第38話 買取上限について

 翌日から、わたしたちはせっせとミラヴェルクに通うことになる。


 ギルド長は言った、〈今月に限りミスリルを1キロ金貨7枚で買い取る〉と。今月はあと2週間しかない。ここが稼ぎ時だ。


 そんなこんなで、1週間ほどミラヴェルクに通い詰め、わたしたちは、総重量2トンのミスリルを所持することになる。すでに納品した1トンと合わせると3トンだ。


 つまり、現時点で金貨7000枚を手にしていて、さらに14000枚の交換を待っている状況となった。



「今日もたくさんミスリルとれたな!ご主人様!」


「そうね!ドルチェが見つけてくれたおかげよ!」


「またミニゴーレムがいるのです。5体も。どんどん多くなるのです……」


「ほんとねー、えいえい!」


 わたしは適当にピッケルを振るってミニゴーレムたちをバラバラにする。


「ガウガウ!」


 ドルチェも2体やっつけてくれた。


「なにか、嫌な予感がするのです……」


「まぁまぁ!今日もミスリルの換金よー!」


 ニッコニコで自分を見失いかけていたわたしは、採掘ギルドに戻ると、またギルド長に呼ばれることとなった。大金を手にして、テンションは高めだった。



-採掘ギルド ギルド長の執務室-


「あと1トンで勘弁してください!」


 ギルド長は、今日は執務室椅子に座っておらず、扉を開けたところで待っていたようだ。部屋に入った途端、頭を下げられる。


「えー?どうしちゃったんですかー?」

 ニコニコ。


「さすがにこれ以上相場を超えて買い取ると!ギルドの運営が厳しくなります!」


「んー、でも、王様候補の方にミスリル彫像品を渡すんですよね?そのイベントが終われば、それ以上の見返りがあるんじゃないですかー?」


「それはその通りでございます!しかしですね!ミスリルというのは本来希少価値が高いため!まとまった買い手などなかなかつかないのです!このままだとミスリルの在庫過多に陥ります!」


「ふむふむ?王様候補の誕生日には、どれくらいミスリルを使う予定なんですか?」


「1トンでございます」


「なるほど?つまりそれ以上は供給過多、ということですね」


「その通りでございます」


「でもでもー、約束したのはオルバさんだしなー、今月は金貨7枚でって。ねぇ?」


「まさか1トン以上もあるとは思っておらず!大変失礼しました!」


「いえいえ、そんなそんな、逆にすみません。そんなに頭下げさせてしまって、わたしも鬼じゃないので、オルバさんの申し出をお受けする準備はできていますよ♪」


「よろしいのですか!ありがとうございます!」


「確認なんですが、あと1トンはいいんですよね?」


「……あるんですよね?つまり」


「あります!」


「だ、大丈夫です。あと1トンなら、こちらにも利があります。……しばらく節約生活かもしれませんが……」


「なら良かった!」


 ギルド長は最後にボソリとなにか呟いたが、まぁ利益が出せるなら大丈夫だろう。


 それよりも、今の話を整理すると、わたしの儲けとしては、あと金貨7000枚は手に入ることとなる。この前買い取ってもらった分と合わせると、総額金貨14000枚だ。

 現在のミスリル在庫は2トンなので、残り1トンのミスリル在庫を抱えることになるけど、まぁそれはいいだろう。いつか役に立つかもだし。


「ミスリルの件はいいんですが、約束を反故にしたことに関して、ちょっとした見返りとか、要求しちゃってもいいですか?お金のことじゃないんですが」


「わ、私どもにできることでしたら……」


 ギルド長は汗をかきながら、わたしの言葉を待つ。


「そんな身構えなくても……えっとですね、このピッケルを作った人って、宮廷魔導士の方なんですよね?」


「え?ああ、はい、そう聞いております」


 何の話だ?と首を傾げるギルド長。


「これを作った人とお話ししてみたいんですが、紹介してもらうことってできませんか?」


「ほう?それはまたなぜでしょう?あ、すみません。まずは紹介できるかどうかについて答えます。私の回答としては、要望は出せるが受けていただけるかはわからない、というのが答えになります」


「そうなんですね、気難しい人なのかしら?」


「いえ、そもそも表に出てくる人物ではなく、宮廷魔導士が何人いるかも不明なのです」


「そうなんだ?」


「ええ、ですから、ミスリルの彫像品を納品する窓口の方に話を通すことはできますが、宮廷魔導士の方にお会いできるかはどうか……」


「んー、じゃあ、その手紙にコーラル族の子が魔法について聞きたいって書いてもらえますか?」


「ふむ?アウルム様のことですかな?」


「なのです?」


「そうそう、その通りです」


「フランお姉さん?なんでこんなことを?」


「だって、アウルムちゃん、このピッケルの魔法陣はすごい、作った人に会いたいって言ってたよね?」


「言ったのですが……覚えてくれてたのですね……」


「もちろんよ、わたしはアウルムちゃんのことはなんでも覚えてるわ。なるべくアウルムちゃんのやりたいことは叶えてあげたいもの」


「フランお姉さん……嬉しいのです……」


 わたしの天使がとっても嬉しそうだ。それに、赤い顔でもじもじしてて可愛い。わたしはその仕草を見れただけで幸せだった。


「あの、では、目的としては、魔法について理解を深めたい、研究のため、ということでしょうか?」


「そうそう、その通りです」


「承知しました。私どももアウルム様の魔法には大変注目していましたので、宮廷魔道士の方にもその旨、しっかりと伝えるように努めようと思います」


「それは助かります。よろしくお願いします」


「それでですね……あと1トンのミスリルなのですが、買取りは1ヶ月ほど待っていただいてもよろしいでしょうか?」


「全然いいですよ!」


 ということで、億を超えるお金を得れることが確定したわたしは、軽い足取りでギルドを後にした。


 もう採掘場に潜る必要もないし!あとはのんびり待つとしましょうか!

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