第12話 異世界の不動産屋

 わたしとアウルムちゃんは、町の人に聞いてケープ不動産という不動産屋にやってきた。


 ケープ不動産は、緑色の外壁に、緑の三角屋根でこじんまりした建物だった。建物の横には、大きく〈ケープ不動産、家、土地、不動産のことならなんでも!〉という看板が立っている。


「とりあえず入ってみよっか」


「はいなのです!」


 カランコロン。


「いらっしゃいませ〜、あら可愛いお客さんね。こんにちは」


「こんにちは〜」


 若い奥さんが声をかけてくれる。

 ハムスターの亜人だろうか。まん丸なお耳が可愛かった。


「今日はどんなご用かしら?お部屋探し?」


「いえ、売買の方に興味があって」


「あらそうなの?人族の方よね?随分若く見えるけど……」


「えっと、不動産買うのって、10代だとダメだったりします?」


 懸念してたことを聞く、前世では、成人してないと不動産の取引はできなかったはずだ。


「いいえ、そんなことはないけど。珍しいことだったから、あなた〜」


「へーい」


 奥さんに呼ばれて姿を現したのは、これまたハムスターの亜人の男性だった。

 あなた、と呼ばれたので旦那さんなのだろう。こちらも若い、たぶん20代だろう。


「こんにちは〜」


「お〜、随分若いお客さんだね」


「不動産を買いたいんですって」


「へー、こりゃまた珍しい。あ、とりあえずかけてかけて」


「ありがとうございます」


 わたしとアウルムちゃんは、案内されたテーブルにつき、旦那さんが正面に座る。


 奥さんが冷たいお茶を出してくれた。


「それで?どんな不動産を買いたいんだい?用途は?自分たちが住む用だよな?」


「えっとですね、いわゆる投資用というか、なんというか」


「……へー!こんな若い投資家さん見たことないよ!面白い!」


 なんだか好感触のようだ。17歳の少女が投資用に物件を探している、それだけで、興味を持ってもらえたらしい。


「投資用ってことは、賃貸かい?」


「それも考えてるんですが、なにか付加価値をつけて転売できるなら、そっちでもいいかなって思ってます」


「すごい!ちゃんと勉強してるね!」


「あはは、ありがとうございます」


「でもねー、転売っていうのは、うちら不動産屋の専売特許みたいな雰囲気あるからさ。ただ買って売れば儲かる、みたいな物件は紹介できないよ?そういうのは自分たちでやるからねー」


「ですよね、もちろんわかってます。なので、ケープ不動産さんがめんどくさくて買いたくはないけど、頑張って工夫すれば高くなる可能性がある、みたいな不動産とかないかなって」


「……本当に勉強してるね……話がわかる賢いお嬢ちゃんだ!気に入った!」


「フランお姉さんはやっぱり賢いのです!」


「あはは……」


 まぁ、中身アラサーで、元々銀行員ですし……


「えーっと、たとえばですけど、西門の外って草原が広がってますよね。あそこを開拓したらすぐに売れると思うんですけど、なんで誰も手を出さないんですか?」


 まず、最初の候補について質問する。わたしたちが泊っている宿のすぐ近くの土地についてだ。


「あー、門を出たところからは、何も建てるなって町長から言われてるからね」


 なるほど、前世でいう市街化調整区域ってことか。

 人の住む場所を特定エリアに集中させて、インフラ整備とかをしやすくするためのアレね。


「ふむふむ、ならあそこは買ってもしょうがないですね」


「うん、そもそも売れないしね」


「そういえば、町中のお家には看板なかったですけど……」


「あぁ、防犯対策だね。一応いくつか売り家は出てるけど、投資用にしたら高いと思うよ、一応見てみるかい?」


「はい、見せてもらえますか?」


「おーい、売り家の資料もってきてくれ〜」


「はーい」


 わたしは、奥さんが持ってきてくれた売り家の資料を見る。


 5つの中古の戸建てが売り出し中だったが、1番安くて金貨1600枚、つまり1600万だ。


「んー……高いですね」


「だろ?」


「てなると、やっぱ土地でしょうか。町の北側って開発中なんですか?」


「そうだね。2年前からやってるんだけど、今はもう高くなっちゃったよ」


「ふーむ……てなると、やっぱ東かぁ……」


「……東?もしかして、橋向こうのこと言ってるのかい?」


「あ、はい、そうです。ゴブリンさんたちが住んでるところですね」


「いやー……あそこはやめた方がいいよ……」


「臭いからですよね?」


「あ、行ってきたのかい?」


「はい、ついさっき」


「ならわかると思うけど、彼らと俺たちは文化が全然違うからね。下水とかの概念がないし、服もボロボロ、家なんて洞窟さ。彼らの住処の近くに住もうなんて人はいないし、お店だって絶対建たないよ。臭くてお客さんが来ないからね」


「やっぱそうなんですね。つまり、それを解決すればいいってことだ」


「いやいや、町長が数年前から挑戦してるけど上手くいってないんだよ?」


「でも、わたしなら解決できるかもしれませんよ?」


「……」


「あれ?」


「……あははは!ほんと面白いお嬢ちゃんだ!俺、こんな投資家さんにあったのはじめてだよ!あらためて気に入った!」


「ありがとうございます」


「あ!そうだ!遅れちまったけど!俺はケープ不動産のキャンベル・ケープだ!よろしくな!」


 名前を教えてくれた。つまり、本当の意味で認めてくれたのだろうか。不動産の取引で業者さんとの信頼関係を重要だ。今のところ、上手くいってそうに思う。


「フラン・ペソです。よろしくお願いします」


「アウルムはアウルムなのです!」


「実はさ!東の橋を渡ったところの土地なんだけど、うちでまとまった土地を所有してるんだ!」


「へー、そうだったんですね」


 あまり興味津々にすると高くなりそうなので、ポーカーフェイスを気取る。


「ああ!だからさ!そこでよければ二束三文で譲るよ!」


「……具体的においくらで?」


「そうだなぁ……金貨1枚!それに契約書の作成手数料で金貨4枚!合計金貨5枚だ!もしお嬢ちゃんがゴブリンたちとの交流が上手くいなくって断念するならまた同じ金額で買い取ってもいい!」


「……ふむ……つまり、金貨5枚で不動産投資に挑戦できるし、ダメだったら金貨4枚で損切りできる、と?」


「そういうこと!そっか!損切りって概念もわかって!お嬢ちゃん一体何歳なんだい!」


「あはは……なるほど……広さはどれくらいの土地なんですか?」


「1000坪くらいだったかな!」


 1000坪……1000坪ってどれくらいのサイズだっけ?デッカいドラッグストア、駐車場付きくらいの大きさだろうか?


 1000坪が金貨5枚、破格だ。

 5万円と考えると、本当に二束三文という言葉がしっくりくる。


「……橋を渡った町側の土地相場を教えていただけますか?」


「そうだなぁ、あのあたりは坪、金貨20枚くらいかな」


 つまり、1000坪なら、金貨20000枚、2億だ。


 橋を挟んで金貨5枚の土地なら、化ける可能性はある。


「……うまい話すぎて……悩みますね」


「ははは!これを聞いてうまい話だと思うやつなんていないからだよ!お嬢ちゃんくらいさ!だって、ゴブリンとの交流ができた人なんていないんだからね!」


「なるほど……」


 そういうことなら納得できる。これは紛れもないビジネスチャンスだ。


「土地の場所って、見ればわかりますか?」


「ああ!現地にいけば緑のロープで囲ってある!」


「わかりました。現地を見て、少し考えさせてもらってもいいですか?」


「もちろんだ!どうせ売れることなんてないからゆっくり考えてくれていいよ!」


「わかりました。ありがとうございます。色々教えてくださって」


「いいよいいよ!俺も若い投資家さんと話せて面白かったしね!」


「あはは、それではまた改めて来ますね」


「ああ!いつでも来てくれていいからね!」


「はい、それでは失礼します」


「失礼するのです!」


 わたしが頭を下げると、アウルムちゃんもそれを真似して、わたしたちはお店の外に出た。

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