第28話 オーダーウルフとの契約
-オーダーウルフ集会所前-
「つ、疲れた……」
「なのです……」
わたしたちは、ひたすら階段をおりつづけ、やっとのことでオーダーちゃんたちの集会所までやってきた。
本当に正門の近くだから、馬車を降りたすぐ近くでもある。こんなことなら、先にここに来たかった、なんて思ってしまう。
「と、とりあえず中に入ろっか……」
「はいなのです!気を取り直してゴーゴー!なのです!」
わたしは、アウルムちゃんに癒されながら、更なる癒しを求めて集会所の扉を開けた。
オーダーちゃんたちの集会所は、ベルルクの無骨な町並みと違い、ログハウスのような建物で、木の温もりがある雰囲気だった。
中に入れば、そこはもう楽園だ。
あちらをみても、こちらをみても……
「もっふもふ……パラダイスね……」
「フランお姉さん?」
わたしはよだれを垂らしていたかもしれない。うん、かもしれない。
目の前には、いろんな種類のわんちゃんたちが鎖に繋がれずに自由に過ごしているのだ。
ゴールデンレトリバーやシベリアンハスキーみたいな大きい子もいれば、パピヨンやポメラニアンみたいな小さい子もいる。
触り放題なのだろうか?触りたい。そしてもふりたい。
「もふ……もふ……」
わたしはふらふらと、近くにいたパピヨンぽいオーダーちゃんに近づく。
目が合う。
手を伸ばすと、ふいっ!とそっぽを向かれて、あっちにいってしまった。
「ああ!そんな!」
「フランお姉さん!正気になるのです!」
ぎゅ!
「はっ!?」
天使のうさ耳幼女に手を握られ正気を取り戻す。
「どうしちゃったのです!」
「えっと……もふもふがいっぱいで……つらいからアウルムちゃんをもふもふしててもいい?」
「キュ?どういうことなのです?」
「どういうことなんでしょう?とりあえず抱っこさせて」
そしてわたしは、同意も聞かずにアウルムちゃんを後ろから抱っこしてうさ耳の間に挟まれた。
はぁぁ癒されるぅぅ……
ちょっとパピヨンちゃんに振られちゃってダメージ受けたけど、わたしにはアウルムちゃんがいるから大丈夫、大丈夫よ……すぅぅぅ……うん、大丈夫。
「おや?お嬢ちゃんたち、オーダーウルフとの契約希望かい?」
「ん?あーはい」
わたしが正気を取り戻しつつあるタイミングで、30代くらいの犬耳の男性が話しかけてきた。この施設の管理者だろうか。
「そいつとは相性が悪かったみたいだな」
犬耳管理者さんがパピヨンちゃんを指していう。
「そうみたいなんです。しょんぼりです」
「はは、オーダーウルフっていうのは、相性が悪い相手には冷たいからなぁ。でも、相性さえ合えば、すごく懐いてくれるぜ」
「そうなんですね!じゃあどの子がわたしとラブラブしてくれますかね!?」
「ら、ラブラブ?えっと……よくわからんけど、歩き回ってれば向こうからやってくるもんだよ。パートナーが見つかったら声をかけてくれ、契約はオーダーウルフがしてくれるけど、ベルルクとしてもパートナー契約ができた人物は把握しときたいからな。登録させてもらいたいからよ」
「わかりました!かわいい子を見つけてご紹介しますね!」
「ん?んん?……うん、まぁ、いいや、頑張って」
「はい!」
わたしは犬耳管理者さんのアドバイスに従い、集会所の中を歩き回ることにした。
一旦アウルムちゃんを下ろし、手を繋いでもらう。これで、オーダーちゃんに振られても正気を保てるだろう。
「いくのです!アウルムにも懐け!なのです!」
アウルムちゃんが繋いでない手の方を上にあげてゴーゴーとやっている。それを見てからオーダーちゃんに順番に近づいていく。
ゴールデンレトリバーの子。
「ぷいっ」
だめだ。
シベリアンハスキー。
「グルルル……」
だめそう。
ポメラニアン。
「キャンキャン!」
威嚇された、だめっぽい。
……まだまだ!まだ20匹以上いるし!きっとどの子かは懐いてくれるはず!
そして、わたしはポジティブ全開で歩き回る。
しかし……数10分後……
「うっ……うっ……うう……なんで……なんでよ……こんなのってあんまりよ……期待させておいて……ひどい……」
わたしは、誰にも懐いてもらえず、地面に沈んでいた。
「フランお姉さん……元気だすのです……あ、アウルムのこと、もふってもいいのですよ!」
「アウルムちゃん……ぐす……わたしの天使……」
わたしが涙を拭いて、アウルムちゃんに抱きつこうとしたとき、
「わふん!わふわふ!」
崩れ落ちて膝をついていたわたしの膝に、小さな小さなもふもふが前足を乗せにきてくれた。
「え?……あなたは?」
「わふわふ!」
わたしの膝の上で、とっても可愛らしい茶色の毛むくじゃらが、舌を出して鳴き声をあげていた。
「はわわわ……撫でてもいいの?」
「わふん!」
わたしはそっと頭をなでる。もっふもふだ。幸せの感触だ。
「むー……浮気なのです!」
「へ?アウルムちゃん?」
「アウルムをもふるって言ったのです!」
「そ!それはもちろんしたいわ!」
わたしはすぐにアウルムちゃんの頭も撫でる。
「ふふふー、犬っころには負けないのです」
「わふん!わん!わん!」
小さなオーダーちゃんが、わたしとアウルムちゃんを交互に見てから、自分も自分もと騒ぎ出す。
「ああ!怒らないで、よちよち」
「くぅーん♪」
「アウルムを撫でるのです!」
「ああ!もちろん!」
「わん!」
「へへへ……」
2人のもふもふにすごく求められて、幸せの絶頂を迎えつつあった。
なんて幸せなもふもふ空間なんだろう……昇天しそう……
「あー……お嬢ちゃん?大丈夫かい?」
さっきの犬耳管理者さんがおそるおそる話しかけてきた。
「ダメかも……」
「と、とりあえずパートナー契約したら?」
「どうすればできるのかしら?んふふ……」
「そいつと見つめあって、パートナー契約したいって考えればいいだけだよ……」
「わかったわ……ありがとう、くるしゅうない」
「お、おお……」
「アウルムちゃん、あとでもっと撫で撫でするから、ちょっといいかな?契約しないとだから」
「むー……わかったのです。アウルムは大人だから我慢できるのです」
「いい子ね。よしよし」
最後にひと撫でしてから、ひざに手をついてるわんちゃんもとい、オーダーウルフちゃんに向き直る。
その子は、室内で飼うような小型犬で、犬種としては、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの見た目によく似ている。
毛の色は綺麗な茶色で、垂れたお耳に白いペンキがぶちまけられたような模様がついていた。なんだか、茶色い毛並みがチョコレートで、白い模様がクリームが溢れたみたいな感じで美味しそうに感じる。
それはそうと、早くもふりたい。
じゃなくって!えっと契約、契約ね。
『わたしは、あなたとパートナー契約を結びたいです』
オーダーちゃんの目を見てそう念じると、
「わふん!」
そうひと鳴きしたら、その子の首が光り出した。
「なになに!?」
「大丈夫なのです。アウルムのお友達契約みたいなものなのです」
「な、ならいいけど……」
少ししたら首の光は弱くなり、ポンっという小さい音とともにその子の首に真っ赤な首輪が現れた。
「首輪?」
「犬っころなのです」
「わん!ぐるる……」
アウルムちゃんの発言になんだか怒ってるようだ。
「あらあら、仲良くして、よちよち」
「わふんっ」
微妙に納得してなさそうだが、とりあえず静かになる。
「おっ、ちゃんと契約できたみたいだな。そいつを連れて、こっちきてくれ」
「あ、はぁーい。おいで?」
「わふん!」
わたしが手を広げると、素直に腕の中に飛び込んでくれた。
「わぁ……柔らかい……」
大事に大事に触りながら抱き上げる。オーダーちゃんはわたしの腕の中にすっぽりとおさまっていた。お腹を見せてお姫様抱っこされている。
「あらぁ……服従しちゃったのかちら……んふふ……」
つい変な笑みを浮かべてしまうが、隣のアウルムちゃんがムッとしてるので、褒めすぎないようにして、受付の方に移動した。
「よし、じゃあ、この登録届けに名前を書いてくれ」
犬耳管理者さんに渡されたのは、オーダーウルフとの契約者登録届け、と書かれた用紙だった。名前を書くところしかない。
「名前書くだけでいいんですか?」
「ああ!」
「でも、この子は?」
わたしは腕の中のオーダーちゃん、あれ?そういえば名前なんていうのかしら……
「この子の名前とかって、書かなくていいんですか?」
「名前?名前は契約者が好きに決めるもんだからな、そいつらには肉球でサインしてもらう」
「わん!」
そうだぞ、というように鳴くワンワン。
「ふむ?じゃあ、とりあえずわたしから」
言いながら、オーダーちゃんを受付のカウンターに下ろして、フラン・ペソと記入する。
「ありがとよ!ほい!次はおまえさん」
「わん!」
犬耳管理者さんが手のひらサイズのでっかい朱肉を横に置くと、オーダーちゃんがそれに前足をつけて、フラン・ペソの横にポンっ!と押した。お犬様の肉球サインが押印される。
こういう正式な書類に肉球がついているのは少しシュールで、でも、すごく可愛らしかった。
「あらぁ……お利口さんなのね……」
「わふん!」
なんだか自慢気にしてて愛らしい。
「よし!これで登録完了だ!あとはそいつと一緒に採掘ギルドにいけば、採掘許可証を発行してもらえるぞ!」
「わかりました。ありがとうございます。採掘ギルドって、今日中にいかなくてもいいですよね?」
「それはいいけどよ。あ、ちなみに町から出ようとすると、だいたいのオーダーウルフは契約を解除してくるから気をつけな。町からは出たくないやつが多いからよ」
「へー。あ、そうだ、この子の名前はわたしが好きにつけていいんですよね?」
「ああ!契約を結ぶたびに名前をつけることになってる!そいつはお嬢ちゃんが初契約だけどな!」
「あらあら、わたしがはじめてなのね。よちよち」
「わふん!」
頭を撫でつつ抱き上げる。この子のはじめてがわたしでなんだか嬉しい。
「じゃあ、これで失礼しまーす♪」
「おう!ベルルクのためにたくさん鉱石を掘ってくれよな!」
「はぁーい♪」
「むー……」
「アウルムちゃん、怒らないで、わたしは2人とも大好きよ♪」
「そいつは犬っころなのです!人じゃないのです!」
「わんわん!グルル!」
「あらあら、よちよち、ケンカしないでね。はい、いいこいいこ。アウルムちゃん、行くわよ」
「……はいなのです」
わたしが右手を差し出すと、大人しく手を握ってくれた。
腕の中にはもふもふ、右手にはもふもふ幼女、最高ね!
わたしはルンルン気分で宿に戻ることにした。
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