第10話 うさ耳幼女の魔法
「ここがフランお姉さんのお家なのです?とっても大きいのです!」
「んー、ここは宿屋だから、わたしのお家ってわけじゃないのよ?」
わたしは、ひとまずアウルムちゃんを連れて宿屋にくることにした。今晩の寝床を確保するためだ。
「そうなのです?これが噂に聞く宿屋なのですか……ごくり……」
「えっと……アウルムちゃんって、ここに来るまでどこで寝てたの?」
「変身して木の上で寝てたのです!」
「へえ?それってさっきみたいに、うさぎの姿になってたってこと?」
「そうなのです!」
「へー、自由自在に変身できるんだ?」
「1日に数回なら変身できるのです!」
なるほど、わたしの先見の目と同じで、MP消費があるのだろうか。
「とりあえず、中に入りましょうか」
「はいなのです!」
わたしは、アウルムちゃんを連れて宿屋に入る。ここ2日、泊まったのと同じ宿屋だ。まだ資金に余裕はないので1番安い宿を選んだ。
「こんにちは〜」
「まいど〜、今日は2人かい?」
受付のおじいちゃんがのんびりとした口調で話しかけてくる。
「はい。この子と2人なんですが、あんまりお金なくって……おいくらになりますか?」
「んー、昨日と同じベッド1つの部屋なら、同じ値段でいいよ」
「ほんとですか!ならそれでお願いします!」
「あいよ、はい、鍵ね」
「ありがとうございます!」
よかった、アウルムちゃんを連れて泊まるということは倍の値段取られると覚悟していたが、嬉しい誤算である。
それに、ベッドがひとつなら、自然な流れで一緒に寝れるしね♪んふふ♪
「フランお姉さん?」
「ん?なぁに?アウルムちゃん♪」
「なにか嬉しいことがあったのですか?」
わたしが笑っているのが気になったようだ。
いかんいかん、冷静さを持たねば。
「ううん、なんでもないわ。とりあえず部屋に行きましょ。こっちよ」
「はいなのです!」
ギィ。
昨日と同じ部屋の扉を開ける。相変わらず殺風景な部屋だが、安いのが何よりの長所だ。
「わぁ!ベッドがあるのです!久しぶりのベッド!」
「そっかそっか。さっきの話だと、しばらく木の上で寝てたんだもんね?」
「はいなのです!」
「今日からは一緒にベッドで寝ましょうね♪」
「いいのですか!?でも……アウルムはお金出してないのです……床の上でも……」
「そんなのダメよ!一緒に寝て欲しいの、ダメかな?」
「フランお姉さんが一緒に寝たいなら、アウルムもそうしたいのです!」
なんていい子なんだろう……
これは、夜抱っこして眠るのが楽しみだ。
「とりあえず座りましょうか。こっちきて」
わたしはベッドに腰掛け、アウルムちゃんを隣に誘う。
「はいなのです!わぁ!フカフカなのです!」
素直に隣に座ってくれた。
個人的には硬いベッドだと思うけど、野暮なことは言うまい。
「それで、アウルムちゃんの旅の目的だけど、魔法を広めるって、なにを成し遂げれば達成なのかな?いつになったら故郷に帰れるの?」
「んー?わかんないのです!」
「わ、わかんないんだ……」
「はいなのです!」
「お家には帰りたくないの?」
「今はフランお姉さんがいるので帰りたくないのです!」
「あわ……あわわわ……」
「フランお姉さん?」
「アウルムちゃん!」
「キュ!?」
わたしはまたアウルムちゃんを抱きしめた。
いたいけすぎる無垢な少女に心が締め付けられそうだ。
そして、わたしのことを必要としてくれて、すごく嬉しい。
保護しなければ、わたしがこの子を保護しなければいけない。そう強く再認識した。
「アウルムちゃんが魔法を世の中に広げるまで、わたしがお手伝いするわ」
「いいのですか?」
「うん。お手伝いしたいの。わたしの旅に目的とかってなかったし」
強いて言うならば、お金持ちになって悠々自適なスローライフを過ごしたいくらいだ。
「ならお手伝いしてほしいのです!嬉しいのです!」
「アウルムちゃんは素直でいい子ねー、よしよし」
「えへへ、褒められるのも嬉しいのです」
頭を撫でられたアウルムちゃんは、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
よし、これからこの異世界で生きていくとして、わたしだけじゃなく、このアウルムちゃんも養っていかなければいけなくなった。
ちょっとハードルは上がったけど、先見の目の力があればきっとどうにだってなる。
問題は、ズルをしないで、真っ当な方法でどうやって稼げばいいか、そのアイデアが今はない、ということだ。
それを考えないといけない。
「うーん……」
「どうかしたのです?」
「ん?えっとね、これからどうやってお金を稼ごうか考えてて」
「フランお姉さんはお金持ちじゃないのです?」
「ちがうよ。お金持ちにはなりたいけどね」
「なら!アウルムもお手伝いするのです!」
「いいの?」
「はいなのです!旅は道連れ世は情けなのです!」
「あはは……」
幼女が時代劇みたいなことを言い出して、なんだか可笑しくなる。
ゲバ爺が異世界語を日本語に翻訳してる弊害だろうか。どういう翻訳なのか気になるところだ。
「じゃあさ、アウルムちゃんの魔法でどんなことができるか教えてくれるかな?さっき、変身とお友達契約?の魔法は見せてもらったけど」
「わかったのです!アウルムはうさぎさんに変身できると!お友達契約ができるのです!お友達契約をするとカードを使ってお話ができるのです!」
「お話?」
「はいなのです!フランお姉さん、さっき渡したカードを耳に当ててくださいなのです!」
「わかったわ、こうかな?」
「ちょっと待つのです!」
アウルムちゃんが扉の方まで走っていき、手をパーにして口に近づけ、なにかつぶやいた。
『もしもーし、なのです〜』
すると、耳元のカードからアウルムちゃんの声が聞こえてきた。
『わぁ!すごい!聞こえたよ!電話ね!』
「でんわってなんなのですか?」
アウルムちゃんが戻ってきて隣に座り直し首を傾げる。
「ん?んー、機械で同じことができるというか、なんというか」
「そうなのですか……すごい魔法だと思ってたのに……世界は広いのです……」
しょんぼりさせてしまった。
わたしのバカ!まずは褒めないとダメでしょ!
「あ!あー!気のせい!気のせいよ!あれはわたしの夢の世界の妄想だったわ!こんなことができたらいいなーって思ってたの!
だから!すごい!すごすきるわ!アウルムちゃん!わたしの妄想を実現するなんて!天才ね!」
「ほんとなのです?アウルムすごいですか?」
「うん!とってもすごいし便利な魔法ね!」
「えへへ、嬉しいのです。あと!もう一個魔法が使えるのです!」
「3つも使えるなんてすごいわ!天才!」
「……むふー……アウルムは、族長にも天才って褒められたのです!やっぱりアウルムは天才なのですね!」
「そうね!すごいわ!アウルムちゃんは天才よ!」
「えへへ、じゃあもう一個も見せてあげるのです!」
「お願い!すごく楽しみだなー!パチパチパチー!」
わたしは拍手しながら、得意げに立ち上がるアウルムちゃんを応援する。たくさん褒めたら上機嫌になってくれた。そんなところも愛らしい。
「もう一個はこれなのです!むむむむむ……むー!」
アウルムちゃんが両手を構えて水晶で占いをするような動きをすると、そこに宝箱のようなものがあらわれた。
ミミックでも入っていそうな宝箱だ。
「おぉ〜!すごーい!」
とりあえず拍手しておく。
「この魔法がすごいのはここからなのです!見てるのです!」
言いながら、嬉しそうに宝箱をあけ、そこに手をつっこむ。
あきらかに、宝箱の底よりも深いところまで腕が吸い込まれていた。
四次元ポケット?
「はいなのです!」
そして、なにかでっかいクッションのようなものを取り出す。
箱の入り口あたりにぎちぎちとひっかかり、スポッと飛び出した。それは、アウルムちゃんと同じくらいの大きさのニンジンのぬいぐるみだった。
「あわわわ……うさちゃんが……ニンジンを抱きかかえてる……かわいー!」
「どうなのですか!?」
アウルムちゃんはそれはもうドヤ顔だ。
わたしは、魔法のことよりも目の前の光景に感動を覚えていたが、ちゃんと褒めないと、と気づく。
「すっごい(かわいい)わ!そんなに大きなものをしまっておけるなんて!とっても便利だし、すごい魔法だと思う!天才!天才よ!」
「むふー……なのですなのです……アウルムは天才なのです……」
腰に両手を当てて、うむうむとゆっくり頷いていた。ご満悦である。
「いい子ね、よしよししてあげるわよ?」
「させてあげるのです!」
ニコニコ笑顔で近づいてきたので、わたしもニコニコしながら頭を撫でた。
両手でぬいぐるみを抱きかかえる幼女ってなんでこうも尊いのかしら。
かわいっ……このまま一緒に寝たいわ……
アウルムちゃんがニンジンを抱きしめて、わたしがアウルムちゃんを抱きしめて寝る。
なにそれ、最高ね……
「フランお姉さん?」
「……はっ!?」
いけないいけない、またトリップしてたみたい。
「たくさん魔法みせてくれてありがとうね。すごく参考になったわ」
「はいなのです!お金持ちになるお手伝いできそうですか?」
「んー……きっとできるわ!」
「そうなのですか!ならいつでもアウルムを頼っていいのですよ!」
「ありがと!そのときはよろしくね!」
「はいなのです!」
とりあえず、アウルムちゃんの魔法の力は把握できた。
でも、肝心のお金を稼ぐアイデアはまだ出てきていない。
考えなければ……
わたしとアウルムちゃんが幸せに生きていくために。
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