第9話 お友達契約
「んん!……それで、あなたのお名前は?」
「アウルムはアウルムなのです!」
「へー、アウルムちゃんっていうのね」
わたしは、ベンチの前でしゃがんで、目の前の小さい女の子のことを改めて眺めた。
異世界ならではの鮮やかなピンクの髪、その髪を腰くらいまで伸ばしたサラサラロングヘアーの女の子だ。
その子は、うさぎの亜人のようで、頭には、ピンと空を向いたうさ耳が鎮座している。ピンク髪と同じ毛色で、とても尊かった。つい、崇めそうになってしまう。
そして、お尻からは、もっこもこのまぁるい尻尾がこんにちは、していた。
服に尻尾用の穴が開いてるのかしら?
それにしてもすごくモフモフ、今すぐにでも、もふりたいところだ。
そんなアウルムちゃんは、わたしの身長の半分くらいで、たぶん幼稚園児か小学校低学年くらいの年齢に見える。
純粋そうな瞳は目尻が下がっていて、穏やかそうで、どこか天然ぽさもある、ぽわぽわ幼女だった。
もちろんお顔はすごく可愛い。持ち帰りたい。
お洋服は、白を基調としたワンピースで、赤いさくらんぼの絵が散りばめられている。
足には白の短いフリル付き靴下を装備した上で、黒のツヤツヤのパンプスを履いている。
んー……完璧なもふもふケモ耳幼女だわ……
改めて眺めても、アウルムちゃんは完璧だった。
「お姉さん?どうかしたのですか?」
わたしがニコニコしながら黙っていたら、アウルムちゃんが首を傾げてしまう。
だめよだめ、正気を保たないと。
「ううん、なんでもないの……えっと……」
「綺麗なお姉さんの名前も教えて欲しいのです!」
「綺麗なお姉さん?」
わたしは、誰のことを言ってるのかわからず聞き返す。
「はい!綺麗なお姉さん!お名前を聞いてもいいですか?」
「あ、わたし?わたしのこと?綺麗なお姉さんですって?そんなこと言われたことないわ……すごく嬉しい……ふ、ふふ……」
「お姉さん?」
「わたし、きれい?」
無意識に、妖怪みたいな問答が飛び出る。
わたしは承認欲求に飢えていた。
「はい!とっても綺麗なのです!」
「あらー!いい子ね!」
テンションが爆上がりしそうになる。
「んふふ……おっほんわたしの名前は!えーっと……フラン・ペソよ!フランでいいわ!」
言い慣れない名前を名乗る。
「フランお姉さん!よろしくなのです!」
「よろしくね、んふふ……」
さっきから、アウルムちゃんがぴょんぴょん跳ねるたびに、うさ耳もピクピク動いて目が離せなかった。
なんなの、この可愛い生き物は……
「お姉さんは、お金持ちなのですか?」
「え?そんなことないけど?」
「でも、アウルムにご飯をご馳走してくれたのです!」
「んー、まぁ肉串くらいならね」
ついさっきまで宿無しになりかけていたのに、変な見栄を張るわたしがいた。
「すごい!お金持ちなのです!」
「あはは……そんなことないけど……ねぇ、アウルムちゃんはなんでお腹空かしてたの?」
うさぎから変身したことについても聞きたいが、まずは、空腹の理由を聞いてみることにした。
「えっと……アウルム、田舎から旅に出たんですが……お財布無くしちゃって……帰り道もわかんなくなっちゃって……」
さっきまでニコニコだったのに、両手をモジモジして泣きそうになってしまう。
「そうなの!?もう大丈夫よ!お姉さんが保護!してあげるから!」
わたしはたまらず、アウルムちゃんを抱き寄せた。こんなに可愛いモフモフを不幸にするなんてありえないわ。
「キュ!?ほ、保護ってなんなのですか?」
胸の中のアウルムちゃんがキョトンとしている。
「えっとね、アウルムちゃんがお家に帰るまで、お姉さんがご飯食べさせてあげるってことよ。あと、もし良かったら一緒の宿に泊まりましょ?」
ふへへ、合法的にもふもふをお持ち帰……違う違う!これは100%善意の行いよ!
「そ、そんな……そこまでしてもらうのは悪いのです……」
「アウルムちゃんみたいな小さい子が遠慮なんてしなくていいのよ!だってお財布なくしたんでしょ!困ってるでしょ!」
「でもでも……」
「じゃあ!お礼に毎日もっふもふ!させてください!それでいいから!win-winだからー!」
「も、もっふもふ?なのです?」
「はぁはぁ……んぐっ……えっとね、ちょっとうさ耳と尻尾をさっきみたいに撫でさせてくれればいいのよ?」
「さっきみたいに?あんなのでいいのですか?」
「ええ……」
それが最高なんです。
「わかったのです!なら契約成立ですね!」
「そうね!ん?契約?」
わたしが首を傾げていると、アウルムちゃんがくるりとスカートを翻して距離をとった。
あら可愛い、魔法少女かしら?
そんなことを思っていると、アウルムちゃんが片手を大きく空にかざす。
「我!コーラル一族がひとり!アウルムは!ここにフラン・ペソお姉さんとのお友達契約を結ぶ!なのです!」
お友達契約??なにそれ??
「やー!」
最後にひと叫びすると、アウルムちゃんの右手が光出して、そこからカードのようなものがあらわれた。
なにあれ?
変身といい、この子は本当に魔法少女なのだろうか。
「はいなのです!」
アウルムちゃんがわたしの前に戻ってきて、ニコニコ笑顔でカードを手渡してくれる。両手でお行儀よく、名刺を渡すみたいに。
「あら、これはご丁寧に、ありがと♪」
よくわからないけど受け取ってみる。
そのカードには、〈フラン・ペソお姉さんとアウルムはお友達なのです!〉と書いてあった。
「んふ……んふふふふ……かわいっ!」
おままごとかしら、これくらいの子はそういうの好きだもんね、ニコニコ。
「ありがとうねぇ」
わたしは、お友達契約なるものがなんなのか考えずに、ニッコニコでアウルムちゃんの頭をなでなですることにした。
「えへへ、なのです。喜んでもらえてよかったのです」
「んふー……えっと、アウルムちゃんは、ひとりなのよね?」
「そうなのです!」
「ひとりで田舎から出てきたってことは……んー……誰かを訪ねてきたの?親戚とか?」
幼女の一人旅の理由を必死に探して質問してみる。
「ちがうのです!アウルムは一人前になるために修行にきたのです!」
「修行?」
「そうなのです!」
「こんなにちっちゃいのに?」
「アウルムちっちゃくないです!大人なのです!むー!」
「あ、そうよね、アウルムちゃんは大人だもんねー」
ニコニコ。
「ですです!アウルムは、コーラル一族の中でも随一の魔法の使い手なのです!だから!世界を知って!もっと魔法を世に広めてこいって族長さんが言ってたのです!」
「へー?」
とりあえず、その族長とかいうやつは、しばかないといけないわね。
こんな小さいアウルムちゃんをひとりで……
ゆるせないわ……
「んん……じゃあ、しばらくはわたしと一緒に旅をして、一緒に修行しない?」
「いいのですか?アウルム、邪魔じゃないのです?」
「そんなそんな!邪魔なんてありえないわ!もしアウルムちゃんがよかったら!ずっともふ……一緒にいてほしいくらいよ!」
「ずっと……ずっとはわかんないですけど!お友達契約を結んだことですし、しばらく一緒にいてあげるのです!よろしくなのです!」
「嬉しい!ありがとうね!」
わたしはまた、うさ耳幼女の頭を撫でる。どさくさに紛れて、うさ耳もモフモフしちゃった。
なんて悪い大人なのかしら、わたしったら。
でも、こんなに可愛いアウルムちゃんが悪いんだからね!
「えへへ。なでなで気持ちいいのです」
こうして、いたいけなうさ耳幼女と、中身は限界OLの美少女2人が旅を共にすることになったのだった。
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