第37話 大金を手に入れる道筋

-採掘ギルド ギルド長の執務室-


「はじめまして、フラン様。私、採掘ギルドのギルド長を務めております、オルバ・レグルスと申します」


「は、はじめまして……」


 わたしたちが招かれた執務室には、ムキムキマッチョな巨漢がピチピチのスーツに身を包んで待ち構えていた。


 執務室の椅子に座り、執務机に両手を重ねておいて、わたしたちに頭を下げている。頭には巨大な角、たぶんこの人もバッファロー系の亜人なのだろう。わたしの2倍以上ありそうな巨体で、目つきも鋭いので、正直怖い。


「こわいのです……」


「ぐるるる……」


 アウルムちゃんはわたしの後ろに隠れ、ワンチャンモードのドルチェは、わたしの隣で威嚇の声をあげていた。


「なんだか……怖がらせてしまってすみません……この見た目ですと、皆さん萎縮してしまって……スーツを着てもダメみたいですね……」


「へ?」


 バッファローギルド長がしょんぼり顔をする。その巨体に見合わず、繊細な人物なのかもしれない。


「あー……えっと、すみません。正直、オルバさんの迫力に圧倒されてました」


「そうですよね……しょぼん……」


「あはは……それで、ご用件はなんでしょうか?」


「……そうですね。気を取り直して、さっそく本題といきましょう」


 ギルド長がしょんぼり顔をやめ、キリッと真面目な顔になる。


「ごくり……なのです……」


 わたしたち一同に緊張が走る。ミラヴェルクで鉱石を掘りまくってることがバレた、なんてことはないはずだが、一体何を言われるのか。


「フラン様、あなた、ずばり、鉱脈を見つけましたね?」


「え?鉱脈?」


「またまた、そんな顔したって誤魔化せませんよ?」


 マジで何のことを言ってるのだろう?


「この1ヶ月で、あれだけ純度の高い鉱石ばかり納品して、しかも潜っている採掘場は①番ばかりだ。これはもう、鉱脈を見つけたとしか思えません」


 ふむ?なんだかよくわからないが、都合よく勘違いしてくれているようだ。別世界から鉱石を輸入してるとは思いつきもしないのだろう。


 ちなみに①番の採掘場ばかり潜ってるのは、たんに階段を上り下りしたくないから、それだけである。


「それでですね、ご相談があるのですが……」


「んー、鉱脈の場所を教えろ、とかなら拒否しますよ?」


「ははは、フラン様、我々もそのようなことは申しません。採掘権は許可証を持った皆様にあります。それに、鉱脈を発見したら、それを独占したいというのは道理、横取りなど滅相もございません」


「なるほど、話がわかる人でよかったです。まぁ、鉱脈の位置情報を買取りたい、という話なら聞いたかもしれませんけどね?」


「ははは、フラン様はお若いのにしっかりされていますな。お年を伺っても?」


「に…」

 29そう言おうとして黙る、わたしは転生したのよ!


「17歳です⭐︎」


「そうですか。その若さで素晴らしい。交渉の術を理解されている。

 そうですな。実は当方としても、鉱脈の情報を買い取ろうという話が出たのですが、今はオーダーウルフと契約できている職員が少なくてですね……アウルム様の魔法も存じておりますので、このままフラン様に採掘いただいた方が効率が良いだろう、という結論になりました」


 ふむふむ、つまり、アウルムちゃんの宝箱魔法の輸送力も買ってくれている、ということか。


「さすがアウルムちゃんね」


「ふふん!アウルムはすごいのです!当然なのです!」


「わふわふ!」


 なんだかドルチェが不満そうだ。抱き上げて頭を撫でて静かにしてもらった。


「えっと、つまりは、わたしたちはそのまま採掘してていいんですよね?じゃあ、なんでわざわざココに呼んだんですか?」


「……フラン様、あなた、本当はもっとたくさん鉱石を持ってるでしょう?」


 ギルド長に見透かされたような目を向けられる。


「……なんのことでしょう?」


「隠さなくても結構ですよ。フラン様が値崩れを気にした売り方をしているのは、ギルド側からしたら一目瞭然です」


「んー?本当かしら?たまたまかもしれませんよー?」


 わたしは話の流れがだいたいわかったが、依然として、とぼけて見せる。手の内は相手から見せてもらおう。


「……わかりました。こちらの要望はこうです。フラン様の持っているミスリルを全て買い取らせていただきたい」


「……いくらでですか?」


「1キロ、金貨6.2枚」


 相場は5.8枚だ、多少色はついている。


「んー……お疲れ様でした。さっ、帰るわよ、2人とも」


「え?でも……」

「わふん?」


「あー!!すみませんでした!!もっと高く買取ります!!」


「んふふ……ほんでほんで?」


 わたしは、死ぬほどいやらしい笑みを浮かべているだろう。自覚はある。でもニヤニヤが止まらない。


「ぐぬぅぅ……1キロ、金貨6.8枚……相場より金貨1枚分多く出します」


「相場の1.2倍弱ですか、悪くないですが、キリは悪いですねー?」


「……わかりました。1キロ、金貨7枚でいかがでしょう?ただし!Sランクの原石だけに限らせていただきたい!」


「ふむふむ、悪くないですね。ちなみに、何キロまで買い取れるんですか?」


「何キロお持ちなんですか?」


「およよ?何キロなんでしょう?たくさんあるかもー?」


「ふ、ふふふ……」


「んふふふ……」


 わたしとギルド町は、ニヤニヤと見つめ合った。


 お互いのカードを見せないように、慎重にことを進めているのだ。でも、相場よりもだいぶ高く買い取ることを約束させた時点でわたしの勝ち確であった。


「実は……次期国王候補の御子息様が成人となられるのが近くてですね。そのお祝いのために、ミスリル製の彫像品を大量に用意することになっているのです」


「でも、ミスリルの在庫が足りなくて困ってる。そうですね?」


「ええ、フラン様にはかないませんな。参りました。……1000キロ、1トンまでは、1キロ金貨7枚で買取りましょう」


「じゃあ、2トンあったとしたら?」


「……あるのですか?」


「さぁ?どうでしょう?……んー、王都に行って直接売っちゃおうカナ?」


「……わかりました。今月に限り、フラン様が持ち込んだミスリル鉱石Sランク原石は、何キロでも、1キロ金貨7枚で買い取らせていただきます」


「ありがとうございます!」


 わたしは右手を差し出す。もうこの巨大なムキムキは怖くなかった。

 わたしの目には、この人の懐にある金塊しか映っていなかったのだ。


「やはり……あなたはやり手のようだ……」


 ギルド長は少し呆れたような、困ったような顔でわたしの手を握る。


 ここに、ギルド直通の買取ルートが形成された。これで、値崩れ云々を気にしてちまちま売る必要も無くなったのだ。


「じゃ!とりあえず1トン買い取りお願いします!」


「え?」


「とりあえず1トン!金貨7000枚!あ!聖金貨70枚でもいいですよ!」


「……いやいや、まさか本当に1トンもないですよね?Sランクのミスリルですよ?Bランクとかはダメですよー?ははは……」


 ギルド長が汗を流しはじめる。


「アウルムちゃん!」


「はいなのです!」


 どさどさどさどさ!!……ゴロン。


 アウルムちゃんの宝箱から、大量のSランクミスリルが転がり出てくる。


 わたしたち3人はドヤ顔で、バッファローギルド長の目は点だった。


「今日換金できますかね!?」


「きょ……今日のところは……300キロまででもよろしいでしょうか?」


「全然いいですよ!」


 ということで、わたしたちは、金貨2100枚を手に入れた!


 これは!また億万長者の道が間近に迫ってきているのでは!?そう思える瞬間であった。

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