第29話 もふもふたちに愛されすぎて
「それじゃあ!あなたのお名前を決めてもいいかしら!」
「わふん!」
ふりふりふりふり!
わたしは、オーダーちゃんを連れて宿に戻ってきて、オーダーちゃんを机の上に下ろし話しかけていた。わたし自身はしゃがんで目線を合わせているところだ。
オーダーちゃんは、わたしの申し出に、うんうんと頷いて尻尾を振りまくってる。見た目はワンコだけど、魔獣というだけあって言葉が理解できるようですごく楽しい。
わんちゃんを飼ってみたいという夢と、わんちゃんとお話ししたいという夢が同時に叶った瞬間であった。
「……アウルムは、犬っころって名前でいいと思うのです」
「わんわん!グルル……」
わたしの天使たちがまたケンカしていた。なんだろう、縄張り争いだろうか、まぁ、しばらくしたら仲良くなるでしょう。
今はこの子の名前ね。
「なんて名前にしようかなぁ♪」
目の前のわんわんを眺めながら、鼻歌混じりに考える。
この子の犬種は、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルにそっくりなので、そこから取ることも考えたが、それだと安易で味気ない気もする。
もっと、この子特有の、この子にピッタリの名前にしたいわ。
「あなたは女の子よね?」
「わん!」
「そうよね。ありがと♪」
うん、それはさっき抱っこしたときに確認した。女の子ということは可愛らしい名前にしてあげたい。
「頭の毛色は茶色だから、チョコレートっぽいイメージを受けるわね〜」
「わふん?」
「それに、耳のところにクリームが垂れたような模様がある」
「わふわふ」
「だから、とっても甘そうで美味しそう」
「わふ!?わんわん!」
「え?いえいえ、食べたりしないわよ?例えってやつよ」
「わ、わふん……」
「えっとね、だから、甘そうで可愛い名前にしたいの。
たとえば、プリンとかチョコとか……んー……デザート……いや、もっとオシャレに……ドルチェ……ドルチェっていうのはどうかしら!別の国の言葉でスイーツって意味なのよ!」
「わふ?わふわふ!」
わたしが、ドルチェという名前を提案すると、嬉しそうに頷いて、くるくると回り出した。
「ドルチェって名前!気に入ってくれた?」
「わふん!わんわん!」
うん!すっごく!そう言ってるように聞こえた。
「なら!今日からあなたはドルチェよ!よろしくね!ドルチェ!」
そういうと、机の上のドルチェがわたしの胸に飛び込んできた。
「わふーん!」
すかさず抱っこする。
「ペロペロペロペロ」
ほっぺを一生懸命舐めてくれた。
「あらぁ!かわいいわねぇ!お姉さんとチュッチュッしたいのかしら!」
「あー!アウルムだってまだしてないのに!ダメなのです!」
大人しくしていたアウルムちゃんが割って入ってくる。わたしの腕に絡みついて、ドルチェを引き剥がそうとしていた。
「あらぁ!嫉妬しちゃって!」
「ちがうのです!なんかムカムカするだけなのです!」
「それを嫉妬っていうのよ!アウルムちゃんともチュッチュッしちゃおうかな♪」
「それもダメなのです!」
「えー!?どうして!?こんなに嫉妬してるのに!?」
わたしはアホ面で驚いた顔をしていたと思う。
「ちがうのですー!」
「わんわん!」
だって、もふもふ幼女ともふもふの塊にこんなに愛されたら誰だってこうなっちゃうわよ!……んふふふ……
わたしはまた、怪しげな笑みを浮かべながら、わたしのことを奪い合う小さい子たちをニコニコと眺めるのだった。
♢
「んん!……2人とも落ち着いた?」
「はいなのです……」
「わふん……」
わたしは2人をベッドに座らせて向かい合わせていた。わたしも真ん中に一歩引いて正座して仲を取り持っている。
いつまでも歪みあっていてはダメだ。あれはあれで求められてる感を供給できていいけど、やっぱり、仲良くしていて欲しいのだ。
「じゃあ、仲直りしましょうね?この子はアウルムちゃん、わたしの大切なお友達よ。マーレルっていう町で仲良しになって、ここまで一緒に旅をしてきたの」
「よろしくなのです……」
「わふん……」
「そして、オーダーウルフのドルチェ、わたしと契約したお友達よ。アウルムちゃんともお友達になってほしいな?」
「わふわふ……
「そっちがそう言うなら、仲良くしてあげるのです……」
「よし!これで仲直りね!フランお姉さんは嬉しいわ!あ!ドルチェ!改めて!わたしはフラン・ペソ!あなたとパートナー契約を結べてすっごく嬉しいわ!ずっと一緒にいたいくらいあなたにメロメロよ!」
「わんわん!!」
わたしもわたしも!そう言ってるように見える。
「うふふ♪」
「アウルムだって……フランお姉さんとずっと一緒なのです……」
「っ!?もちろん!もちろんよ!わたしはアウルムちゃんとずっと一緒よー!」
ぎゅ!
「はわっ!?」
わたしはとっさにうさ耳幼女を抱きしめる。なんて健気で可愛い生き物なのかしら。この可愛さは罪ね!
「グルル……」
「あ、あー!2人が仲良くなってくれてわたしは幸せだなー!……チラリ」
抱き合ってるわたしたちを見て、ドルチャが面白くなさそうに呻き出したので、わざとらしいセリフを吐いてみる。
「……わふん……」
よし!賢い子で助かる!
空気を読んでくれたようだ。
ということで、無事仲直りした2人と一緒に、のんびりと親睦を深めることにした。
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