第8話 うさ耳幼女との出会い

-翌朝-


 昨日と同じ、硬いベッドの上で目を覚ます。


「おはよう異世界……ベッドさん……わたしの最後のベッドになるかもしれない人……よちよち……」


 わたしは寝転びながらベッドを撫でる。


「硬いなんて言ってごめんなさい……わたし、あなたと離れたくないわ……だって……こんなに優しくわたしを包み込んでくれるんだもの……

 ………はぁ……よし!現実逃避おわり!今日こそ稼ぐわよ!ズルだけど!でも!生きてくためだから!ごめんなさい!」


 追い詰められたわたしは、自分がクズ的発想になっていることに気づけないほど、余裕がなくなっていた。



-イルカレース場 前-


 わたしの残りの銀貨は2枚、食事と宿代でここまで減ってしまった。


 まずは、大銅貨5枚、500円から賭けよう。いきなり全財産は怖すぎる。


 わたしは観客席に出て、チケット売り場に1番近い場所から旗の方に集中した。


 『先見の目!発動!』(今日もテンション高め)


 そう念じて集中すると、旗の背景の雲がギュンギュンと流れていき……そして……6番の旗があがった。


「よし!」


 わたしは早足でチケット売り場に向かう。


「6番を!大銅貨5枚お願いします!」


「あいよ」


 わたしは銀貨を1枚だして、チケットとお釣りを受け取った。


「買ってしまった……」


 そして、ズルをしてしまった……


 観客席に座り、チケットを見ていたら、罪悪感が襲ってくる。


 いや……生きるため、生きるためよ。ゲバ爺だってきっと許してくれるわ……


 わたしは、自分に都合のいい考えをしながら、レース開始を待った。



「ただいまの時間を持ってチケット販売を締め切ります。皆さま、観客席へご移動ください」


 アナウンスが聞こえてきた。


 続いて、選手たちが入場してくる。


 海の上に6人の選手、白いモヤが浮かぶポールの間に入ると、選手とイルカさんの身体の色が変化する。

 わたしがかけた6番の選手は1番外側、身体の色はオレンジ色だ。


 あの選手のオッズは9.0倍。開始位置が不利だからなのか、無名選手だからなのかはわからないが高いオッズだ。当たれば、所持金が一気に増える。


「ごくり……」


 喉が鳴る。


 そして、運命のファンファーレが鳴り、選手たちが真剣な顔をして前を向いた。わたしはその姿から目が離せない。オレンジ色の彼らの姿から。


 パン!


 レースが始まった。


「6番!6番!がんばれ!」


 結果はわかってるはずなのに、必死で応援してしまう。


 第一カーブ、6番オレンジの君は4位だ。


「なんで!?そんな位置から逆転できるの!?」


 第一カーブがおわり、6番はストレートで2位まであがってきた。


「きた!きたわ!」


 第二カーブ、一位の真後ろにせまる6番。


「いけ!いけー!」


 周りのおっちゃんたちがわたしのことを見てる気がしたが無視だ。


 最終ストレートにきたら、おっちゃんたちも騒ぎ出した。


 迫る6番、逃げる2番。


「6番!6番!ろくぅー!!」


 わたしの、異世界転生3日目は、ロクでもないギャンブルで幕をあげたのだった。6だけに。


 結果……わたしは勝った……


 大勝利だ。


 大銅貨5枚が、銀貨4枚と大銅貨5枚になって戻ってくる。


「う……」


 わたしはお金を受け取って、はじめて自分のクズっぷりに気づいて、涙がでそうになる。


「……もう……いくとこまで行くわ……」


 一度やっちゃったなら!2度も3度も関係ないでしょー!ひゃっはー!!


 どうやら……わたしには、クズの才能があったらしい。


 わたしは、ニヤつかないように注意しながら、観客席へと戻っていった。



 あのあと、4回のレースにお金をかけ、所持金を増やしてから、公園のベンチにやってきた。心を落ち着かせるためだ。

 そして目的はもう一つ――


 右手には肉まん、左手には肉串、豪遊だ。


「いただきます!」


 ニコニコで頬張り出す。


「おいしー!」


 今日の朝までは、宿無しになるかもという不安を抱えていたので、その心配がなくなったわたしの心は、すごく軽くなっていた。


 だから、ちょっとした贅沢をしている。


 あのあとのレースでは、わたしは冷静になって、まず一回、わざと負けておいた。連勝して怪しまれないためである。

 その次はちょっと勝ち、また負けて、最後に大きく勝った。


 結果、わたしの手元には、金貨が9枚、銀貨6枚、大銅貨が5枚が残ることになった。日本円で約10万円。


 これでしばらくは宿無しにならなそうね♪あーよかった♪次はどれ食べようかな♪


 わたしは、串焼きが入った袋の中をルンルンで覗きこむ。肉肉しい串焼きを5本、種類を変えて買ってきたので、次はどれを食べるか吟味する。


 わたしが鼻歌まじりに一本の肉串を取り出すと、


「キュー……キュー……」


「んん?」


 ベンチの下から、何か動物の鳴き声が聞こえてきた。


「なになに?」


 足を避けると、長い耳がひょこっとあらわれる。ピンク色のもっふもふのうさ耳だった。


「うさぎ?」


「キュー……キュー……」


 そして、悲しそうな鳴き声と共に、ピンク色のうさぎが姿を現した。


「な!?ななな!」


「キュー……」


「なんて可愛いもふもふちゃんなの!」


「キュ!?」


 わたしが目をキラキラさせて手を伸ばすと、うさちゃんが警戒してちょっと距離をとる。


「ああ!行かないでもふもふちゃん!」


「キュー……」


 なんだか、また悲しそうな声を出す。


「どうしたの?お腹空いてるの?」


 わたしは肉串の肉を一欠片、串から外して右手の掌に乗せた。そのまま、うさちゃんの前に差し出してみる。


「キュー?」


「食べていいのよ?」


 クンクン。

 わたしの掌に近づいてきて、匂いを嗅ぎ、


「ハムっ……ハムハム!キュー!」


 お肉をペロリと食べて、嬉しそうに声をあげた。


「あら〜……なんて可愛いもふもふうさちゃんなのかしら……」


「キュー!」


 わたしの声に反応するのように、前足をたてて、ぴょこぴょこと動かした。


「もっと食べたいの?」


「キュー!」


「どうぞどうぞ♪」


 わたしはニコニコで肉串一本を献上させていただいた。


「キュ!キュ!キュー!」


 肉串をたいらげたピンクうさちゃんは、前足でわたしの足にぺたぺたと触り、もっとよこせと催促をはじめる。


 なんとなく、頭が良さそうな子だと思ったわたしは、交渉を試みることにした。


「もっと欲しいの?」


「キュー!」


「なら、もふら……抱っこさせてくれないかな?」


「キュー!」


 ぴょんっとベンチに飛び乗ってきて、わたしの膝に乗ってくれた。言葉がわかるのだろうか?いや、そんなことどうでもいいわ。


「わぁぁぁ……いい子ねぇ……」


 わたしはデレデレだったと思う。


 背中をモフモフ撫でながら、2本目の肉串を取り出した。


「ハムハム!」


 勢いよくかじり出すうさちゃん。


「もふもふ~……やわらか~い……ん?あれ?うさぎって、肉食だったっけ?」


 そう思ったとき、


 ポンッ!


 わたしの膝の上のうさちゃんが、突然姿を変えた。


「美味しいのです!ありがとなのです!綺麗なお姉さん!」


「あわわわわ……」


 わたしの膝の上には、幼稚園児くらいのピンク髪うさ耳少女が現れていた。わたしの膝の上に座って、にこにこと串を握っている。


「これは……いったい……夢?」


「お礼に抱っこしてていいですよ!そういう契約なのです!」


「……」


 わたしは、何が起こっているのか把握する前に、その子のうさ耳とうさ尻尾を撫でることにした。


「もふもふだぁ……」


「あはは!くすぐったいのですぅ!」


 幼女が膝の上で笑顔をこぼす。


 なんて……なんて可愛いの……お持ち帰りしちゃいたいわ……


 いくら出せばついてきてくれるかしら??


 ギャンブルで勝って、気が大きくなっていたからか、わたしは変質者的な考えで、いたいけなうさ耳幼女のことを眺めるのであった。

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