第40話 大金持ちになったりゴーレムが襲撃してきたり

-1ヶ月後-


 採掘ギルドから、残り1トンのミスリルの買取準備ができたと連絡が来たので、3人でギルドに向かうことにした。


 この1ヶ月、わたしたちは、結局、採掘場には行かなかった。もう十分すぎる鉱石は採掘できてたし、暗い洞窟はやっぱり怖いからだ。お金儲けが絡まないと我慢できないのである。


 なので、わたしたちは、ベルルクの町中を探検したり、町の外に出てピクニックを楽しんだり、たまにグルーミングさせてもらったり、それはもう悠々自適に過ごさせてもらった。


 理想のスローライフ、理想のもふもふライフであった。


 あぁ……一生こうして過ごしていたい……


 そして、その夢は今日、現実に近づくこととなる。



-採掘ギルド ギルド長の執務室-


「こんにちは〜♪」


「これはこれはフラン様、ようこそおいでくださいました」


 ギルド長の執務室に入ると、今日は余裕を持った態度で迎え入れてくれた。以前のように頭を下げられると居心地が悪いので、なによりである。


「フラン様のおかげで、次期国王候補様への貢物は順調に製作できております。職人たちもこんなに純度が高いミスリルは久しぶりだと驚いておりました」


「そうですかそうですか♪それは良かった♪」


「ふふ、それでは、約束通り、残り1トンのミスリルを買い取らせていただきます。そのことに心奪われてるようですし」


「あはは、すみません。現金な性格なもので」


「いえいえ、商売を営む者として当然のことです。それでは、こちらの台車に分けて納品いただけますか?」


「はいなのです!」


 アウルムちゃんが元気よく手をあげて宝箱を召喚してくれた。そして、指定された複数の台車に小分けにしてミスリルを入れていく。


「やはり、何度見ても素晴らしいですな、魔法というのは。男性数十人がかりで運搬する量をアウルム様のような可憐な少女がこうも軽々と……」


「えっへん!なのです!」


「やはり、このように大量のミスリルを手に入れられたのは、フラン様とアウルム様のコンビあってこその成果ですな」


「わふわふ!ドルチェも!ドルチェも頑張った!」


「ドルチェ?ああ、あのオーダーウルフさんのことですね?もちろんでございます。鉱脈を見つけた1番の功労者でございましょう。して、あの子はどこに?」


 ギルド長は、ドルチェの姿を探すが見当たらない。なぜなら、ドルチェは人間の姿になっているのだから。


「あ、あはは……ドルチェはお留守番です〜」


「ご主人様?ドルチェはここに……ふが?ふがふが!」


 人間姿のドルチェが、自分はここにいるぞ!とばかりに騒ぎそうになるのでお口を塞ぐ。変身できるってのは内緒だって言ったよね?ねぇ?


「終わったのです!」


 アウルムちゃんの声に台車の方を見ると、10台以上の台車がミスリルでパンパンになっていた。


「たしかに、ありがとうございます」


 その後、受付の人たちがやってきて、ミスリルの総重量を計測してもらい、1トンを超えていることを確認してもらった。余分な数グラムはサービスしておく。


「それでは、こちらがミスリル1トン分、聖金貨で70枚になります」


 マーレルで見たのと同じように、聖金貨が1枚ずつ透明なケースに入れられて、並べられていた。


「確認させていただきます。アウルムちゃん、お願いね」


「はいなのです!1枚、2枚………70枚、たしかに70枚あるのです!」


「ありがとう。それではオルバさん、これで取引完了ということで、この度はありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ、高純度のミスリルをありがとうございました。それで、このあとフラン様たちは、ベルルクを発たれるのですか?」


「ええ、そのつもりです。オルバさんのおかげで例の宮廷魔道士さんも会ってくれることになりましたし」


 そう、この1ヶ月のうちにオルバさんからの手紙が魔法道具職人の元に届き、会ってもいい、という手紙が返ってきたのだ。


「そうですか。採掘ギルドとしては、Sランクハンターのフラン様たちが抜けるのは喜ばしいことではありませんが、どうかお気をつけて」


「ありがとうございます。お世話になりました」


「いえ、こちらこそ大変お世話になりました。もし、またベルルクにお越しになった際には、フラン様の在庫鉱石も買い取らせていただきます。きっとまだ、持ってるのでしょう?」


「あはは、それはどうでしょう?まぁでも、そのときは高値で買い取ってくださいね♪」


「ははは、フラン様には敵いませんな。それでは、ベルルク採掘ギルド一同、いつでもご帰還をお待ちしております」


 そう言ってから、大きな身体を曲げて頭を下げてくれるギルド長、わたしたちも同じように頭を下げて、その場を後にした。



「んー!ついに億万長者ねー!満足ー!」


 わたしは、ギルドを出たところで伸びをして、両手を空に掲げた。万歳のポーズだ。


 わたし!億万長者!万歳!所持金1億4000万!!


「アウルムも!収納魔法をいっぱい褒めてもらえて満足なのです!魔法の凄さがみんなに伝わったのです!」


「ドルチェはドルチェは!えっと……えっと……ご主人様と会えて幸せだぞ!それとなそれとな!ご主人様大好きだぞ!」


「あらー!なんて可愛いのかしらこの子ったら!わたしも大好きよ!ドルチェ!」


 可愛いことをいうわんわんをすかさず抱き寄せた。


「わふわふ!」


「むー!アウルムもフランお姉さんと会えて幸せなのです!」


「あらあら!」


 わたしは両手にもふもふで幸せ満載だった。抱き寄せた2人からもふもふの香りがしてくる。


「しあわ……」


 しあわせ、そう呟きかけたところだった。



「な!なんだなんだ!?」

「何でこんなにミニゴーレムが!!」

「誰でもいい!ピッケルで倒せ!!」

「でも!こんな大群!無理だ!!」



「………」


 ギルドの真下にある、採掘場から騒ぎが聞こえてきた。


「ふぅ……」


「フランお姉さん!あれを見るのです!」


「う、うん……」


 わたしは嫌な予感を、不安を押し込めて、冷静に下を覗き込んだ。


 そこには、採掘場から溢れ出す数百体のミニゴーレム、わらわらと大群をなして、とめどなく溢れ出てくる。


「……」


「ぐるる……ドルチェがやっつけてやるぞ!!」


 ガシッ!


「待ってね?ドルチェ」


 駆け出そうとするドルチェの首根っこを掴んでステイさせる。


 ミニゴーレムの大群、嫌でも、マーレルでシードラゴンに襲われたことを思い出した。


 あのとき襲撃された原因は、シードラゴンの卵を密輸した組織がマーレルに卵を持ち込んだことが原因だと町長から聞いていた。


 つまり、あのミニゴーレムの大群にもなにかワケがあって襲撃を行っているのだと予測する。


「フランお姉さん!どうするのですか!?」


「どうしようかしら……」


 わたしは、嫌な予想を巡らせながら、2人の手を引いて、少しギルドの入り口を離れた。


 ミニゴーレムたちが採掘場から階段を上がり、採掘ギルドの中に入っていく。彼らに攻撃力はない。まだ放っておいても大丈夫だ。


「きゃー!だれかー!倒してよー!」

「いて!いてて!なんだこいつら!パンチしてきやがる!」

「あ!おい!そのミスリルはさっき買い取ったばかりの!」

「お!おまえたち!それがいくらしたと!ああ!なにしてる!」


 ギルド長の叫び声を聞いて、確信した。


 わたしのせいだ。


「……すぅぅぅぅ……」


 正直に言おう。

 なんというか、前兆は感じていた。

 ミラヴェルクに行って帰ってくるたび、ミニゴーレムに襲われていたからだ。


 それに、どんどん、数も多くなっていた。

 でも、「たまたまでしょ。それに危険は少ないでしょ。弱いし」と自分に都合よく解釈していたのだ。


 ミニゴーレムは、鉱石を大量に採掘すると現れて襲ってくると聞いていた。


 ついさっき、わたしはアウルムちゃんにお願いして、1トンものミスリルを一気にこの世界に解き放った。


 たぶん、それが原因だ。


 つまり、わたしが大量のミスリルを別世界から持ち込んだせいで、ミニゴーレムはミスリルに誘われるように襲撃してきたのだ。



「フランお姉さん……あれ、アウルムたちのせいなのでは……」


 察しのいい幼女が不安そうにする。

 キミのように察しがいい……いや……やめよう……察しのいいアウルムちゃんも大好きよ……


「大丈夫よ、わたしが何とかするから」


 わたしは覚悟を決めて前を向いた。


「わぁぁぁ!にげろー!」

「あんな!あんな巨大なゴーレム俺たちじゃどうにもならない!!」


 ギルドの中から職員たちがどんどんと逃げてくる。そして、ギルド長も。


「フラン様!お逃げください!ミニゴーレムがミニゴーレムたちがミスリルを食べて巨大化して!」


「いえ、わたしが倒します」


「た、倒す!?そんなことが可能なのですか!?いや!今は逃げましょう!危険です!」


 ゴゴゴゴゴ……


 逃げろというギルド長の声を遮るように地響きが聞こえてきた。


「な、なんだというのだ……この地響きは……」


 ギルドの中を見る。ギルドの中は明るかったはずだ。壁一面に設置された光る水晶の光があるはずだった。でも、それも全て消えている。


 バキン…バキバキ…ゴゴゴゴゴ……


 ヒビが入るような音、そしてまた地響き、ギルドの天井が崩落していってるのがわかった。


「フラン様!」


 ギルド長の声を聞いてから、少し距離を取る。


 階段を数段降りて、振り返るころには、ベルルクの町の最上階に位置する採掘ギルドは崩れ去り、山の中から巨大なゴーレムが姿を現していた。


 山と同化したように思えるほど巨大なそいつは、町全体を覗き込むように空を覆った。

 デカい。大怪獣だ。


 あんなのが暴れたら、町は滅ぶだろう。

 だって、町よりも大きい、山のような巨体だから。


『ゲバ爺!力を!』


 わたしは目をつむって、心の中で叫んだ。


 すると、暗闇の中にショップメニューが現れた。マーレルのときと同じだ。


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【儂のすんごい力一覧】

 ・なんかすごい殲滅魔法:1億マーニ

 ・めっちゃ強くなれる身体強化:5000万マーニ

   :

   :

 ・コインガン」SOLDOUT

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『なんかすごい殲滅魔法を頂戴!』


 そう念じてから、「アウルムちゃん!金貨を!」と叫ぶ。


「またなのです!?」


「いいから!」


「はいなのです!」


 宝箱からお金を出してもらい金貨を食べに食べた。1億だ。


『儂からのアドバイスじゃが、ここで殲滅魔法を使うと町が滅びるぞい?』


『じゃあどうすればいいのよ!?』


『〈だいたい防げる守護結界〉も買うとよいぞ、セット価格で1億3000万にまけといてやろう』


『高い!でも買った!』


 そしてわたしは、2つの魔法を購入し、構える。


「だいたい防げる守護結界!!」


 叫ぶ。


 すると、山のような巨大ゴーレムを囲うように、星型の魔法陣が何十個も現れた。


 魔法陣たちは、ゴーレムを挟むように展開する。

 挟まれたゴーレムは身動きがとれなくなり、苦しそうに腕を広げようともがいていた。しかし結界は破れない。


「いくわよ!なんかすごい!殲滅魔法!!」


 叫ぶと、頭の中に呪文のようなものが思い浮かんだ。


 世界が、空が暗くなっていく。


 リーンゴーン……リーンゴーン……


 暗雲の中から巨大な金の鐘が現れ、鐘の音を響かせる。


『はい詠唱、どうぞなのじゃ』


「すぅぅぅ……この世の全てはだいだいお金でなんとかなっちゃう!さぁ!全てを洗い流すのよ!ゴールドラッシュ!!」


 なんて詠唱だ。そう思う間もなく、空に浮かんだ鐘が、崩れ、金貨の束となった。


 その金貨の束が、思い切り蛇口を捻って水が流れ出るような、そんな強烈な勢いをつけて、地面に迫ってくる。


 大量の金貨の束が、まず最初にぶつかるのは、ゴーレムだった。


「ガァァァァ!!」


 バキバキ!!バキバキ!!


 ゴーレムの雄叫び、金貨がゴーレムにぶつかり、身体を削り取る音、そして、溢れかえった金貨をせきとめる守護結界。


 結界に触れた金貨は消し飛び、町に被害は出さない。


 空から滝のように流れる金貨は、数十秒その勢いのまま流れ続き、ゴーレムの雄叫びが聞こえなくなったころに、すぅっと姿を消した。


 暗雲が晴れていき、世界が明るくなる。


 ゴーレムがいた付近には、さまざまな鉱石が散らばっていた。あいつの残骸だ。


「……な、なんとかなったかしら?」


「あわわわ……やっぱりフランお姉さんはすごいのです……大魔法使い!ううん!もっと!伝説の大魔法使いなのです!」


「い、いや……アウルムちゃん?これは違くて……」


 わたしは、わたしのことを褒め称えるうさ耳ちゃんを制しようとする。しかし、その波は止めれなかった。


「フラン様!なんということでしょう!伝説の大魔法使い!フラン様を称えよ!この町をベルルクを救ってくれた英雄だ!」


「フーラーン!!」

「フーラーン!!」

「フーラーン!!」


「……」


 わたしの周りで大勢の人たちが歓声を上げている。


 わたしは呆然と死んだ目でそれを見ていた。


 だって、あれって……ゴーレムが襲ってきたのって……


 わたしのせいだから!!

 ごめんなさい!!

 お金儲けに目が眩んで!!

 本当に!!ごめんなさぁーーい!!



 心の中で叫ぶわたしだったが、どんなに葛藤しても、全てを正直に話す勇気はなかった、とさ。

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