第42話 うさ耳といぬ耳と仲良し(意味深)

-ベルルクを旅立ったその日の晩-


「しくしく……しくしく……」


 乗り合いの馬車から降り、全員が就寝用のテントで眠る準備ができたあと、一つのテントの中からうら若き女性の泣き声が聞こえてきた。


「くんくん……ご主人様?なんで嘘泣きしてるんだ?」


「……」


 わたしが寝袋を抱いて泣いているのに、ドルチェが鋭いことを言ってくる。

 ぐぬぬ……鼻のきくわんちゃんね……


「フランお姉さん?なんなのです?言いたいことがあるなら、はっきり言うのです」


 アウルムちゃんが覗き込んできて、呆れ顔をしていた。


「……億万長者の夢が崩れてツラい……」


「はぁ……またそれなのですか……でも、所持金は増えたじゃないですか?それで満足するのです」


 たしかに、アウルムちゃんの言うとおり、所持金は増えた。


 マーレルを出たときには、200万だったのに、今は1200万くらいある。数ヶ月での成果としては十分だろう。


「でも!一時は1億こえてたのに!」


「フランお姉さんが自分で金貨をバクバク食べたせいなのです」


「だって!殲滅魔法の代金を払えってゲバ爺が!」


「神様のことを悪く言っちゃダメなのです」


「神様ってなんだー?」


「ドルチェは黙ってるのです」


「いやだ!ドルチェもお話しする」


 2人がケンカしそうになる。そこでわたしはそれはもう大袈裟に凹むことにした。


「ああ!つらい!ツラいわ!わたしがこんなにツラいのに!いっつも2人はケンカして!ツラいなー!……チラッ」


 わたしの大声に2人は睨み合うのをやめ、若干気まずそうにする。


「……わかったのです、ケンカしないようにするのです……」


「アウルムがドルチェのことバカにするからだぞ……」


「ドルチェ?ドルチェはいい子よね?」


「わふん……ケンカしないぞ……」


「そう!そうよね!わたしは2人が仲良しなのが1番いいと思うの!それでね!相談なんだけど!ツラいわたしに癒しを与えてくれないかしら!」


「わふん?」


「癒しってなんなのです?」


「2人のこと!グルーミングしたいの!」


「……あれなのですか……」


「わふわふ!ドルチェはいいぞ!きもちいいからな!」


 アウルムちゃんはジト目で、ドルチェは笑顔だった。


「お願い!アウルムちゃん!」


 両手を合わせてお願いする。


「まぁ……フランお姉さんがそれで癒されるなら……」


「ありがとね!それじゃあ2人ともそこに寝て!」


 言うが早いか、2人の寝袋をピッタリと横に並べて、寄り添うように仰向けになるよう促す。

 2人はその通りにしてくれた。


 もふもふ幼女がパジャマ姿でわたしの前に寝転んでいた。


 アウルムちゃんは、長袖短パンのもふもふパーカーで、薄いピンクと白のボーダー柄だ。以前と同じものだけど、とっても可愛い。


 ドルチェには、下がズボンになっているワンピースタイプのパジャマを着てもらっている。柄はドルチェが大好きなドーナツの柄だ。カラフルなドーナツが白ベースのパジャマに散りばめられている。ダボダボサイズなので、着ぐるみっぽくて愛らしい。


 そんな2人を眺めながら、わたしはグルーミンググッズを並べてスタンバイした。


「それじゃあ、爪の手入れからさせていただきます♪」


 パチ……パチ……シャリシャリシャリ……


 2人の爪を切って順番に研ぐ、そしてお手手のマッサージだ。


「わふ〜……やっぱりきもちぃぞ……」


 ドルチェはすでに眠たげな顔だ。


「た、たしかに気持ちいいのです……」


 アウルムちゃんも、瞼が重くなってきたみたいだ。


「んふふ♪それじゃあ次は足の爪ね♪」


 同じように足の爪の手入れをして、足の裏から、ふくらはぎにかけてマッサージしてあげると、


「わふ〜……」


「うみゅ〜……」


 2人はトロ顔になってしまった。んふふ……かわいい♪


「それじゃあ、ちょっと音が鳴りま〜す♪」


 わたしは音叉をとって、ボーーン、と低音を鳴らす。


「はわわわ……」


 うさ耳の周りをゆっくり動かして低音を聴かせると、アウルムちゃんがブルっと震える。


 ボーーン……


「わふ!?……わふわふ……」


 ドルチェもプルプル震えていた。


 それから入念なお耳ブラッシングだ。2人専用のブラシでそれぞれブラッシングしてあげて、かわいい犬耳とうさ耳もマッサージしてあげる。


「うと……うと……なのです……」


「くぅ〜ん……」


 2人はもう、夢の中に旅立とうとしてる。


 これなら……


 キュッポッ


 リップクリームを両手に構えて、2人を覗き込んだ。


「アウルムちゃ〜ん、ドルチェ〜、リップ塗るからね〜、ちゅ〜ってして〜」


「……ちゅー……なのです……」


「わふ?……ちゅー……」


「あわわわわ……」


 もふもふ美幼女のきちゅ顔!きちゃー!


 いかんいかん……わたしの中のおじさん、静かにしなさい。


 むちゅ♡


 わたしは心を落ち着かせて、キス顔の幼女にリップを塗り塗りした。


 そしてまたマッサージを再開する。


 しばらくすると――


「……すぅ……すぅ……」


「わふ……むにゃ……お腹いっぱいだぞ……」


 2人は夢の中に旅立った。


 わたしがニコニコしていると、


「わふん……」


「ふみゅ?……すぅ……」


 ドルチェが寝返りをうって、アウルムちゃんに抱きついた。ドルチェがアウルムちゃんを抱き枕にしているのだ。


「と、尊っ……」


 ついつぶやいて、両手を合わせてしまう。なんて尊い生き物たちなの……


 可愛すぎて尊死しそうだった。


「ああ!風邪引かないようにしなきゃ!」


 さっとタオルケットをかける。今日は温かな夜だ。これで十分だろう。


 ありがとう、ありがとう、神様、わたしを転生させてくれて……


 わたしはしばらく、その尊い生き物たちを眺めながら感謝をつぶやくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る