第13話 投資先の下見
ケープ不動産にやってきて、色々な収穫があった。とりあえず、10代でも不動産が買えるとわかったのは大きいし、まさか、狙っていたゴブリンさんたちが住むエリアの土地まで紹介してもらえるなんて思ってもみなかった。
だが、買うかどうかは別問題、しっかり考えなければいけない。
「うーん……」
わたしが頭をひねっていると、
「あの臭い場所の土地を買うのですか?アウルムはイヤなのです……」
うさ耳幼女に反対されてしまった。
「あはは、そうだよね。でも、もしかしたら、臭くなくなるかもしれないわよ?」
「そうなのです?ならいいと思うのです!」
「賛成してくれてありがと。じゃあ……もう一回土地を見に行きたいんだけど……」
と言いかけたら、見るからにテンションが下がるアウルムちゃん。
「キュー……」
「やだよねぇ、そうよねぇ……臭いもんねぇ……じゃあ!アレを買ってからいきましょ!それでも嫌なら、橋のこっち側で待っててくれていいから!」
「アレ?アレってなんなのです?」
「あるかどうかわからないから!とりあえず雑貨屋さんに行ってみましょ!」
「わかったのです」
そしてわたしはアウルムちゃんの手を引いて、雑貨屋へと向かうのであった。
♢
-雑貨屋 店内-
「あった!これこれ!」
「なんなのです?これ」
「マスクよ!」
そう、わたしが探していたのはマスクだ。
臭いを少しでも和らげれる物として探していたのだが、マスクがあれば多少はあの臭いもマシになるだろう。
「いくらするんだろ?」
値札を見ると、棚の下の方にあるシンプルなものは大銅貨3枚だった。300円、布製マスクならこんなものだろう。
そして、ついでにその上に置いてある花柄の可愛らしいデザインのものもチェックしてみる。
価格、銀貨5枚。
「5000円!?なんでこんなに高いの!?」
「ふふ、正直者だね〜」
「あ、すみません」
わたしが大声を出したので、穏やかそうな奥さんが話しかけてきた。エプロンをつけてるので店員さんだと思う。亜人さんらしい耳はない。人族のようだ。
「そのマスクはね〜、布の中に匂い消しの魔法陣が仕込まれてるから高いのよ〜」
「魔法陣?」
「そうよ〜。匂いとかなんにもわかんなくなるくらいの優れものなんだから〜。ちょっと待ってね〜」
そう言ってから、奥さんはビンのようなものを持ってきた。
「これは〜、デュフューザーだから、いい匂いなんだけど〜。まずは嗅いでみて~」
「は、はい」
クンクン。
「お花のいい匂いなのです!」
うん。わたしも同じ感想だ。
「じゃあ〜、そのマスクをつけてから匂いを嗅いでみて〜」
「いいんですか?」
「いいわよ〜」
お言葉に甘えて、魔法陣が仕込まれているというマスクをつけて嗅いでみる。
アウルムちゃんも同じようにしていた。
「なんにも匂いがしない……」
「匂いがなくなったのです!」
「じゃあ〜、普通の安いマスクと比較してみて〜」
わたしたちは、花柄のマスクを外して、普通のマスクをつけて、またクンクンと匂いを嗅いだ。
「つけてないときよりは薄いけど……」
「こっちは匂いがするのです!」
「でしょ〜、面白いわよね〜」
ほほう、これはいい。でも、2つ買うと金貨1枚かぁ……高いなぁ……
でも、アウルムちゃんに嫌な思いはさせられない。
「じゃ、じゃあ、一個はこっちで、一個はこの安い方で……こっちはアウルムちゃんが使ってね」
わたしは我慢すればいいか、と思い、いいものをアウルムちゃんに渡そうとした。
「ええ!?フランお姉さん、アウルムとお揃いじゃないのですか!?」
お?おお?
「えっとね……2つ買うと高いから……」
「ならアウルムも我慢するのです!アウルムはフランお姉さんとお揃いがいいのです!」
はわわわ……天使……なんていい子なの……
「あらまぁ~、可愛い子ねぇ~。なんだか勧めておいて悪いから~、2つで銀貨5枚でいいわよ〜」
「え?そんな……半額にしてもらっていいんですか?」
「いいのよ〜。実はこれ、去年、旦那が仕入れてほとんど売れてないの〜。だからいいの、でも内緒よ〜」
「ありがとうございます!」
「ありがとなのです!」
ということで、わたしたちは最強アイテムを手に入れた。匂いが消える魔法のマスクだ。
「また来てね〜」
店を出るとき、ほんわか奥さんに手を振って、わたしたちは東の橋へと向かった。ゴブリンさんたちが住む、くさくさエリアにだ。
♢
「アウルム、またフランお姉さんに、買ってもらっちゃったのです……」
橋へ向かって歩いていると、左手を握るアウルムちゃんが申し訳なさそうな顔をした。
「ええ?これくらいいいのよ?だって、アウルムちゃんとわたしは……えーっと、パートナーというか相棒みたいなものじゃない?それに、わたしの方が年上なんだし、甘えてくれていいのよ?」
「でもでも……アウルム、役に立ってないのに……」
「そんな!わたしはアウルムちゃんがいればそれでいいのよ!」
「でもでも……」
納得してくれないようだ。宿代にご飯代、そしてさっきのマスクにお金を使わせたことに罪悪感を覚えているようだ。どうにかしてアウルムちゃんの罪悪感を和らげてあげたい。
「……じゃあ、お金儲けがうまくいったら、わたしの服をアウルムちゃんが選んでくれないかな?」
「アウルムがフランお姉さんの服を?なのです?」
「うん。わたしってば、服を選ぶのが苦手でね。可愛い服を着たいとは思うんだけど、上手く選べないの。だからこんな服しか持ってなくて」
わたしは、クソださTシャツを見せながら説明する。
「……たしかに……フランお姉さんは綺麗なのに、服はいまいちだと思っていたのです……」
くぅぅ……幼女にまでそう思われてただなんて……ゲバ爺、恨むわよ……
「わかったのです!コーラル族随一のオシャレさんのアウルムがフランお姉さんの服を選んであげるのです!」
「ホントに!助かるわ!あー!アウルムちゃんがいてくれてよかったなぁ!」
「えへへ!アウルム役に立ってるのです?」
「もちろんよ!魔法だって使えるし!きっとすぐに活躍できるわ!」
「わかったのです!じゃあ!そのときはたくさん頑張るのです!」
「うん!お願いね!」
これで、アウルムちゃんの罪悪感は薄れたようだ。さっきまで元気を取り戻して、笑顔になってくれた。
もふもふ幼女は笑顔が一番。この笑顔守らないといけないわ。そう考えながら、目的地に向かうのだった。
♢
「ごくり……くさくさの場所なのです……」
「そうね……マスクしましょうね」
「はいなのです!」
わたしは、マスクをポケットから取り出し、アウルムちゃんにつけてあげる。
顔を上げて、つけてつけてと言わんばかりの仕草に癒された。
わたしもニコニコで自分の顔にマスクを装着する。
「よし……いこっか……」
「はい。なのです……」
わたしたちは、おそるおそる橋を渡る。
中腹までやってくる。
「まだ臭くないね……」
「なのです……」
そして、突然の悪臭が襲ってくることを警戒しながら橋を渡りきった。
「臭くない……」
「のです……」
「すごいわね!このマスク!」
「ほんとなのです!やっぱり魔法はすごいのです!どんな魔法陣が描かれているのか気になるのです!解剖するのです!」
「ん?解剖?」
首を傾げて隣を見ると、アウルムちゃんがニコニコしながらマスクをとり、裏面を確認していた。
「あ!こんなところで取ったら!」
そして、どんどん顔が真っ青になっていった。
「……臭いのです!?」
「もう!だめよ外したら!」
わたしは固まってるアウルムちゃんの右手からマスクを取って、もう一度装着してあげた。
「キュー……臭かったのですぅ……」
「橋を渡って向こう岸まで戻るまで、とっちゃダメ、わかった?」
「はいなのです……」
テンションは落ちちゃったけど、アウルムちゃんも落ち着いたので、土地の確認をすることにした。
キャンベルさんが言ってた土地はどこかと見渡すと、すぐに見つけることができた。
だって、本当に橋の目の前だったから。
「ここね」
土地に近づくと緑色のロープがはってあるのを確認できる。そのロープは、橋を渡った左手に細長く伸びていて、道路を作れば一等地になりそうな立地だった。
それに1000坪もあるだけあってかなり広い。
仮に住居用に50坪ずつに切り分けても、20戸の一軒家が建てれる広さだ。
「んー、この土地が金貨5枚……アリね……」
「アリなのです?でも、マスクがないと臭いのです。みんなにマスクを配るのですか?」
「んー……それもいいアイデアだと思うけど、根本的な解決になってないわよね。やっぱこういうのは、根本を解決して、イメージから変えていかないと」
「なるほどなのです?」
そう、仮にマスクを無料配布したって、いつも臭い土地になんて誰も住まないだろう。
だから、やっぱり臭いの元を断たないといけない。
「よし、次はゴブリンさんに話しかけるわよ」
「フランお姉さん、ゴブリン語しゃべれるのです?」
「んー、たぶんね」
わたしには、ゲバ爺から授かった言語翻訳能力がある。きっと、大丈夫なはずだ。
わたしはキョロキョロして、遠目でわたしたちの様子を伺っているゴブリンさんに手を振ってみた。
「こんにちは〜」
「!?」
近くにいたゴブリンさんが、すごく驚いた顔をしている。
通じたのだろうか?
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