第35話 採掘作業は順調で

「ふぅ、元いた場所に戻れたわね」


 わたしは、ベルルクの洞窟に戻ってこれたのを確認して、安心して息を吐いた。


「え?それどういう意味なのです?……もしかして、戻ってこれる確信が……なかったのですか?」


「え?いやいや……そんなことないわよ?さ、さぁ!今日もちょっといい洋食屋さんに行きましょ!帰るわよー!……あら?」


 わたしがアウルムちゃんのジト目から逃げるように出口に向けて一歩踏み出すと、進行方向に小さく動く生き物を確認した。


「何かしら?誰かのオーダーちゃん?いや、全然違う……」


 その影は、オーダーちゃんのもふもふ具合は全然無くって、カチカチの石の塊だった。人型だ。


「……ゴーレム?」


 ゲームでよく見る、ゴーレムのように見えた。人型の石の塊、でも、すごく小さい。アウルムちゃんやドルチェよりも小さかった。


「受付のお兄さんが言ってた、ミニゴーレムなのです?」


 そういえば、初回の採掘のときにそんな話あったわね、と思い出す。


「がるる……ドルチェがやっつけてあげるぞ!」


「ああ!大丈夫だから!わたしがやるわ!」


 飛びかかろうとするドルチェを片手で制する。小さい子に戦わせるなんてとんでもないわ。


 わたしはピッケルを構え、ゆっくりと近づいてくるミニゴーレムに向かって、


「えいっ」

 とピッケルを振り下ろした。


 ガキン!……ボロボロ……


 すぐに倒せてしまった。ピッケルの一撃を食らったミニゴーレムは真っ二つになり、ボロボロと崩れ、土くれに戻る。


「ホントに弱いのね」


「これなら確かに危険は少ないのです」


「ドルチェでも倒せたぞ!」


「ありがとね、ドルチェ。でも、わたしはドルチェが大切だから戦わせたくないの」


「わふぅ……う、嬉しいけど……でも!ドルチェも戦えるぞ!」


「まぁまぁ、ドルチェには鉱石探しでお世話になりっぱなしだから」


「わふん……わかったぞ……お腹空いたから帰ろ!ご主人様!」


「そうね、そうしましょ。んー、今日買い取ってもらうミスリルは何キロくらいにしようかしら♪」


「売り過ぎると値崩れするですよ?」


「そうね!じゃあ、10キロくらいにしておきましょうか!それでも金貨60枚近くになるわよー!ボロ儲けよー!」


「落ち着くのです。フランお姉さんはお金を持つとダメになるのです」


「じゃあ、アウルムちゃんが監視しててちょうだい♪さっ、帰りましょ♪」


「わふん!お手手繋ぎたいぞ!」


「もちろんよ!」


 わたしがドルチェと手を繋いで歩き出しら、アウルムちゃんも、「むー……」と言いながら、もう片方の手を握ってきてくれた。

 しっかり者で嫉妬深いけど、でもわたしのことを好きでいてくれるアウルムちゃん。わたしも大好きよ、そう思って採掘場を後にした。



 採掘場を出るとき、「お腹空いたから変身したくない!」と駄々をこねるドルチェを嗜めて、オーダーウルフの姿に変身してもらった。


 変身したらもっとお腹が空いたようで、ふらふらになっちゃったので抱きかかえて採掘場を出る。

 とりあえず、受付の人にはドルチェが人に変身できるのはバレなかったみたいだ。


 採掘場に入ったときにいたオーダーウルフが、出るときにいなかったら騒ぎになると思って変身してもらったのだが、腕の中でくったりしているドルチェを見ると申し訳なさが込みあげてくる。

 さっさと、鉱石を買取してもらってご飯にいかねば!



 採掘ギルドに行って、ミスリルを買い取ってもらうと、相場通り金貨58枚を得ることができた。


「ほっくほくね♪」


「ちゃんと考えて行動するのです」


「んふふ♪」


「あんまりやりすぎると怪しまれるのです!受付のお姉さんも、〈ま、またミスリル見つけたんですか……〉って驚いてたのです!」


「そうね♪その通りね♪」


「むー……」


「……くぅーん」


 腕の中のわんわん状態のドルチェが鼻を鳴らす。お腹が空き過ぎて辛いようだ。


「ああ!ごめんね!すぐご飯にしましょ!この前行ったちょっといい洋食屋さんよ!ごーごー!」


「……ごくり……あそこのご飯……すごく美味しかったのです……」


「そうよね!今日くらい贅沢しましょ!」


「……きょ、今日くらいなら……」


 こうして、しっかり者のアウルムちゃんを籠絡して、今日も今日とてちょっとした贅沢をしてしまうわたしたちなのであった。



 翌日からも、わたしたちは通行税を払って転生の間に赴いた。ミラヴェルクでレア鉱石を掘りに行くためだ。


 転生の間に行くのなら宿から直接行くことも考えたが、採掘ギルドの人たちに怪しまれないためにも、ちゃんと採掘場には潜ることにした。


 採掘許可証には、採掘場に行ったことが記録されるみたいだし、なんでこいつは採掘場に潜ってもいないのにレア鉱石をこんなに大量に持ってくるんだ?と怪しまれることを懸念しての対策だった。


「それじゃあ、今日もオーダーウルフちゃんの姿に変身してくれる?」


「わふん!そのかわりオヤツが欲しいぞ!」


「わかったわ、お弁当買うときにドーナツも買っていきましょ?」


「わふわふ!ドーナッツ!甘くて美味しいやつだ!」


「うふふ、そうね、じゃあお願い、ドルチェ」


「わふん!」


 そしてドルチェはワンチャンの姿に変身した。


 ゲバ爺によって人間に変身できるようになったドルチェは、わたしとお話しできることがすごく嬉しいようで、基本的には人間の姿でいることを望んだ。


 しかし、採掘場に潜るにはオーダーウルフちゃんの同伴が必須だ。だから、お仕事の時は変身してもらうことにした。


「今日も稼ぐわよー!」


「わん!」


「……なんだか、すごくズルをしてる気分なのです……」



 今日開いてる採掘場を採掘ギルドにて確認し、採掘場へとやってくる。


 入り口で受付を済ませ、なるべく奥まで歩いてから、転生の間を経由してミラヴェルクへと足を運ぶ。通行税は金貨15枚だ。


「わふわふ!ここは鉱石だらけだぞ!」


 月面に降り立ったドルチェが興奮気味で鼻を鳴らしていた。


「そうよね〜、ちなみにドルチェ、つかぬことをお伺いしますが」


「なんだ?ご主人様?」


「なるべく高い鉱石だけ選んでもらうことってできる?」


 以前の話では、オーダーウルフさんの鼻では鉱石の位置は探せても、種類までは特定できないという話だった。だが、それは洞窟内でのことだ。


 ここミラヴェルクでは――


「見えてるやつなら種類がわかるぞ!」


「やった!さすがね!ドルチェ!」


 そう、ここミラヴェルクでは、月面の上に、鉱石が埋蔵された岩石がゴロゴロと転がっているのだ。


 目がすごく良いドルチェなら特定できると思っていた。


「とりあえず!ミスリルはたくさんあるから!ルビーをお願い!」


「ルビーってどんなのだー?」


「えっとね、赤くてキラキラしてる宝石よ?」


「んー……あれだ!たぶんあれだぞ!」


 ビシッと指をさすドルチェ、やっぱり豆粒のように遠い岩石を指差してる。わたしの目ではルビーかどうかなんてさっぱりわからない。


「ありがと!じゃあ行こっか!」


「わん!」


「やれやれなのです……」


 アウルムちゃんが呆れ顔をしているが、スルーして、今日はルビーを掘る日と決めた。



 2時間くらい掘り回っていると、ルビーが1000キロ近く溜まってしまった。ルビーはSランクの純度の場合、1キロ金貨1.6枚くらいの相場だ。


「アウルムちゃん、このルビーのランクわかる?」


「たぶん、Sランクなのです。ミラヴェルクにはSランクの鉱石しかないのです?」


「んー、この前のミスリルもSランクばっかだったし、そうなのかも。すごい星ね」


 今日掘ったルビーが全部Sランクだとしたら、これだけで金貨1600枚。ミスリルほどじゃないが、2時間足らずの作業でこれはすごい。


「本当にこんなことして大丈夫なのでしょうか……」


 アウルムちゃんがルビーを見ながら不安そうな顔を見せる。


「まぁまぁ!ゲバ爺も許可してるんだし大丈夫よ!そろそろ帰ろっか!」


「もぐもぐ……ドルチェお腹空いた!」


 ドーナツを頬張りながらドルチェが空腹を主張する。


「帰ってご飯にしましょ!」


 少し早いが、わんわんも腹ペコみたいだし、帰ることにしよう、今日の儲けとしては十分だ。

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