アウルムちゃんを従えて、不動産屋に向かうことにした。

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