第41話 旅立ちと振り出しに戻る?
巨大ゴーレム襲撃の2ヶ月後、採掘ギルド周辺の復興がある程度済んだのを確認してから、わたしたちは、ベルルクを出発する準備を整えていた。
宿で身支度をしていると――
「フランお姉さん、転生の間への扉を出すのです」
アウルムちゃんが腰に手を当てて、悪い子どもを叱るような顔をわたしに向けてきた。
「……」
「フランお姉さん?」
「……はい」
わたしは、決まったことのはずなのに、ゆっくりとした動きで通行税を払う。2人を連れて、転生の間を経由して、ミラヴェルクへと赴いた。
「じゃあ、この鉱石は、元あった世界に戻すのです。いいですね?」
「はい……」
わたしの同意を聞いてから、アウルムちゃんが宝箱から鉱石をどさどさと取り出し、地面に転がす。
「なにしてるんだー?せっかく取った鉱石だぞ?」
「えっとね、十分儲けさせてもらったから、取り過ぎた分は返そうってことになったでしょ?」
「わふ?そうだったっけ?ドルチェ忘れたぞ」
「そっかそっか、まぁ……うん……忘れちゃったならしょうがないわね、あはは……」
ドルチェが忘れたと聞き、若干、アウルムちゃんも忘れてれば、なんて思ってしまう、悪いわたしがそこにいた。
「フランお姉さん?なに変な顔してるです?」
「いえ……なんでもありません……」
「もう……フランお姉さんが言ったのですよ?〈わたしたちがミスリルを持ってき過ぎたせいだから、残りの鉱石は返しにいきましょう〉って、覚えてるですよね?」
「はい……その通りです……」
「じゃあ、いつまでもしょんぼりしないでくださいなのです」
「でもでも!だって!この鉱石を売ったら!金貨8000枚以上になるのよ!そんな大金を手放すなんて!」
「そんなにお金が欲しいのなら、あの巨大ゴーレムを倒した報酬をもらえば良かったじゃないですか?いらないって断ったのは、フランお姉さんなのです」
「だって!わたしのせいで発生した災害を自分で退治して報酬もらうなんてズルいじゃない!」
「はぁ……アウルムは、フランお姉さんのズルいの基準がよくわからないのです」
「すみません……」
「アウルム!ご主人様いぢめるな!ドルチェが退治してやる!」
「いぢめてないのです!話をちゃんと聞くのです!ドルチェのバーカ!」
「わふ!?バカって言ったな!がるる!」
「ふ!2人とも!わたしのために争わないで!」
睨み合う2人の間に、わたしは割って入った。両手を広げて、2人を制する。
「フランお姉さんは黙ってるのです!」
「ご主人様は黙ってろだぞ!」
なぜか怒られてしまった……
わたし、悪くないのに……
その後、2人のことをよしよしとなだめて、わたしたちはミラヴェルクを後にした。
往復するのにかかった通行税、金貨15枚、何も得られないどころか、鉱石を返却するためなんて、マイナスもいいとこだ。
そう考えると、通行税がめちゃくちゃ高く感じるわたしだった。
♢
ベルルクの宿に戻ってから、旅の支度を整えて、採掘ギルドへとやってくる。
ギルド前につくと、以前とは様変わりした採掘ギルド内で、職員の人たちが以前と同じように働いていた。
巨大ゴーレムによって、崩落した洞窟ハウスは、天井がえぐれて無くなっていたが、代わりに新しい木造の屋根が作られていた。
室内には以前と同じように受付用のカウンターが並び、鉱石の買取表や、どの採掘場が開いてるかなどの情報も掲示されていた。
中に入って、キョロキョロしていると、
「これは!英雄フラン様ではありませんか!」
「フランちゃんよ!」
「ホントだ!かわいいー!」
わたしのことを見つけたギルド長の声に釣られるように、受付のお姉さんたちから黄色い声を上げられてしまった。
「わふわふ!ご主人様!人気者だな!」
「あはは……」
マッチポンプで人気者になったわたしは気まずい気分になる。
「フラン様!今日はどのような?あ、もしや、出立されるのですか?」
ギルド長が近づいてきて、すぐに察してくれる。
「はい、ギルドの復興も見届けれたので、そろそろ王都に向かおうかと」
「作用ですか、この度は本当にお世話になりました。ミスリルの取引だけでなく、災害級のモンスターの討伐、そしてその死骸から発掘された大量の鉱石を寄付いただけるとは……フラン様には感謝の念しかありません」
何度も下げられた頭をまた下げさせてしまった。
「いえいえ、わたしはたまたまここにいて、あいつを倒す術を持っていただけですので」
実際には、わたしのせいであのゴーレムが出てきたんだけど……
「なんと謙虚な方だ……ギルド職員一同、いえ、ベルルクの町一同、フラン様に感謝しております」
「あはは……そんなに気にしなくていいですよ……」
だって、わたしのせいだから……
「えっと、王都についたら、王城に行ってこの採掘許可証とオルバさんの手紙を渡せばいいんですよね?」
わたしは、今まで採掘場に入るために使っていた宝石型の許可証と手紙を見せて確認する。
「ええ、その2つを見せれば伝わるようにしてある、と聞いています」
「わかりました。色々とありがとうございました」
「こちらこそ!旅のご無事をお祈りいたしております!」
こうして、わたしたちはギルド職員の人たちに見送られてその場を後にした。
「この長い階段も、今日で最後なのですね」
「そうねぇ」
ギルドからくだる長い長い階段、町の中に複雑に配置された階段を一望しながら答える。
「これでクタクタにならずに済むのです!」
「そうねぇ、疲れるもんね」
「わふわふ!ドルチェは平気だぞ!」
「ドルチェはいっつも元気で偉いわね」
「わふん!」
元気なドルチェの声を聞きながら、わたしたちは、のんびりと町の1番下までおりてくる。そして、王都行きの馬車に乗り込んだ。王都まで1ヶ月くらいかかるらしい。長旅だが、不安はない。だって……
「わふわふ!ドルチェ!町から出るのはじめてだぞ!」
膝の上に乗ったドルチェが窓の外を眺めて楽しそうに言う。
「ついてきてくれてありがとうね?ドルチェ。わたしはそれが1番嬉しいわ」
「わふん?当たり前だろ?ドルチェはご主人様とずっと一緒だぞ!わふわふ!」
尻尾をふりふりしながら、ほっぺに頬擦りしてくれた。いぬ耳がもふもふと当たって気持ちがいい。
かわいすぎるので、頭を撫でていると、自然と笑みが浮かんできた。
「アウルムもずっと一緒なのです!」
反対側からうさ耳ちゃんももふもふしてくれる。
「あらぁ……んふふふ……」
だって……だって、わたしには、こんなに可愛いもふもふ幼女たちがついているんだから。だから、旅に不安なんてない。
この子たちがいてくれたら、わたしは幸せよ。
……でも、やっぱり、1億3000万は……高かったなぁ……
わたしは、馬車の車窓から、ベルルクの町を眺め、自分がぶっ放した殲滅魔法のことを思い出していた。
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